僕が彼女に執着心を持った時

白河 てまり

信頼☆

 朝方は、蛙の声で目覚めた。
 ゆっくり目を開けると、薫さんの顔がすぐ近くにある。
 掛け布団をほとんど私に掛けてくれている事に気付き、薫さんにも掛ける。
「ん……、起きた? おはよう」
 薫さんが寝ぼけ眼で言った。
 何も着ていない身体を、急いで布団に滑り込ませて言う。
「おはようございます。まだ寝てて大丈夫ですよ」
「ん、大丈夫、起きたから。身体、大丈夫?」
 そう言って彼が私のおでこに唇を当てた。
「はい、大丈夫です」
 なんだかくすぐったい気持ちになってしまう。
「映子ちゃん、昨日可愛かった。
 普段はたまにSっ気出すのに、夜は従順なんだね」
 薫さんがシーツの中で私の背中に手を回して、いたずらっ子のように微笑んだ。
「薫さんはその逆ですね! てゆうか、恥ずかしい事言わないでください! 禁止!」
 彼の口に自分の右手の指を当てた。


 薫さんの言う、Sっ気っていうのは、まあ、ちょっとした、イジワル? は、今まで薫さんは私が嫌がる事は絶対にしない、という信頼があったから出来た事だったりする。
 でも今回のお泊りは、どうなっちゃうかわからなかったし。嫌では無いし、私も望んでたけど、初めての事で緊張してしまった。
 優しい薫さんに完敗。


 朝食は、トーストにマーガリンとマヨネーズを塗って、ハムとチーズと半熟目玉焼きを乗せたものをこんがり焼いて、お醤油を少し垂らしたものを薫さんが作ってくれた。
 一口食べると、魅惑の味だった。
「美味しいです!」
 私は目を輝かせた。
「でしょ?これ、好きでよく食べるんだ。
 他には、マーガリンとマヨネーズを塗って、アボカドとプチトマト乗せても美味しいよ。好みでピザソース塗っても美味しいね」
 薫さんにこんなアビリティがあったとは。

 それから2人で映画を観ようという事になった。
 薫さんは漫画で読んでいて、私は撮りだめてアニメを観ているカートゥン系アニメの映画。
 主人公の師匠がアメコミのヒーローみたいでカッコ良くて、好き、と薫さんに言ったら、
「え!? 僕も身体鍛えた方が良い?」
 と聞いてきて、笑った。
「じゃあ、先に2階に行って、パソコンとDVDセットしてくれるかな? 洗い物済ませたら、ポップコーン持ってすぐ行くから」
「はい! 了解です!」

 ギシギシと音を立てる階段を上り、薫さんの部屋に入る。
 黒いデスクの上に鎮座する、画面が閉じた状態の黒いノートパソコンをソファの前のガラステーブルに移動させる。続いて本棚から、DVDを探す。
 あった! これね!
 ふと、棚の隅のクロッキー帳が目に留まる。薫さんがいつも持ち歩いてるものだ。
 なんとなく手に取ってパラパラとページを捲ると、どのページも私が描かれていた。
 寝顔の私、笑顔の私、真剣な表情の私……。
 薫さんの愛に包まれているような、暖かい気持ち。
 クロッキー帳を1度抱き締めてから、そっと棚に戻した。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品