僕が彼女に執着心を持った時
誇り
清水が続ける。
「ちなみにだね、映子ちゃん。今までのは、あえてのネガティブキャンペーンね。ここからは美しい面を話そう。
俺達の仕事って、物に値段をつけるって言ったよね? これ、とても大切な事なんだ。商品を持ってきた会社の命運がかかってる。
ある日、とある倒産寸前の小さな会社の社長さんがいらっしゃってね。『清水さん、これを何とかしてほしい』って言うんだよ。商品を見せてもらうと、とても素晴らしい出来だった。
それを社長さんは、倒産寸前で弱気になっていて、二束三文の値段を希望してきた。
ちょっと待ってくれ、と。社長さん、その商品はあなたが思っている以上の価値がありますよ、と。
俺はその商品に、相場より高い買値を付けた。もちろん、うちの会社の取り分も十分見込める値段でね。
その商品は強気な価格設定でも、飛ぶように売れた。価値があったんだよ。多分、映子ちゃんも毎日使ってる。
そんなこんなで、その会社、倒産せずに済んだんだよ。むしろそれがきっかけで、今でも業績は右肩上がり。
それから社長さん、来社して、涙を流して言うんだよ。『清水さん、有り難う』って。50代の、強面の男がだよ? 自分の会社で働いてくれてる従業員の生活を背負ってるんだもんな。凄いことだよ。これには俺も涙したね。
人に感謝される仕事ができる事を、誇りに思って働いてるよ。
今では可愛い後輩もできたしな。めちゃくちゃしごいてやってるけれどな!」
と、最後は冗談めかした。
映子ちゃんは、清水の話に目を潤ませていた。
「本当に、素晴らしい、お仕事ですね」
清水が微笑み、優しい口調で言う。
「うん。そう、仕事ってのは、嫌な面もあれば、美しい面もある。嫌な面の方が多いよ、実際。
でも、そんな嫌な思いの中で経験した美しい面は、尚の事輝いて見えるよね。
でも、よく考えてほしい。今日、薫がわざわざ君を俺に会わせた意味を。
薫はとても、映子ちゃんを心配しているよ。もちろん、俺もね。
アラサーの男2人でここまで君に対してした事を考えてくれれば、答えは自ずと解ると思う。君はとても素直で聡明だからね」
映子ちゃんも、微笑み返して言う。
「はい。ありがとうございます。
お二人には、ご心配とご迷惑をお掛けしてしまいましたね。ごめんなさい。
薫さんと同じ景色が見てみたかったのですが、清水さんが今日話してくださって、その気持ちは十分満たされました。
ありがとうございました」
彼女は清々しい笑顔だった。
僕は胸を撫で下ろし、清水はいつものニカッと歯を見せた笑顔で、大きく頷いた。
それから僕と清水で、大学時代の馬鹿な話をして、映子ちゃんはそれを聞いてお腹を抱えて笑っていた。
とても楽しい時間だった。
清水はまた会社に戻ると言い、僕と映子ちゃんからのお土産の特産物の果物を、「ありがとう! 俺が仕事抜け出してへそ曲げてる後輩に分けてやろうかな」と、持って帰った。
ちなみに、お会計は清水がトイレに行っている間に済まそうと思っていたら、清水がトイレに行くフリをして、済ませてくれていた。
「遠くからわざわざ来てくれたんだから、これくらいはな! 次はお前の奢りだぞ!」
と、先手を取られた。格好いい奴め。僕が女だったら、確実に惚れている。
次の奢りだけでなく、他にも何かお礼をしたいな、と思ったが、清水の性格上、
「俺はお前ら2人が幸せであれば良いんだよ」
と、頑なに受け取らないだろうな、と思い至った。もしも清水が僕なんかを頼ってくることがあったら、その時は全力で力になろうと思った。まぁ、清水なら、大抵の事はなんでも器用にこなせるんだろうけれど。
映子ちゃんと2人でお礼を言って、再びビル群の戦場へと戻る清水の後ろ姿を見送った。
