僕が彼女に執着心を持った時

白河 てまり

彼が見た景色を

 僕が見た夢を彼女に隠したまま、翌週の土曜に2人で清水に会いに東京へ出かけた。
 映子ちゃんは僕が飲めるようにと、電車を提案してくれた。

 午後は吉祥寺を僕が案内して遊んだ。昔東京の商社で勤めていた時、吉祥寺に住んでいて思い出深いのだ。
 彼女と行列ができる店のコロッケを、井之頭公園でのベンチでアヒルさんボートを漕ぐ家族を眺めながら頬張った。

 夕方近くになり、新宿へ移動した。
 清水が予約してくれた、個室の居酒屋へ向かう為に。

 竹でできた門を潜り、30代であろう男性の店員に
「19時に予約した清水です」
 と伝えると、
「お連れ様がお待ちです、こちらへどうぞ」
 と案内された。
 これまた細い竹の扉付きの個室の戸を開けると、清水が座っていた。
「よお! 久しぶり! 映子ちゃんも、いらっしゃい」
 いつものニカっと笑う笑顔で、僕たちを出迎えてくれた。
「清水、久しぶり!」
「清水さん、ご無沙汰してます」
 他愛ない話をしつつ飲み物と料理が全て揃ってから、清水が本題に入る。

「映子ちゃん、商社に入社したいんだって?」
「はい! 薫さん、あまり商社でのことは話したがらないんですけど、私は薫さんが見てきた景色を見てみたいんです。
 今日は清水さんにお話を伺えるのを、とても楽しみにしてました。お忙しい中お時間作ってくださり、本当にありがとうございます」
「いやあ、大事な薫の彼女さんのお役に立てるのであれば、俺なんかでよければ教えるよ!」
 そう言って清水はビールグラスを軽く煽った。

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