辺境伯に嫁いだけど、自宅裸族なのを隠したい
58話 国境線襲撃犯はフードの集団
「閣下!」
「パーフォス、状況を」
北側を最初に襲撃され、次にすぐ南側、共に爆発から始まり、犯人の姿は最初見えてこなかった。対処に人材を投入しようとしたところに刺客が現れる。
フードを被った集団だった。
「爆発は継続。剣を使い、魔法はほぼ使いません」
「ああ」
処理に向かおうとする隊を攻撃することでさらに分断し、誘導しまとまりを瓦解することで混乱を助長、そしてそこに熊が現れたという。
「熊?」
なんで? 場違いにも程があるでしょ。
しかも季節は春の走り、子連れの場合もあるし、冬眠明けの空腹で気が立ってる可能性もある。
人でないものが急に湧いて出てきて襲いかかり、場はさらに混乱した。指示系統の伝達も分断されている箇所もあるという。
「奴らは少しでも不利になると退避し姿を隠します。ここの構造も理解しているので逆手にとられている状況です」
持ちこたえている。一見、レイオン側が不利に見えるけど、拮抗状態らしい。
「ですが、全て閣下の想定範囲内です」
「そうか」
危機管理としてこうした事態は想定に入れておくべきことではあるけど、パーフォスの言葉が引っ掛かる。こうなると分かっていたような含みがあった。
「中では第三分隊と第五分隊の隊長が指揮を執っています。第四分隊は伝達遮断により現状況不明、これは第二分隊を投入し合流予定です。第六分隊は南側の爆発物処理対応中」
パーフォスが外にいたのは、そもそも彼がレイオンの代わりに領地確認へ出ていたからだ。パーフォス外出時に襲撃があった。狙ってやっていることが分かる。まるで軍隊がこちらの作戦を読んだ上で侵攻してきたようだった。
「問題ない。それも想定した上での分隊の配置だ。各自動けているな?」
「はい。現在死亡者はなし、負傷者は十三名でいずれも軽度、分隊はいずれも維持出来ています」
するとパーフォス直轄隊の一人が伝令で走ってくる。
「奴ら王都組と合流、第二区画に現れました!」
「王都?」
フードを被った集団だとさっき言っていた。
王都でも人攫いでフードの集団が現れ逃げられている。
「人攫いと、ここを襲っているのは同じ?」
「行くぞ」
私の独り言は聞こえなかったらしい。眉間に皺を寄せ苦しそうな顔をしてレイオンが剣を抜いた。
「ヴォイソス、ヴォイフィア。メーラを守れ」
静かに重く応える二人が私の側に立つ。
二人に目をやれば大丈夫ですよと微笑まれるが、視線を逸らせば瞳の中に冷たさと鋭さが混じる。レイオンと同じ目だった。
「ヴォイソス」
「はい、奥様」
「聖女候補を誘拐してたフードの集団と、ここを襲っているのは同じ人たち?」
ぴくりとヴォイソスの肩が鳴る。さっきの伝令係の言葉もあるから、否定も誤魔化しもしなかった。
「そうです」
「なぜ誘拐と襲撃を?」
一見、なにも関係がなさそうに見える。
誘拐することと国境線の襲撃を同時にこなしたいとなると、誘拐した聖女候補を国外に連れ出したいぐらいしか想像ができないが、ここまで事を大きくして目立つ方が危険のはずだ。
「メーラ」
先を行こうとするレイオンが私を呼ぶ。
「二人つけているが、なるたけ離れないように」
「分かった」
レイオンの後を追いかけ、要塞の中に入った。
外ではパーフォスが他の分隊に指揮しながら、ここの周囲に騎士を配置させフードの集団が逃げないよう囲っている。
「閣下!」
レイオンが来ると途端士気が上がった。
そして私がこの場にいるべきでないのは充分分かる。中は私の知らない世界だった。爆発であちこち破損して瓦礫だらけ、中で燃えている火はレイオンが鎮火させていくけど、大きなものだけおさめるだけにとどまり先を進むことを優先する。以前視察した時の清廉とした空気はどこにもなく、負傷した者を連れ退避したり、フードの人間と交戦中の者もいた。それを視認した途端、レイオンの氷がフードの男を捕らえる。退路を確保し逃げ消える男たちの中、一人を生きたまま捕らえた。
「連れていけ」
ちらりと見えたフードの男は私を狙って現れる人物ではなかったけど、その顔には見覚えがあった。
「メーラ、行けるか?」
「……うん」
確信に変わるというのはこういうことか。すとんと落ちて納得し確定してしまった。
今は言葉にすることなく、私たちは広い見張り台兼回廊に出る。
「お、早々に出てきましたね」
「ヴォイソス、油断しないで」
「大丈夫だって。ヴォイフィアこそ力入れすぎんなよ」
目の前にいるのが私を襲った男だ。今ではもう気配だけでなんとかなく分かってしまう。
「早かったな」
「投降は?」
「するわけねえだろ」
レイオンは護衛二人をつけているだけに対し、あちらは十五人。私と私を守るヴォイソス、ヴォイフィアは人数に含められないだろう。
王城で襲われた時よりはマシだけど、あちらに利があることには変わりはない。
「メーラ、少し下がって」
王城にいた時と同じく、レイオンがひりついた空気を纏った。