「ちなみにだね、映子ちゃん。今までのは、あえてのネガティブキャンペーンね。ここからは美しい面を話そう。
俺達の仕事って、物に値段をつけるって言ったよね? これ、とても大切な事なんだ。商品を持ってきた会社の命運がかかってる。
ある日、とある倒産寸前の小さな会社の社長さんがいらっしゃってね。『清水さん、これを何とかしてほしい』って言うんだよ。商品を見せてもらうと、とても素晴らしい出来だった。
それを社長さんは、倒産寸前で弱気になっていて、二束三文の値段を希望してきた。
ちょっと待ってくれ、と。社長さん、その商品はあなたが思っている以上の価値がありますよ、と。
俺はその商品に、相場より高い買値を付けた。もちろん、うちの会社の取り分も十分見込める値段でね。
その商品は強気な価格設定でも、飛ぶように売れた。価値があったんだよ。多分、映子ちゃんも毎日使ってる。
そんなこんなで、その会社、倒産せずに済んだんだよ。むしろそれがきっかけで、今でも業績は右肩上がり。
それから社長さん、来社して、涙を流して言うんだよ。『清水さん、有り難う』って。50代の、強面の男がだよ? 自分の会社で働いてくれてる従業員の生活を背負ってるんだもんな。凄いことだよ。これには俺も涙したね。
人に感謝される仕事ができる事を、誇りに思って働いてるよ。
今では可愛い後輩もできたしな。めちゃくちゃしごいてやってるけれどな!」
と、最後は冗談めかした。
映子ちゃんは、清水の話に目を潤ませていた。
「本当に、素晴らしい、お仕事ですね」
清水が微笑み、優しい口調で言う。
「うん。そう、仕事ってのは、嫌な面もあれば、美しい面もある。嫌な面の方が多いよ、実際。
でも、そんな嫌な思いの中で経験した美しい面は、尚の事輝いて見えるよね。
でも、よく考えてほしい。今日、薫がわざわざ君を俺に会わせた意味を。
薫はとても、映子ちゃんを心配しているよ。もちろん、俺もね。
アラサーの男2人でここまで君に対してした事を考えてくれれば、答えは自ずと解ると思う。君はとても素直で聡明だからね」
映子ちゃんも、微笑み返して言う。
「はい。ありがとうございます。
お二人には、ご心配とご迷惑をお掛けしてしまいましたね。ごめんなさい。
薫さんと同じ景色が見てみたかったのですが、清水さんが今日話してくださって、その気持ちは十分満たされました。
ありがとうございました」
彼女は清々しい笑顔だった。
僕は胸を撫で下ろし、清水はいつものニカッと歯を見せた笑顔で、大きく頷いた。
それから僕と清水で、大学時代の馬鹿な話をして、映子ちゃんはそれを聞いてお腹を抱えて笑っていた。
とても楽しい時間だった。
清水はまた会社に戻ると言い、僕と映子ちゃんからのお土産の特産物の果物を、「ありがとう! 俺が仕事抜け出してへそ曲げてる後輩に分けてやろうかな」と、持って帰った。
ちなみに、お会計は清水がトイレに行っている間に済まそうと思っていたら、清水がトイレに行くフリをして、済ませてくれていた。
「遠くからわざわざ来てくれたんだから、これくらいはな! 次はお前の奢りだぞ!」
と、先手を取られた。格好いい奴め。僕が女だったら、確実に惚れている。
次の奢りだけでなく、他にも何かお礼をしたいな、と思ったが、清水の性格上、
「俺はお前ら2人が幸せであれば良いんだよ」
と、頑なに受け取らないだろうな、と思い至った。もしも清水が僕なんかを頼ってくることがあったら、その時は全力で力になろうと思った。まぁ、清水なら、大抵の事はなんでも器用にこなせるんだろうけれど。
映子ちゃんと2人でお礼を言って、再びビル群の戦場へと戻る清水の後ろ姿を見送った。
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