アナザー・デイズ 1977
第1章 〜 5 天野翔太(藤木達哉)(3)
5 天野翔太(藤木達哉)(3)
母親が亡くなって、苦労しながら孤児院で育った。それだけだって達哉にとっては驚きなのに……だ。
――殺人犯……だなんて、いったい、どういうことだよ!
彼は人を殺した罪で、少年刑務所に服役していた。
――警察は、ちゃんと調べてくれたのか?
しかし記憶によれば、それは大きな間違いであり、
――それに、山代って……なんちゅうクソ野郎なんだ?
すべては、父親のせいだった。
――こんなの、最悪じゃねえか……。
母子を捨てたなんてことなら、この世の中掃いて捨てるほどあるだろう。酷い話には違いないが、借金のことだって、特段珍しいとは思わなかった。
しかしその上、こいつは金に困って息子の家に押し入った。
さらにだ。挙げ句の果てに……息子をよりにもよって殺人犯にしてしまうのだ。
考えれば考えるほど落ち込んで、自分のことのように腹が立って堪らない。
ところが吉崎涼が帰った後すぐ、新たな衝撃が達哉を襲う。病室に担当医が現れて、いきなり彼に告げたのだった。
「実は、大事なお話があります」
そう言いながら、彼は達哉の顔をジッと見つめた。そして軽く咳払いをしてから、小さな声で話し始めた。
「本来なら先に、ご家族の方へご説明申し上げるんですが……」
達哉がはっきり覚えているのは、正直この辺までだった。
こんな台詞を耳にして、平然としていられるほど鈍感じゃないし、ここはまさしく病院で、数時間前には意識不明の状態だった。
そうして運命の瞬間がやってくる。
「残念ですが、天野さんの胃は、末期癌に冒されています……」
――癌? 俺が、癌だって……?
思わず耳を疑った。
それからすぐに、
――ああ、この身体のことか……。
などと思うが、ひと呼吸あとにはおんなじことなんだと気が付いた。
さらに最悪だったのは、あっちこっちに転移していて、すでに手術が出来ない状態なんだということだ。
そこから彼の思考能力は一気にダウンしてしまう。
それからも、なんだかんだと言われたが、彼がはっきり覚えているのはたった一つのことだけなのだ。
「普通に生活できるのは、あと三ヶ月か……半年はきっと、厳しいかと思います」
つまり半年経った頃には入院していて、それからはきっと、地獄の日々が続くことになるのだろう。
そうしてしばらくは、いろんな意味で苦しんだ。
どうしていきなり老人で、さらに死んじゃうってのはあまりに最悪過ぎるだろう。
何をどう考えても意味不明だし、
――俺はあっちの世界で、そんなにひどいことをしたっていうのか?
だからお仕置きだってことにしても、あまりに〝情け〟がなさ過ぎる。
十七歳から六十一ってのも酷いのに、そこからいきなり死の宣告ってのは神も仏のないってくらいだ。
そうして落ち込んだまま退院となり、達哉は一週間後に再び病院を訪れた。
母親が亡くなって、苦労しながら孤児院で育った。それだけだって達哉にとっては驚きなのに……だ。
――殺人犯……だなんて、いったい、どういうことだよ!
彼は人を殺した罪で、少年刑務所に服役していた。
――警察は、ちゃんと調べてくれたのか?
しかし記憶によれば、それは大きな間違いであり、
――それに、山代って……なんちゅうクソ野郎なんだ?
すべては、父親のせいだった。
――こんなの、最悪じゃねえか……。
母子を捨てたなんてことなら、この世の中掃いて捨てるほどあるだろう。酷い話には違いないが、借金のことだって、特段珍しいとは思わなかった。
しかしその上、こいつは金に困って息子の家に押し入った。
さらにだ。挙げ句の果てに……息子をよりにもよって殺人犯にしてしまうのだ。
考えれば考えるほど落ち込んで、自分のことのように腹が立って堪らない。
ところが吉崎涼が帰った後すぐ、新たな衝撃が達哉を襲う。病室に担当医が現れて、いきなり彼に告げたのだった。
「実は、大事なお話があります」
そう言いながら、彼は達哉の顔をジッと見つめた。そして軽く咳払いをしてから、小さな声で話し始めた。
「本来なら先に、ご家族の方へご説明申し上げるんですが……」
達哉がはっきり覚えているのは、正直この辺までだった。
こんな台詞を耳にして、平然としていられるほど鈍感じゃないし、ここはまさしく病院で、数時間前には意識不明の状態だった。
そうして運命の瞬間がやってくる。
「残念ですが、天野さんの胃は、末期癌に冒されています……」
――癌? 俺が、癌だって……?
思わず耳を疑った。
それからすぐに、
――ああ、この身体のことか……。
などと思うが、ひと呼吸あとにはおんなじことなんだと気が付いた。
さらに最悪だったのは、あっちこっちに転移していて、すでに手術が出来ない状態なんだということだ。
そこから彼の思考能力は一気にダウンしてしまう。
それからも、なんだかんだと言われたが、彼がはっきり覚えているのはたった一つのことだけなのだ。
「普通に生活できるのは、あと三ヶ月か……半年はきっと、厳しいかと思います」
つまり半年経った頃には入院していて、それからはきっと、地獄の日々が続くことになるのだろう。
そうしてしばらくは、いろんな意味で苦しんだ。
どうしていきなり老人で、さらに死んじゃうってのはあまりに最悪過ぎるだろう。
何をどう考えても意味不明だし、
――俺はあっちの世界で、そんなにひどいことをしたっていうのか?
だからお仕置きだってことにしても、あまりに〝情け〟がなさ過ぎる。
十七歳から六十一ってのも酷いのに、そこからいきなり死の宣告ってのは神も仏のないってくらいだ。
そうして落ち込んだまま退院となり、達哉は一週間後に再び病院を訪れた。
コメント