「パーフォス、状況を」
北側を最初に襲撃され、次にすぐ南側、共に爆発から始まり、犯人の姿は最初見えてこなかった。対処に人材を投入しようとしたところに刺客が現れる。
フードを被った集団だった。
「爆発は継続。剣を使い、魔法はほぼ使いません」
「ああ」
処理に向かおうとする隊を攻撃することでさらに分断し、誘導しまとまりを瓦解することで混乱を助長、そしてそこに熊が現れたという。
「熊?」
なんで? 場違いにも程があるでしょ。
しかも季節は春の走り、子連れの場合もあるし、冬眠明けの空腹で気が立ってる可能性もある。
人でないものが急に湧いて出てきて襲いかかり、場はさらに混乱した。指示系統の伝達も分断されている箇所もあるという。
「奴らは少しでも不利になると退避し姿を隠します。ここの構造も理解しているので逆手にとられている状況です」
持ちこたえている。一見、レイオン側が不利に見えるけど、拮抗状態らしい。
「ですが、全て閣下の想定範囲内です」
「そうか」
危機管理としてこうした事態は想定に入れておくべきことではあるけど、パーフォスの言葉が引っ掛かる。こうなると分かっていたような含みがあった。
「中では第三分隊と第五分隊の隊長が指揮を執っています。第四分隊は伝達遮断により現状況不明、これは第二分隊を投入し合流予定です。第六分隊は南側の爆発物処理対応中」
パーフォスが外にいたのは、そもそも彼がレイオンの代わりに領地確認へ出ていたからだ。パーフォス外出時に襲撃があった。狙ってやっていることが分かる。まるで軍隊がこちらの作戦を読んだ上で侵攻してきたようだった。
「問題ない。それも想定した上での分隊の配置だ。各自動けているな?」
「はい。現在死亡者はなし、負傷者は十三名でいずれも軽度、分隊はいずれも維持出来ています」
するとパーフォス直轄隊の一人が伝令で走ってくる。
「奴ら王都組と合流、第二区画に現れました!」
「王都?」
フードを被った集団だとさっき言っていた。
王都でも人攫いでフードの集団が現れ逃げられている。
「人攫いと、ここを襲っているのは同じ?」
「行くぞ」
私の独り言は聞こえなかったらしい。眉間に皺を寄せ苦しそうな顔をしてレイオンが剣を抜いた。
「ヴォイソス、ヴォイフィア。メーラを守れ」
静かに重く応える二人が私の側に立つ。
二人に目をやれば大丈夫ですよと微笑まれるが、視線を逸らせば瞳の中に冷たさと鋭さが混じる。レイオンと同じ目だった。
「ヴォイソス」
「はい、奥様」
「聖女候補を誘拐してたフードの集団と、ここを襲っているのは同じ人たち?」
ぴくりとヴォイソスの肩が鳴る。さっきの伝令係の言葉もあるから、否定も誤魔化しもしなかった。
「そうです」
「なぜ誘拐と襲撃を?」
一見、なにも関係がなさそうに見える。
誘拐することと国境線の襲撃を同時にこなしたいとなると、誘拐した聖女候補を国外に連れ出したいぐらいしか想像ができないが、ここまで事を大きくして目立つ方が危険のはずだ。
「メーラ」
先を行こうとするレイオンが私を呼ぶ。
「二人つけているが、なるたけ離れないように」
「分かった」
レイオンの後を追いかけ、要塞の中に入った。
外ではパーフォスが他の分隊に指揮しながら、ここの周囲に騎士を配置させフードの集団が逃げないよう囲っている。
「閣下!」
レイオンが来ると途端士気が上がった。
そして私がこの場にいるべきでないのは充分分かる。中は私の知らない世界だった。爆発であちこち破損して瓦礫だらけ、中で燃えている火はレイオンが鎮火させていくけど、大きなものだけおさめるだけにとどまり先を進むことを優先する。以前視察した時の清廉とした空気はどこにもなく、負傷した者を連れ退避したり、フードの人間と交戦中の者もいた。それを視認した途端、レイオンの氷がフードの男を捕らえる。退路を確保し逃げ消える男たちの中、一人を生きたまま捕らえた。
「連れていけ」
ちらりと見えたフードの男は私を狙って現れる人物ではなかったけど、その顔には見覚えがあった。
「メーラ、行けるか?」
「……うん」
確信に変わるというのはこういうことか。すとんと落ちて納得し確定してしまった。
今は言葉にすることなく、私たちは広い見張り台兼回廊に出る。
「お、早々に出てきましたね」
「ヴォイソス、油断しないで」
「大丈夫だって。ヴォイフィアこそ力入れすぎんなよ」
目の前にいるのが私を襲った男だ。今ではもう気配だけでなんとかなく分かってしまう。
「早かったな」
「投降は?」
「するわけねえだろ」
レイオンは護衛二人をつけているだけに対し、あちらは十五人。私と私を守るヴォイソス、ヴォイフィアは人数に含められないだろう。
王城で襲われた時よりはマシだけど、あちらに利があることには変わりはない。
「メーラ、少し下がって」
王城にいた時と同じく、レイオンがひりついた空気を纏った。
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