アナザー・デイズ 1977

kenji sugiuchi

第2章 〜 2  変化(2)

 2  変化(2)
 


 十七歳からの二年間、達哉としては止まっていたも同然。ファッションだってなんだって、新しい知識なんてぜんぜん増えちゃいないのだ。
 だからだろうし、そんなのに加えて大学ってのに想像を越えて圧倒される。構内に入った途端にドキドキし始め、上手くいくって感じがあっという間に消え失せた。
 そんな時だ。
「おーい、藤木〜」
 いきなり彼を呼ぶ声がして、声のする方に慌てて目を向けた。
 すると女子大生――だろうと思う――が達哉を見ていて、右手を高々上げて大きく左右に振っている。
 ――どうする? 俺も、振った方がいいのか?
 なんてことを一瞬思うが、どう考えたって恥ずかしかった。だから困った顔を向けたまま、この先の展開をドキドキしながら見守ったのだ。
 すると向こうの方から近付いてきて、彼を見つめて不機嫌そうに言ってくる。
「どうしたのよ、珍しいじゃない? あなたが授業出ないなんてさ」
「ああ、ちょっと、野暮用で……」
 ここまでは、ちゃんと自然に言えたと思う。
「へえ〜……藤木くんでも、そんなことあるんだね、ふ〜ん、そうなんだ……」
 そう言った後、彼女はいきなり顔を達哉の顔に思いっきり近付ける。それから二十センチくらいしか離れていない眼(まなこ)を見つめて、
「ま、いいか……で、ノートは?」
 そう言いながら、ほんのちょっとだけ口角を上げた……と、思ったら、
「嘘! ちょっとお! 嘘でしょ?」
 いきなり二、三歩飛び退いて、
「持ってきてないの? それじゃあ、わたしのレポートどうなるの?」
 天を仰いでそう言ってから、達哉を「ギッ!」と睨み付けた。
「ちょっと待ってよ! 落第したら、天野くんのせいだからね!」
 当然、達哉の方はなんのことだかさっぱりだから、ただただその目を丸くした。
「ねえ! 黙ってないで、なんと言ってよ!」
 この間、達哉はひと言だって発していない。
 ――ノートって?
 そう思っただけだった。
 それからちょっとだけ視線を外した途端、
「もうさあ、真面目だけが取り柄なんだから、ちゃんと約束くらい守りなさいよ!」
 彼女は吐き捨てるようにそう言って、さっさととこかへ行ってしまった。
 きっと黙って立っていれば、〝JJ〟モデルとウソ吹いたって通るだろう。
 栗色の髪にワンレンロン毛のチョー美人。以前の彼なら近付くことさえ叶わぬような大人っぽい女性が、ついさっきまで吐息を感じる距離にいて、
 ――どうして、俺があんなこと言われなきゃいけないんだよ!
 真面目だけが取り柄なんだと言い捨て……去った。

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