僕が彼女に執着心を持った時

白河 てまり

卒業

 『明日はいよいよ卒業式だね。
  映子さん、卒業、本当におめでとう。
  映子さんの貴重な高校生活を、短い時間でも共に過ごせたことがとても嬉しく思っています。
  これかも、頑張ってください。応援してます。』

『薫さん、ありがとうございます!
 私もこの高校生活で、薫さんに出会えて仲良くなれたことがとっても嬉しいです。
 高校生活一番の思い出は、薫さんと過ごした美術室です。
 明日、卒業式が終わったら、美術室に行きますね。
 おやすみなさい。』

 卒業式に在校生として参加する2年生の担任として、僕も参加しなければならない。
 映子さん、泣くのかなあ。僕は絶対に泣くと思う。
 卒業式は見ているだけで感極まって泣いてしまうのに、映子さんが卒業ともなれば、その想いもひとしおだろうな。


 当日、卒業生の席である沢山並べられたパイプ椅子の一つに座る映子さんの後ろ頭を見つけて、ずっと見つめていた。
 卒業生入場でカノンが流れて彼女の黒髪が揺れた時も、校長がした「君たちは我が校の誇りです」という挨拶も、卒業生代表が校長から卒業証書を貰う時も、卒業生は最後になるであろう校歌を歌った時も。
 初めて彼女と出会った瞬間から、今に至るまでの思い出を、鮮明に思い出す。

 卒業生退場の瞬間、パイプ椅子でできた群の真ん中を卒業生が一列になって通る時、僕の姿を見つけてくれた映子さんは涙を流しながら、一瞬だけ僕に微笑みを向けてくれた。
 僕も涙を流しながら、大きく頷く。
 カノンが流れる中、彼女の背中を見送った。
 卒業式は、つつがなく終わった。 

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