僕が彼女に執着心を持った時

白河 てまり

もやもや

 ああ、やっちゃった。お母さんに、お父さんのことももっと考えてあげてって言われたばかりなのに、喧嘩しちゃった。
 お父さんとは、食事中冷戦状態だった。
 どうしよう。もやもやする。
 うちは割と、家族仲が良い方だと思う。お父さんとお母さんと、東京で暮らす4つ上の姉。姉はたまにしか実家に帰ってこれないけれど、とても優しい。昔から私はお姉ちゃん子だった。家族4人で仲良し。だからこうし家族の誰かとけんかをすると、余計落ち込む。

 自分の部屋のベッドに腰掛け、小さなため息をつく。
 というか、もし仮に薫さんに、うちの両親に会ってください、って言ったら、薫さん、何て言うかな……?
 前に薫さんから、「そのうち映子ちゃんのご両親にも挨拶しなきゃね」って言われてたけど、鬼形相で怒りそうなお父さんの事を考えたら、なんとなく言葉を濁してしまった。それから薫さんは、そう言わなくなった。
 それに、薫さんから、結婚したい、とか言われたことないし。私達、結構付き合って長いけど……。薫さん、結婚とか考えてないのかな?
 私は将来、いつか薫さんのお嫁さんになりたいって考えてるけど、そう思ってるのは私だけだった? なんか、悲しい。

 気持ちが落ち込んできたところに、スマホの着信音が響き渡る。
「もしもし。薫さん?」
「もしもし。うん、僕だよ。なんか、声に元気ないね。
 映子ちゃん、今日はお休みだったでしょ? 何してたかなって、ちょっと声が聞きたくなっちゃって」
 優しい薫さんの声に癒される。
「あ、ちょっとお父さんと冷戦中で。でも大丈夫です。きっとすぐ仲直りできるので。
 今日はおうちでごろごろして、カツカレーを食べました。
 薫さんは何して過ごしてましたか?」
「そうなんだ。お父さんと早く仲直りできるといいね。
 カツカレー、美味しかった?
 僕は今東京から帰ってきたとこ。朝から買い物に行ってたんだ」
「そうだったんですね! 清水さんに会ってたんですか?」
「ううん。朝から1人で買い物してた」
 薫さんの答えに、なんとなく、心にもやがかかる。
「あ、そうだったんですね。楽しかったですか?」
「うん、あちこち回っててんやわんや。でも、楽しかったよ」
「よかったですね! 何買ったんですか?」
「……画材とか!」
 え、何、今の間は。
「そうだったんですね! 制作頑張ってください」
「うん、ありがとう。声聞けてよかった。おやすみ」
「私も薫さんの声が聞けて嬉しかったです。おやすみなさい」

 薫さん、私達、もう3週間も会って無いんですけど。その画材を買いに東京に行くの、私も一緒に行きたかったのに……。連れてってくれてもいいのに。しかもなんか、妙な間があったし。なんか気になる。

 すっきりしない気分のまま、お風呂へ向かう。
 そうそう、もやもやしたり、落ち込んだ時は、半身浴が1番!
 そう思ってお気に入りの入浴剤のクナイプのいちじくミルクを戸棚から取り出すと、空っぽだった。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品