僕が彼女に執着心を持った時

白河 てまり

キー

 薫さんの家で食後にいつもの定位置でそのことを話すと、薫さんは、
「そうなんだ! うまくいくといいね。僕としてもうまくいってほしいよ。映子ちゃんが毎日そんなイケメン見てて、長瀬さんに惚れちゃっても困るし」
 と冗談めかして笑った。
「私は薫さんが世界一カッコいいと思ってます!」
「ははは。ありがと。そんなこと言ってくれるの映子ちゃんくらいだよ」
 薫さんが私の頭を撫でた。

 高校時代から、薫さんは「あの先生カッコいい」って密かに人気だった。
 青葉先生みたいに爽やかで、みんなが黄色い声を上げるような人気というよりは、みんな密かに胸の内で温める情熱を秘めた人気だった。
 その事実は修学旅行の大部屋に集まって、夜の暴露大会でみんなで話した時に知った。
 それに短大時代、土曜日に薫さんが短大まで車でお迎えに来てくれて、それを見た私の友達が、
「映子の彼氏、めちゃくちゃかっこいいね! そりゃ短大の男なんて目に入らないはずだよ」
って言ってたし。

 薫さんはもっと自信持っていいのに。
 まあ、そんな謙虚なとこも大好きだけど。

「そうそう。次の土日だけど、土曜の朝からちょっと僕、研修で出張に行かなくちゃいけなくて。ごめんね。日帰りだけど、家に着くのは20時になりそうなんだ。
 お泊り、それからでも良いかな? もし遅い時間に家を出るの親御さんが心配するようなら、これで先に僕の家に入っててほしいんだけど。それでも大丈夫かな? 今後もこういった事ありそうだから、これはこの先ずっと持っててほしい」
 薫さんが申し訳なさそうに、家の鍵を私の掌に置いた。

 薫さんの家の鍵! 私は目を丸くする。
「嬉しいです! ありがとうございます!」
 薫さんに信用してもらえたのが嬉しかった。
 右手で鍵を握りしめて、薫さんに両手を伸ばして抱き着いた。
 薫さんが少し驚いて言う。
「そこまで喜んで貰えるとは思ってもみなかったよ。だったらもっと早く渡せばよかったね。重いかな、と思って自重してたんだ」
「重く無いです! 全く! むしろ嬉しいです!」
 彼が私の頭を撫でてくれた。

コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品