辺境伯に嫁いだけど、自宅裸族なのを隠したい
70話 聖女の力
「聖女?」
なにかおかしなことがあったかといえば、フォーが大きくなって川の流れを凍らせたことぐらいだ。
フォーはそのまま凍った川の上を歩き岩場を登りフェンリルのいる崖の上までやって来た。
「聖女様とこのことは関係が?」
フォーの背中から降りるとふらついて身体が傾いた。そこにフォーが支えるように寄り添ってくれる。いつもと同じ優しいフォーなんだと思うと嬉しい。
「先程の光は聖女の力だ」
あの光の柱だ。
ああいった形で出ることはないんだが、とフェンリルが加える。
「イリニに触れたか?」
最後の聖女様の名前が出た。彼女の夫、エピシミア辺境伯にお呼ばれした時にお会いしただけなんだけど、そもそもそんな触れるなんて恐れ多くてできない。ハグとかできたら嬉しいけど、そんなことになったら最大級のファンサに付いていけず鼻血出すわ。
まあそれはさておき、聖女様に触れる機会を思い出してみる。握手はなかったけど。
「あるとすれば、飲み物を頂いた時に指先が少し……でも掠る程度でしたよ?」
「充分だな」
聖女様に触れるだけで光るとなったら、あちこち光ってると思うのだけど。
「メーラ、君は元々聖女候補だ。聖女の器としては及第点だったという事だよ」
「んん?」
「僅かに触れるだけでイリニの力を受け入れ、身体の中に留めていたね。その後は何かに呪(まじな)いでもかけたのだろう? それがうまく作用してレイオンの力を一時的に強めたという所だな。詩人のような表現をするなら、一度きりの奇跡、か」
「なるほど?」
光が聖女の力で、それは私が刺繍したハンカチに込められていた。確かにレイオンにプレゼントしたハンカチの刺繍は聖女候補時代に学んだ呪(まじな)いの一つ、安全祈願の模様だ。まさかきちんと目に見える形で作用するなんて思わなかった。
というか聖女様すごすぎじゃない? 聖女を辞しても聖女様でしたとか格好良すぎて、やっぱり一生推せるわ。
「だからフォーが大きくなったんですか?」
「ああ。あの規模で凍らせる魔力をレイオンは普段もっていない」
このまま人型に戻ったらレイオンが巨人になってるとかないよね? 大丈夫だよね?
「それはないな」
「あ、そうですか」
心の中を読まれた。少し恥ずかしい。ええい、気を取り直して。
「あの、アパゴギさんは……」
「君を攫った人間か?」
「はい。一緒に川に落ちたはずです」
フォーが凍らせた先の源流の流れは変わらない。当然アパゴギの姿は見えず、近くの岩場や岸に辿り着いた様子もなかった。
フェンリルが私の言葉に首を振る。
「見てないな」
「そう、ですか」
この流れから探すのは難しい。諦めるしかないだろうか。
結局私の性善説ばりばりの推理は肯定も否定もなかった。彼が素直に話すとは思えなかったけど、もう少し話す時間はほしかったかな。
考えを巡らせていると突然くらりと視界が回った。
「……う」
「水を飲み過ぎたか」
再度ふらついてしまう。目も回っているし、吐き気もきてしまった。
「解消したとはいえ過度のストレスの中にい続けたからな。まだ冷たい川に落ちるのは良くない。早く暖かい所へ移動して休みなさい」
「そう、ですね」
無理してたとは思っている。トラウマと相対して、戦場に立ち会って、誘拐までされて最終的にはまだ冷たい川に落ちた。身体も精神も限界かとは思う。それでも今回起きた一連の事件をレイオンの側で見届けたかった。
「メーラ」
急な眠気がきたと同時に支えてくれていたフォーに変化があった。
濡れた毛並みが消えていき、あたたかさはそのまま力強い腕が私を支えてくれる。
「レイオン?」
「メーラ」
間近にレイオンの心配そうな顔が現れた。
「怪我は」
「ない、け、ど?」
ちょっと待って。
視界に肌色がちらつく。
「レ、レイオン、その」
「早く屋敷に戻ろう」
「う、うん、そうなんだけど、ね?」
「メーラ?」
なにも着てないんじゃないの?
目眩の中、妙に思考がクリアになる。
「ふ、服」
心配する中、なんてことない様子で頷いた。
「いつもは服を持って行くようにしているが、急な事だったから」
川に流されたとレイオン。
い、今真っ裸なの、この人?! え、待って追い付かない、色々!
ここで野外裸族くる?! くる気配どこにもなかった!
