アナザー・デイズ 1977
第2章 〜 2 変化(5)
2 変化(5)
初めて見掛けてからすでに、一年近く経っていた。そんな日に、彼は由依美と同じ電車に乗って、なんと彼女と一緒の駅で降りたのだった。
彼が降りようとするのを知って、由依美は慌てて動きを止めた。
――尾いて、行こう!
咄嗟に決めて、彼がホームに降り立ってから、彼女もゆっくり出口に向かう。
ドキドキしたが、最初はそれでも順調だった。
彼が向かった目黒通りは、幸い何度も通ったことがある。それに不思議なくらいゆっくりだから、見失う心配もぜんぜんなかった。
ところが住宅街に入ってからは、さすがに緊張感が増してくる。それでも周りに視線を向けながら、歩みはやっぱりゆっくりなのだ。
――もしかして、ただのお散歩?
なんて思いたくなるくらい、彼は辺りをキョロキョロしながら歩いている。そして何度目かの角を曲がって、彼の姿がいっ時見えなくなった時だ。
何気なく、ただなんとなく……目尻を人差し指で、ちょこんと引っ掻いたのだ。
痒かったのか? 今となっては覚えていないが、とにかく咄嗟に声が出で、由依美はその場で固まってしまった。
いきなりガチャ目になっていて、慌てて左右の目をパチパチしてみる。
――ヒエっ! ウッソ〜!
右目がぜんぜんボケボケで、コンタクトレンズが目から勝手に飛び出していた。
この瞬間に彼を追うことは諦めて、泣く泣く地面にしゃがみ込む。
いくらなんでもスルーは無理だし、
――やっぱり、ソフトにしとけばよかったわ!
歴史がまだ浅いからと、ハードにしてしまった自分を恨んだところで仕方がない。だからさっさと見つけて追い掛けようと、左目だけで必死に地面を睨み付けた。
ところがそれからすぐだった。まるで想定外の出来事で、ある意味これ以上ないってくらいの幸運だ。
きっと、咄嗟の声が聞こえたのだろう。
「うわっ!」だったか、「ぎゃっ!」だったのか、とにかく叫び声が耳に届いて、彼は何かがあったと思ってくれた。そうして由依美の元に駆け付けて、地べたを見つめる彼女に向けて声にする。
「何か、落としたんですか?」
それから一緒に探してくれて、暗くなって別れるまでに、彼の方からいろんな話をしてくれた。
普段は学校の図書館で、閉館ギリギリまで勉強してから帰ることにしている。
そうなると八時過ぎの電車になるが、今日はちょっとした用事があったから早めに切り上げ、ひと駅手前で降り立った。
「ちょっと確認したいことがって、ま、大したことじゃないんだけどね……」
――用事ってなんですか?
そんな由依美の問い掛けに、彼はそう言って、笑いながら住宅街の奥へと消えた。
それからは、顔を合わせば挨拶するし、日に日に会話する時間も増えていく。
そうなると、一気に気持ちが傾いた。
きっと彼の方だって〝まんざら〟じゃない。
そんな気持ちを抑えきれずに、由依美はいよいよ〝清水の舞台〟から飛び降りたのだ。
――付き合って欲しい
帰りの電車で待ち合わせ、現れた彼にホームで必死にそう声にした。
しかし彼の答えは予想外のもので、由依美はそれから、彼と出会さないよう電車の時間も変えたのだった。
初めて見掛けてからすでに、一年近く経っていた。そんな日に、彼は由依美と同じ電車に乗って、なんと彼女と一緒の駅で降りたのだった。
彼が降りようとするのを知って、由依美は慌てて動きを止めた。
――尾いて、行こう!
咄嗟に決めて、彼がホームに降り立ってから、彼女もゆっくり出口に向かう。
ドキドキしたが、最初はそれでも順調だった。
彼が向かった目黒通りは、幸い何度も通ったことがある。それに不思議なくらいゆっくりだから、見失う心配もぜんぜんなかった。
ところが住宅街に入ってからは、さすがに緊張感が増してくる。それでも周りに視線を向けながら、歩みはやっぱりゆっくりなのだ。
――もしかして、ただのお散歩?
なんて思いたくなるくらい、彼は辺りをキョロキョロしながら歩いている。そして何度目かの角を曲がって、彼の姿がいっ時見えなくなった時だ。
何気なく、ただなんとなく……目尻を人差し指で、ちょこんと引っ掻いたのだ。
痒かったのか? 今となっては覚えていないが、とにかく咄嗟に声が出で、由依美はその場で固まってしまった。
いきなりガチャ目になっていて、慌てて左右の目をパチパチしてみる。
――ヒエっ! ウッソ〜!
右目がぜんぜんボケボケで、コンタクトレンズが目から勝手に飛び出していた。
この瞬間に彼を追うことは諦めて、泣く泣く地面にしゃがみ込む。
いくらなんでもスルーは無理だし、
――やっぱり、ソフトにしとけばよかったわ!
歴史がまだ浅いからと、ハードにしてしまった自分を恨んだところで仕方がない。だからさっさと見つけて追い掛けようと、左目だけで必死に地面を睨み付けた。
ところがそれからすぐだった。まるで想定外の出来事で、ある意味これ以上ないってくらいの幸運だ。
きっと、咄嗟の声が聞こえたのだろう。
「うわっ!」だったか、「ぎゃっ!」だったのか、とにかく叫び声が耳に届いて、彼は何かがあったと思ってくれた。そうして由依美の元に駆け付けて、地べたを見つめる彼女に向けて声にする。
「何か、落としたんですか?」
それから一緒に探してくれて、暗くなって別れるまでに、彼の方からいろんな話をしてくれた。
普段は学校の図書館で、閉館ギリギリまで勉強してから帰ることにしている。
そうなると八時過ぎの電車になるが、今日はちょっとした用事があったから早めに切り上げ、ひと駅手前で降り立った。
「ちょっと確認したいことがって、ま、大したことじゃないんだけどね……」
――用事ってなんですか?
そんな由依美の問い掛けに、彼はそう言って、笑いながら住宅街の奥へと消えた。
それからは、顔を合わせば挨拶するし、日に日に会話する時間も増えていく。
そうなると、一気に気持ちが傾いた。
きっと彼の方だって〝まんざら〟じゃない。
そんな気持ちを抑えきれずに、由依美はいよいよ〝清水の舞台〟から飛び降りたのだ。
――付き合って欲しい
帰りの電車で待ち合わせ、現れた彼にホームで必死にそう声にした。
しかし彼の答えは予想外のもので、由依美はそれから、彼と出会さないよう電車の時間も変えたのだった。
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