アナザー・デイズ 1977

kenji sugiuchi

第2章 〜 2  変化(4)

 2  変化(4)
 


 鮨詰めの満員電車が嫌だったから、由依美はかなり早い電車で通っていたのだ。
 もちろん入学当初は普通の時刻に乗っていたが、二度ほど乗って、二度とも最低最悪の痴漢に遭った。
 幸い、朝六時台の電車に乗るようにしてからは、一度も被害に遭わずに済んでいたが、
 ――あんな早い電車でも、痴漢っているんだ……もう、最低!
 そんな事実を知ったのは、学校に着いて、ずいぶん時間が経ってからだ。
「ねえねえ! 聞いた? 真由美がさ、今朝、痴漢に遭って大変だったらしいわよ!」
 そう言ってきたのは、遅刻ギリギリで駆け込んできたクラスメイトの仁美だった。
「え? ウソ! どこでよ? 道歩いてて、いきなりとか!?」
 なんてところまでは、ただただ面白がっていただけだ。
「ほら、彼女、運動部の朝練でさ、朝早いじゃん? でもってさ、バカだからあの子、家からチアのユニホーム、上だけ着て行っちゃったらしいのよ」
 真由美はとにかく胸がデカい。
 あんなので、まるでチビTってヤツを着ていたら、
 ――そりゃ、格好の標的になるわあ〜
 なんて印象通りに、彼女は痴漢に遭遇するのだ。
「でね、いきなりさ、助けて貰ったんだって! ほら、同じ沿線にあるじゃない? 最低最悪のバカ学校……そこの生徒らしいんだけどさ、もう笑っちゃうのよ、茶髪でロン毛のさ、どっちが痴漢なのってヤツがさっそうと現れたんだって。それもさ、大デブだってんだから、これって、かなり笑える話っしょ?」
 そう言って、彼女自ら大笑いをしてみせた。
 そこで今朝の事件を思い出し、ストンとすべてのパズルが噛み合ったのだ。
 ――そう言えば、丸い顔、してたっけ?
 茶髪の高校生が助けた方で、
 ――じゃあ、痴漢ってあのサラリーマン!?
 なんてことを知ってから、どうしたって茶髪のことを意識してしまう。まさに不良を絵に描いたような高校生が、逆に痴漢を捕まえ、駅員にまで突き出したってのに、驚いた以上に興味が湧いた。
「もうね、痴漢の方がタジタジだったってさ」
「どうしてよ?」
「両腕を掴まれてね、まるで身動き、取れなかったらしいのよ」
「え? なんで? どうしてよ?」
「う〜ん、真由美はね、〝関節技〟じゃないかって、言ってたけど……」
「え? そこに、真由美もいたってこと?」
「一緒に降りて、証言してくれって、言われたんだってさ……その、茶髪にね」
 最初の頃は、小太りでロン毛、茶髪の不良がそんなことを言うなんて……と、ちょっと気になっていただけだった。
 ところがそれから三日目の朝、茶髪でロン毛が消え失せる。

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