「う、うそ!」
そういえば外回廊でも服だけそのまま落ちてた。フォーに戻ってと今切実に思う。恥ずかしいわ。今ここで野外裸族の話とかするつもりもないし。
「メーラ?」
なにを話すべきか悩んでいるうちに目眩がひどくなってきた。眠気も増す。
「ごめ、ん、少し、寝る、ね……」
「メーラ?!」
心配しないで、と言えたか分からないまま意識を手放す。聖女の力云々よりもフォーからレイオンに戻った姿が真っ裸でしたが一番衝撃だったなんて笑えるわ。
「メーラ!」
次に目覚めたのは屋敷のベッドの上だった。
なにかおかしなことがあったかといえば、フォーが大きくなって川の流れを凍らせたことぐらいだ。
フォーはそのまま凍った川の上を歩き岩場を登りフェンリルのいる崖の上までやって来た。
「聖女様とこのことは関係が?」
フォーの背中から降りるとふらついて身体が傾いた。そこにフォーが支えるように寄り添ってくれる。いつもと同じ優しいフォーなんだと思うと嬉しい。
「先程の光は聖女の力だ」
あの光の柱だ。
ああいった形で出ることはないんだが、とフェンリルが加える。
「イリニに触れたか?」
最後の聖女様の名前が出た。彼女の夫、エピシミア辺境伯にお呼ばれした時にお会いしただけなんだけど、そもそもそんな触れるなんて恐れ多くてできない。ハグとかできたら嬉しいけど、そんなことになったら最大級のファンサに付いていけず鼻血出すわ。
まあそれはさておき、聖女様に触れる機会を思い出してみる。握手はなかったけど。
「あるとすれば、飲み物を頂いた時に指先が少し……でも掠る程度でしたよ?」
「充分だな」
聖女様に触れるだけで光るとなったら、あちこち光ってると思うのだけど。
「メーラ、君は元々聖女候補だ。聖女の器としては及第点だったという事だよ」
「んん?」
「僅かに触れるだけでイリニの力を受け入れ、身体の中に留めていたね。その後は何かに呪(まじな)いでもかけたのだろう? それがうまく作用してレイオンの力を一時的に強めたという所だな。詩人のような表現をするなら、一度きりの奇跡、か」
「なるほど?」
光が聖女の力で、それは私が刺繍したハンカチに込められていた。確かにレイオンにプレゼントしたハンカチの刺繍は聖女候補時代に学んだ呪(まじな)いの一つ、安全祈願の模様だ。まさかきちんと目に見える形で作用するなんて思わなかった。
というか聖女様すごすぎじゃない? 聖女を辞しても聖女様でしたとか格好良すぎて、やっぱり一生推せるわ。
「だからフォーが大きくなったんですか?」
「ああ。あの規模で凍らせる魔力をレイオンは普段もっていない」
このまま人型に戻ったらレイオンが巨人になってるとかないよね? 大丈夫だよね?
「それはないな」
「あ、そうですか」
心の中を読まれた。少し恥ずかしい。ええい、気を取り直して。
「あの、アパゴギさんは……」
「君を攫った人間か?」
「はい。一緒に川に落ちたはずです」
フォーが凍らせた先の源流の流れは変わらない。当然アパゴギの姿は見えず、近くの岩場や岸に辿り着いた様子もなかった。
フェンリルが私の言葉に首を振る。
「見てないな」
「そう、ですか」
この流れから探すのは難しい。諦めるしかないだろうか。
結局私の性善説ばりばりの推理は肯定も否定もなかった。彼が素直に話すとは思えなかったけど、もう少し話す時間はほしかったかな。
考えを巡らせていると突然くらりと視界が回った。
「……う」
「水を飲み過ぎたか」
再度ふらついてしまう。目も回っているし、吐き気もきてしまった。
「解消したとはいえ過度のストレスの中にい続けたからな。まだ冷たい川に落ちるのは良くない。早く暖かい所へ移動して休みなさい」
「そう、ですね」
無理してたとは思っている。トラウマと相対して、戦場に立ち会って、誘拐までされて最終的にはまだ冷たい川に落ちた。身体も精神も限界かとは思う。それでも今回起きた一連の事件をレイオンの側で見届けたかった。
「メーラ」
急な眠気がきたと同時に支えてくれていたフォーに変化があった。
濡れた毛並みが消えていき、あたたかさはそのまま力強い腕が私を支えてくれる。
「レイオン?」
「メーラ」
間近にレイオンの心配そうな顔が現れた。
「怪我は」
「ない、け、ど?」
ちょっと待って。
視界に肌色がちらつく。
「レ、レイオン、その」
「早く屋敷に戻ろう」
「う、うん、そうなんだけど、ね?」
「メーラ?」
なにも着てないんじゃないの?
目眩の中、妙に思考がクリアになる。
「ふ、服」
心配する中、なんてことない様子で頷いた。
「いつもは服を持って行くようにしているが、急な事だったから」
川に流されたとレイオン。
い、今真っ裸なの、この人?! え、待って追い付かない、色々!
ここで野外裸族くる?! くる気配どこにもなかった!
「う、うそ!」
そういえば外回廊でも服だけそのまま落ちてた。フォーに戻ってと今切実に思う。恥ずかしいわ。今ここで野外裸族の話とかするつもりもないし。
「メーラ?」
なにを話すべきか悩んでいるうちに目眩がひどくなってきた。眠気も増す。
「ごめ、ん、少し、寝る、ね……」
「メーラ?!」
心配しないで、と言えたか分からないまま意識を手放す。聖女の力云々よりもフォーからレイオンに戻った姿が真っ裸でしたが一番衝撃だったなんて笑えるわ。
「メーラ!」
次に目覚めたのは屋敷のベッドの上だった。
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