僕が彼女に執着心を持った時

白河 てまり

短文

 薫さんと完全に連絡を絶ってから1か月経つか経たないかの頃、私の気持ちも落ち着いてきた。
 毎日連絡をくれていた薫さんを信じる。ネットで元カノについて男性が思う事を調べたりもしてみたけど、薫さんの気持ちは薫さんにしかわからない訳で。

 私には元カレがいなくて薫さんが初めてだったから、昔付き合った人への気持ちは考えたところでわからなかったけれど、中学の時に気になっていた男の子の事を考えてみる事にした。
 彼は確か、葉山君。中学3年間同じクラスで、たまに話すくらいだったけど、周りに気を遣える優しい葉山君が気になってた。高校が別々になって、結局気持ちは伝えなかったけれど。
 葉山君のことは、今でも思い出す時もある。元気かなって、懐かしい思い出に気浸る。

 だから、もしかしたらこんな気持ちなのかな、って少し想像できた。
 薫さんも、水瀬さんの手紙を読んで、懐かしさがこみ上げたのかもしれない。そう考えられるようになるまで、大分かかっちゃった。薫さんに連絡してこないで、とまで言っちゃったし。
 薫さんに、悪い事しちゃったな。私、自分勝手だった。どうしよう。今頃薫さん、もう映子ちゃんなんて知らない! ってなっちゃってる!? 私の事なんて、好きじゃなくなっちゃってる? 飽きれてるかな……。
 連絡してこないで、と言ったのは自分なのに、いざ本当にこれまで毎日届いていた連絡がぱたりと止むと、さみしさがつのった。私って、本当にわがまま。

 薫さんと連絡を取りたいけれど、どう切り出していいか悩んだ。
 電話? それともライン? 『お話があります』とか?
 ……てゆうか、1か月くらい連絡を取り合ってないって、これって自然消滅してる……?
 頭からサッと血の気が引く。
 ど、どどどど、どうしよう!

 長瀬先輩に言われた事を、思い出す。『自滅しないでね』
 先輩……、思いっきり自滅しちゃいました……。
 薫さんが最後にラインをくれた日にちから逆算して数えると、今日で丁度1か月だった。

 お風呂に入ってから考えよう。うんうん、悩んだ時は、半身浴だよね!
 クナイプのいちじくミルクの香りで半身浴をしてお風呂を上がると、焦った気持ちが落ち着いた気がした。

 ベッドに横になると、ラインのお知らせランプがチカチカと緑色に点滅していた。開いてみると、薫さんの名前が一番上に飛び込んできて、心臓が跳ね上がる。

『こんばんは。お久しぶりです。
 話があるのですが、空いてますか?』

 用件だけの、簡潔な短い文章。いつもの薫さんだったら、久しぶり、元気にしてる? 僕は元気だよ、くらいは言いそうなのに。サクッとしてる。
 え、話って、もしかして、別れ話だったりする……? そりゃそうだよね、1か月も放置してくる彼女なんて、いらないよね。
 お風呂で温まっていた身体が、急激に冷える。
 薫さんに別れようって言われたら、どうしよう……。
 受け入れる? それとも、別れたくないって伝えた方がいい? でも、薫さんの気持ちが離れた時点で、もうそれって終わりだよね? 前にお母さんが言ってた。男女交際はどちらかの気持ちが離れた時点で、それはもう終わりよ、って。
 心がじくじくと痛みだす。

 私、連絡しないでくださいなんて、なんてことしちゃったんだろう。
 やきもち焼いて、意地になって、最低。優しい薫さんの事、傷つけた。後悔してもしきれない。薫さんの気持ちを想うと、胸が痛い。
 薫さん、元気にしてるかな。逢いたい。逢って、抱きしめたい。ご飯ちゃんと食べてるかな? いつもの病気、大丈夫かな? 倒れてないかな? 心配になってきた。
 別れようって言われたら、すんなり別れてあげるのが、薫さんの為? それがせめてもの優しさかな? でも、そんなの絶対に、無理。薫さんを手放すなんて、私にはできそうもない。

 心の準備がまだまだ必要。
 薫さん、返信は少し待っててください。ごめんなさい。

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