アナザー・デイズ 1977

kenji sugiuchi

第2章 〜 2  変化

 2  変化



 どうにも、声が出なかった。
 呼吸しているのかどうかも分からないまま、それでもなんとか告げようとした。
 しかし感謝の言葉を言いたいと、気付いた頃には遅かったのだ。意識が一気にボヤけていって、ずっと続いていた妻の声さえ聞こえなくなった。
「あなた! あなた! がんばって!」
 そんな声に応えようと、妻の手を握り返そうとした瞬間に、物音すべてが消え失せ、ストンと意識もなくなっていた。
「なんでだよ!」
 いきなりそんな声が出た。
 ――ふざけんなって!
 自分の発した声に驚き、次の言葉は声にならずに済んだのだった。
 達哉は慌てて両手を合わせ、そのまま頭を必死に下げた。
 彼は今、大学へ向かう電車の中で、知らぬ間に寝てしまっていたらしい。
 それからあっという間に夢を見て、それが天野翔太が死にいく時の夢だった。
 さらにそんなことから、三十分くらい前のことだ。
「達ちゃん、どうしたの?」
 いきなりまゆみが顔を出し、驚いたようにそう声にする。
 達哉は慌てて誤魔化して、まゆみの返しにこれ幸いと乗ったのだ。
「大声なんか出して〜、何かあったの?」
 こんな言葉に、彼は慌てて首を振った。
「そういえば、大学はいいの? 早くしないとお昼になっちゃうわよ」
「あ、そうだ、そうだよ、行かなきゃダメだ!」
「もう、しっかりしてくださいよ〜」
 そう言いながら、まゆみが満面の笑みを達哉へ向けた。
 そうして慌てて身支度をして、彼は大学に向かおうと家を出る。
 ところが学生証で住所はわかるが、大学構内に入ってからが大問題だった。
 授業どうこう以前に、どこへ向かえばいいのやら……? 何かいい手はないかと考えているうちに、いつの間にか揺れに誘われ眠ってしまった。
 そうして天野翔太だった最期の時の夢を見て、達哉は改めて思うのだ。
 ――あの人は、俺が死んだ後、どうしたんだろうか?
 彼女のお陰でどんなにか、彼の生活が豊かになったかしれなかった。
 そしてきっと、この時代から戻った本人の方は、
 ――そのまま、死んじまったってことなのか……?
 天野翔太が死んだんだから、意識だって目覚めない。
 ――どうしてだよ! これって、どんな意味があってのことなんだ!?
 そんなことばかり考えていたせいか、記憶がそのまま夢となって現れたのか?
 ただとにかく、今は大学のことだった。
 それから必死に考えて、誰かに見つけて貰おう……などと、思い付く。
 大学ってところについては、生まれたばかりの赤ん坊ってくらいに何から何まで分からない。となれば、達哉を知っている友人にさっさと見つけて貰って、そいつを頼りに動けばいい。
 なかなかいい考えだと思っていたが、やはりそうは問屋が卸さなかった。

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