僕が彼女に執着心を持った時
約束の花火
9月に差し掛かると、気温がぐっと下がり過ごしやすくなってきた。わずかに残る蝉の鳴き声から徐々に、夜には美しい鈴虫の鳴き声に変わる。
今日は薫さんと、浴衣で湖の花火大会に来てる。
湖の中心で上がる予定の花火は毎年大勢の人々を魅了する。湖をぐるりと囲むように屋台が出て、その道路を挟んだ反対側に旅館が立ち並び、私達はその中の一つに宿を取っている。
河原で見る花火もいいけど、宿の窓から涼しく見るのもいいものらしいよ、と薫さんが言っていた。
先に宿で夕食を済ませ、今は2人で屋台を見て回ってる。花火はまだ始まっていない。
「薫さん! イチゴ飴があります!」
「並ぼうか!」
2人で浴衣を着て歩くと、なんだか新鮮。薫さんの紺色の浴衣、涼し気ですごく似合ってる。私も紺色に紫陽花の浴衣にピンクの帯で、薫さんが可愛いと褒めてくれた。
数年前に果たせなかった、花火大会を一緒に見る、という約束が果たせて嬉しい。手も繋いでる。
「屋台って、わくわくしません?」
「うん、わかる! 童心に返るよね! 子供の頃はお小遣いの範囲で、何を買おうか一生懸命考えてたけど、大人になるとあれもこれも、好きなだけ買えるから嬉しい」
イチゴ飴を受け取り薫さんがお勘定を済ませくれて、また屋台を散策する。
「ありがとうございます」
「いいのいいの。映子ちゃん! 綿あめあるよ!」
「え!? 綿あめ!?」
「買おうか!」
「やったあ!」
薫さんは屋台で、黒いキツネのお面を買って、私には白い猫のお面を買ってくれた。
「子供の頃から、このキツネ面買ってみたかったんだ。でも、お面って、子供の懐には高いでしょ? 大人になってやってみたかったことの一つ」
薫さんが無邪気に笑った。
「夢が叶ってよかったですね!」
食べながら一通り散策して、そろそろ花火が始まるので宿に戻り、窓辺に2人で並んだ。
お盆に乗せた、ビールとグレープフルーツハイもある。
「花火、楽しみですね! 私、ここの花火大会見るの初めてなんです」
「僕もだよ。ここの花火、有名らしいね。こっちに引っ越してきてから、一度は見てみたかったんだ」
「そうなんですね。今日は夢が叶う日ですね!」
「ははは。本当だね」
辺りが次第に暗闇になると、私達も部屋の電気を消して、一発目の花火が上がった。窓の外から歓声が上がる。
「わあ……。綺麗……!」
「本当だね」
2人で夜空の大輪の花に見惚れた。
夜空を赤と青、白の大輪の花が彩る。
暫くしてから、気になっていたことを、ふと、口にした。
「薫さん、どうして高校卒業してから、大学生になっても私を抱かなかったんですか?」
この質問は、過去にしたことがあった。二度目だった。
薫さんが花火から私に顔を向ける。
「十代って、多感な時期だから。あまり大人の男性と接点が無くて、身近な教師に憧れから好意を持つって、よくあるんだ。でも、多くの生徒は、卒業と同時に、教師への恋も忘れる。大学で、新しい出会いが沢山あるからね。高校生の時よりは、大人と触れあう機会も多くなる。そこで気付くんだ。ああ、大人の男を知らない中で出会った身近な先生に、憧れたんだな、って。
映子ちゃんが離れていくのが怖かった。僕から離れないって、確信が持ててから抱きたかった。映子ちゃんが後悔しない為にも。何よりも大切にしてるから。僕は映子ちゃんにとても執着してるしね」
薫さんの笑顔がわずかな花火の光りで照らされる。
「え、薫さん、私に執着してるんですか?」
薫さんが穏やかに微笑む。
「そうだよ。とてもね。何があっても手放すもんか! って思ってる。重い?」
「薫さんなら、重いのも大歓迎です!」
薫さんに抱き着いた。
薫さんは胡坐をかいた中に私が座り、背中から抱きしめてくれる形で、2人で花火を眺めた。
