僕が彼女に執着心を持った時
大人の余裕
アイスココアとコーヒーのマグカップを2つを持っていくと、彼女がドアを開けてくれた。
「ありがとう。両手塞がってたら助かった」
「ふふ。ギシギシ階段を上ってくる音が聞こえたので!」
彼女が優しい笑顔で言った。
2つのマグカップをガラステーブルの上にコトリと起き、彼女の左隣に腰掛ける。
「ありがとうございます。いただきます。あ! 私のマグカップ!」
美術準備室で使っていた映子さんがバレンタインにくれたお揃いのマグカップを見て、彼女の顔が華やいだ。
「うん。映子さんはもう美術室では使わないだろうと思って、僕のも一緒に持って帰ってきた」
「嬉しいです。えへへ」
こんな些細な事で喜んでくれるんだから、本当に純粋で可愛いよな、と思ってしまう。
「夕飯作るには少し早いし、何かDVDでも観る?」
「はい!」
2人で本棚の前に移動し、DVDが並んでいる棚を眺める。
「あ! ミッド・ナイト・イン・パリ! さすが美術の先生ですね」
「あ、うん。観たことあるの?」
「美術部に入部してから観ました」
「さすが元美術部員だね」
「えへへ。あ、これ観てみたいと思ってたんです! 英国王のスピーチ!」
「じゃあ、それ観ようか」
僕の部屋にはテレビが無いので、黒いノートパソコンをデスクからガラステーブルに移動させて、こうなる事をある程度予測していたので、予め買っておいたポップコーンを下の階から持ってきて食べながら鑑賞した。
終盤に差し掛かると、映子さんは号泣していた。
「はい、ティッシュ」
「ありがとうございます。薫さんもどうぞ」
「ありがとう」
歳を重ねるにつれて、涙腺が緩くなるのは何故だろう。
「薫さん、目が真っ赤です。ふふ」
止めどなく流れ落ちる僕の涙に、彼女がティッシュでそっと僕の頬を拭ってくれた。
優しい彼女のしぐさに、思わずきゅんとしてしまう。
「ありがとう」
僕はハッとした。もし彼女が感動物のDVDを選んだら、彼女の涙を、大人の余裕で僕が優しく拭ってあげようと思っていたのに。しまった。これでは逆だ。
大人の余裕とは一体……。
映画がエンドロールに差し掛かった時、そっと彼女の肩を抱き寄せた。
映子さんが一瞬こちらを見て微笑み、また英字が流れる画面に目を向ける。
彼女の頬に細かく何度もキスをして、耳たぶを甘噛みする。
映子さんは時折、ふふ、と笑ってくすぐったそうに身を捩るが、目線はパソコンの画面に釘付けだ。
僕はこちらを向いてほしくて、彼女の両脇に手を掛けて身体を僕の上に乗せようとするると、
「薫さん、私、映画は最後の字幕まで、じっくり見る派なんです。いちゃいちゃするのは、映画が完全に終わってからにしてください」
と、映子さんが真顔で言った。
「あ、はい。ごめんなさい……」
あしらわれてしまった事に、僕は思わず肩を落としてしゅんとしてしまう。
そんな僕に気付いてか、映子さんがこちらに向かって微笑み、ぎゅっと手を握ってくれた。
たちまち僕は嬉しくなって、思わず満面の笑みになる。
そして気付く。
いけない……。さっきから映子さんの掌の上でころころと転がされ、僕の大人の余裕を見せられていないという事実に。
パソコン画面が完全にブラックアウトすると、映子さんは両手を広げて優しく言う。
「お待たせしました。おいで」
僕は待ってましたと言わんばかりに映子さんの膝に飛び乗って、彼女をぎゅっと抱きしめてふんわりとした髪がかかる首元に顔を埋めた。
「さみしかったですか?」
「うん」
彼女が僕の頭を撫でてくれる。
完敗だった。
大人の余裕があるのは、映子さんの方だった。
「ありがとう。両手塞がってたら助かった」
「ふふ。ギシギシ階段を上ってくる音が聞こえたので!」
彼女が優しい笑顔で言った。
2つのマグカップをガラステーブルの上にコトリと起き、彼女の左隣に腰掛ける。
「ありがとうございます。いただきます。あ! 私のマグカップ!」
美術準備室で使っていた映子さんがバレンタインにくれたお揃いのマグカップを見て、彼女の顔が華やいだ。
「うん。映子さんはもう美術室では使わないだろうと思って、僕のも一緒に持って帰ってきた」
「嬉しいです。えへへ」
こんな些細な事で喜んでくれるんだから、本当に純粋で可愛いよな、と思ってしまう。
「夕飯作るには少し早いし、何かDVDでも観る?」
「はい!」
2人で本棚の前に移動し、DVDが並んでいる棚を眺める。
「あ! ミッド・ナイト・イン・パリ! さすが美術の先生ですね」
「あ、うん。観たことあるの?」
「美術部に入部してから観ました」
「さすが元美術部員だね」
「えへへ。あ、これ観てみたいと思ってたんです! 英国王のスピーチ!」
「じゃあ、それ観ようか」
僕の部屋にはテレビが無いので、黒いノートパソコンをデスクからガラステーブルに移動させて、こうなる事をある程度予測していたので、予め買っておいたポップコーンを下の階から持ってきて食べながら鑑賞した。
終盤に差し掛かると、映子さんは号泣していた。
「はい、ティッシュ」
「ありがとうございます。薫さんもどうぞ」
「ありがとう」
歳を重ねるにつれて、涙腺が緩くなるのは何故だろう。
「薫さん、目が真っ赤です。ふふ」
止めどなく流れ落ちる僕の涙に、彼女がティッシュでそっと僕の頬を拭ってくれた。
優しい彼女のしぐさに、思わずきゅんとしてしまう。
「ありがとう」
僕はハッとした。もし彼女が感動物のDVDを選んだら、彼女の涙を、大人の余裕で僕が優しく拭ってあげようと思っていたのに。しまった。これでは逆だ。
大人の余裕とは一体……。
映画がエンドロールに差し掛かった時、そっと彼女の肩を抱き寄せた。
映子さんが一瞬こちらを見て微笑み、また英字が流れる画面に目を向ける。
彼女の頬に細かく何度もキスをして、耳たぶを甘噛みする。
映子さんは時折、ふふ、と笑ってくすぐったそうに身を捩るが、目線はパソコンの画面に釘付けだ。
僕はこちらを向いてほしくて、彼女の両脇に手を掛けて身体を僕の上に乗せようとするると、
「薫さん、私、映画は最後の字幕まで、じっくり見る派なんです。いちゃいちゃするのは、映画が完全に終わってからにしてください」
と、映子さんが真顔で言った。
「あ、はい。ごめんなさい……」
あしらわれてしまった事に、僕は思わず肩を落としてしゅんとしてしまう。
そんな僕に気付いてか、映子さんがこちらに向かって微笑み、ぎゅっと手を握ってくれた。
たちまち僕は嬉しくなって、思わず満面の笑みになる。
そして気付く。
いけない……。さっきから映子さんの掌の上でころころと転がされ、僕の大人の余裕を見せられていないという事実に。
パソコン画面が完全にブラックアウトすると、映子さんは両手を広げて優しく言う。
「お待たせしました。おいで」
僕は待ってましたと言わんばかりに映子さんの膝に飛び乗って、彼女をぎゅっと抱きしめてふんわりとした髪がかかる首元に顔を埋めた。
「さみしかったですか?」
「うん」
彼女が僕の頭を撫でてくれる。
完敗だった。
大人の余裕があるのは、映子さんの方だった。
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