僕が彼女に執着心を持った時
残り香
パスタをスプーンでフォークに器用に巻き付けている彼女に聞いてみる。
「ところで映子さんは、おいくつなんですか? 学生さんですか? 社会人ですか?」
今日のミッションその2だ。
この問いかけに映子さんはパスタから僕へと視線を移し、丸い目を更に真ん丸にして、2度ほど瞬きをしたと思ったら、むせた。
「大丈夫ですか? ウーロン茶飲んでください」
「す、すみません、けほ、けほ」
彼女が自分の右手で胸をとんとんと抑えて落ち着いた頃、僕はやはり女性に歳を聞いたのはまずかったか、いやでも、聞かれて気分を害するほどの微妙な年頃にも見えないし……と、少し焦っていた。
僕はおずおずと自分の事を話す。
「自分の事も話さずごめんなさい。僕は26歳です。隣町の高校で美術教師をしてます。赴任してきたのが去年で、それまでは東京の商社で働いてました。学生時代に取得した教員免許があったので」
それを聞くと彼女はモナリザのように口元に不思議なアルカイックスマイルを浮かべ、優しい眼差しで僕の目を見る。
「そうなんですね。美術がお好きなんですね。私は文系の学生です。国語以外はこれといった得意教科はありませんが、読書が好きです。部活動も特にしてませんし、何か熱中できるものを探し中です」
言い終わった後、彼女はいたずらっ子のように、口の両端を持ち上げ、ふふ、と笑った。
さすがに、まだ2回しか会った事もないし、本当に教師なのか確認しようもない状況で、自分の大学はどこかだなんて、話さないよな、と思い至る。
「文系の学生さんでしたか。油絵、面白いですよ。僕は油絵が専門です。もし興味がおありでしたら、いつでも教えますよ」
僕はそう言って、マルゲリータを口に運んだ。
僕の言葉を聞いて、彼女は嬉しそうな声で言う。
「本当ですか! ありがとうございます。是非教えてください! よく美術館で油絵を見ていて、面白そうだなって思ってたんです!」
彼女の思わぬ好リアクションに、気分を良くした僕は、恐る恐る聞いてみることにした。
「美術館にもよく行かれるんですね。よかったら、今度ご一緒しませんか?」
最後の声は店内のジャズでかき消されそうなくらい尻すぼみになっていた。
本日のミッションその3、次のデートを取り付ける。
「ええ、是非! 美術の先生と美術館を回れるなんて、楽しみです!」
彼女は目を細め、口角で頬を持ち上げて言った。
その日のデートは大成功だったと思う。
帰りの車の中で、映子さんを送りながらこう伝えた。
「僕、あの日映子さんに助けてもらった時、なんて優しい女性だろうと感動したんです。
そして今日ご一緒させてもらって、とても可愛らしくて、益々素敵な女性だなって、思ってます。
また、僕とデートしていただけますか?」
運転中だったのもあるが、緊張し過ぎて、彼女の顔を見て言えなかった。
車内を彼女の髪の、シャンプーの甘めな匂いが鼻腔をくすぐる。
「私も、今日薫さんと一緒に居て、薫さんは素敵な大人の男性だなって思いました。とっても楽しかったです!
私なんかでよければ、是非またデートしてくださいね。美術館、楽しみです!」
映子さんがそう言い終わらない内に彼女の顔を見ると、暗い夜道でも街灯の灯りが社内に差し込み、彼女は目を半月形にして口角を上げた可愛い笑顔が照らされていて、それを見た僕の気持ちはうわっと上昇した。
帰りは彼女の家まで送り届けた。
一人で自分の家へ向かう社内にも、少しだけ彼女の髪の毛の甘い匂いが残っていた気がした。
「ところで映子さんは、おいくつなんですか? 学生さんですか? 社会人ですか?」
今日のミッションその2だ。
この問いかけに映子さんはパスタから僕へと視線を移し、丸い目を更に真ん丸にして、2度ほど瞬きをしたと思ったら、むせた。
「大丈夫ですか? ウーロン茶飲んでください」
「す、すみません、けほ、けほ」
彼女が自分の右手で胸をとんとんと抑えて落ち着いた頃、僕はやはり女性に歳を聞いたのはまずかったか、いやでも、聞かれて気分を害するほどの微妙な年頃にも見えないし……と、少し焦っていた。
僕はおずおずと自分の事を話す。
「自分の事も話さずごめんなさい。僕は26歳です。隣町の高校で美術教師をしてます。赴任してきたのが去年で、それまでは東京の商社で働いてました。学生時代に取得した教員免許があったので」
それを聞くと彼女はモナリザのように口元に不思議なアルカイックスマイルを浮かべ、優しい眼差しで僕の目を見る。
「そうなんですね。美術がお好きなんですね。私は文系の学生です。国語以外はこれといった得意教科はありませんが、読書が好きです。部活動も特にしてませんし、何か熱中できるものを探し中です」
言い終わった後、彼女はいたずらっ子のように、口の両端を持ち上げ、ふふ、と笑った。
さすがに、まだ2回しか会った事もないし、本当に教師なのか確認しようもない状況で、自分の大学はどこかだなんて、話さないよな、と思い至る。
「文系の学生さんでしたか。油絵、面白いですよ。僕は油絵が専門です。もし興味がおありでしたら、いつでも教えますよ」
僕はそう言って、マルゲリータを口に運んだ。
僕の言葉を聞いて、彼女は嬉しそうな声で言う。
「本当ですか! ありがとうございます。是非教えてください! よく美術館で油絵を見ていて、面白そうだなって思ってたんです!」
彼女の思わぬ好リアクションに、気分を良くした僕は、恐る恐る聞いてみることにした。
「美術館にもよく行かれるんですね。よかったら、今度ご一緒しませんか?」
最後の声は店内のジャズでかき消されそうなくらい尻すぼみになっていた。
本日のミッションその3、次のデートを取り付ける。
「ええ、是非! 美術の先生と美術館を回れるなんて、楽しみです!」
彼女は目を細め、口角で頬を持ち上げて言った。
その日のデートは大成功だったと思う。
帰りの車の中で、映子さんを送りながらこう伝えた。
「僕、あの日映子さんに助けてもらった時、なんて優しい女性だろうと感動したんです。
そして今日ご一緒させてもらって、とても可愛らしくて、益々素敵な女性だなって、思ってます。
また、僕とデートしていただけますか?」
運転中だったのもあるが、緊張し過ぎて、彼女の顔を見て言えなかった。
車内を彼女の髪の、シャンプーの甘めな匂いが鼻腔をくすぐる。
「私も、今日薫さんと一緒に居て、薫さんは素敵な大人の男性だなって思いました。とっても楽しかったです!
私なんかでよければ、是非またデートしてくださいね。美術館、楽しみです!」
映子さんがそう言い終わらない内に彼女の顔を見ると、暗い夜道でも街灯の灯りが社内に差し込み、彼女は目を半月形にして口角を上げた可愛い笑顔が照らされていて、それを見た僕の気持ちはうわっと上昇した。
帰りは彼女の家まで送り届けた。
一人で自分の家へ向かう社内にも、少しだけ彼女の髪の毛の甘い匂いが残っていた気がした。
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