今日は薫さんと、浴衣で湖の花火大会に来てる。
湖の中心で上がる予定の花火は毎年大勢の人々を魅了する。湖をぐるりと囲むように屋台が出て、その道路を挟んだ反対側に旅館が立ち並び、私達はその中の一つに宿を取っている。
河原で見る花火もいいけど、宿の窓から涼しく見るのもいいものらしいよ、と薫さんが言っていた。
先に宿で夕食を済ませ、今は2人で屋台を見て回ってる。花火はまだ始まっていない。
「薫さん! イチゴ飴があります!」
「並ぼうか!」
2人で浴衣を着て歩くと、なんだか新鮮。薫さんの紺色の浴衣、涼し気ですごく似合ってる。私も紺色に紫陽花の浴衣にピンクの帯で、薫さんが可愛いと褒めてくれた。
数年前に果たせなかった、花火大会を一緒に見る、という約束が果たせて嬉しい。手も繋いでる。
「屋台って、わくわくしません?」
「うん、わかる! 童心に返るよね! 子供の頃はお小遣いの範囲で、何を買おうか一生懸命考えてたけど、大人になるとあれもこれも、好きなだけ買えるから嬉しい」
イチゴ飴を受け取り薫さんがお勘定を済ませくれて、また屋台を散策する。
「ありがとうございます」
「いいのいいの。映子ちゃん! 綿あめあるよ!」
「え!? 綿あめ!?」
「買おうか!」
「やったあ!」
薫さんは屋台で、黒いキツネのお面を買って、私には白い猫のお面を買ってくれた。
「子供の頃から、このキツネ面買ってみたかったんだ。でも、お面って、子供の懐には高いでしょ? 大人になってやってみたかったことの一つ」
薫さんが無邪気に笑った。
「夢が叶ってよかったですね!」
食べながら一通り散策して、そろそろ花火が始まるので宿に戻り、窓辺に2人で並んだ。
お盆に乗せた、ビールとグレープフルーツハイもある。
「花火、楽しみですね! 私、ここの花火大会見るの初めてなんです」
「僕もだよ。ここの花火、有名らしいね。こっちに引っ越してきてから、一度は見てみたかったんだ」
「そうなんですね。今日は夢が叶う日ですね!」
「ははは。本当だね」
辺りが次第に暗闇になると、私達も部屋の電気を消して、一発目の花火が上がった。窓の外から歓声が上がる。
「わあ……。綺麗……!」
「本当だね」
2人で夜空の大輪の花に見惚れた。
夜空を赤と青、白の大輪の花が彩る。
暫くしてから、気になっていたことを、ふと、口にした。
「薫さん、どうして高校卒業してから、大学生になっても私を抱かなかったんですか?」
この質問は、過去にしたことがあった。二度目だった。
薫さんが花火から私に顔を向ける。
「十代って、多感な時期だから。あまり大人の男性と接点が無くて、身近な教師に憧れから好意を持つって、よくあるんだ。でも、多くの生徒は、卒業と同時に、教師への恋も忘れる。大学で、新しい出会いが沢山あるからね。高校生の時よりは、大人と触れあう機会も多くなる。そこで気付くんだ。ああ、大人の男を知らない中で出会った身近な先生に、憧れたんだな、って。
映子ちゃんが離れていくのが怖かった。僕から離れないって、確信が持ててから抱きたかった。映子ちゃんが後悔しない為にも。何よりも大切にしてるから。僕は映子ちゃんにとても執着してるしね」
薫さんの笑顔がわずかな花火の光りで照らされる。
「え、薫さん、私に執着してるんですか?」
薫さんが穏やかに微笑む。
「そうだよ。とてもね。何があっても手放すもんか! って思ってる。重い?」
「薫さんなら、重いのも大歓迎です!」
薫さんに抱き着いた。
薫さんは胡坐をかいた中に私が座り、背中から抱きしめてくれる形で、2人で花火を眺めた。
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