辺境伯に嫁いだけど、自宅裸族なのを隠したい

参(まいり)

65話 最初の人攫い未遂で助けてくれた恩人がレイオンなの?

「本当に知らなかったんだな」
「は、恥ずかしいです……やらかしたことしかない……」
「まあ最初にあんたを守った時からずっとあんただけぽかったしな」

 醜態しか晒していない。穴掘る? 入っても無駄なレベルな気がするよ?

「……………ん?」
「あ?」
「…………アパゴギさん、今なんて?」
「知らなかったんだなって」
「それはレイオンがフォー、フォティアだってことですよね? その後」
「ずっとあんただけだって話か?」

 ずっと、とは?
 言い方が結婚してからの一年じゃないニュアンスだ。

「ずっととは?」
「あ? 最初にあんた攫うのしくじったのは坊っちゃんがいたからだろうが」
「それは、つまり?」
「さっきからなんだよ? あん時も今もあんたを俺から守ったのは坊っちゃんだろうが」

 嘘でしょ?!
 よく覚えてなくて思い出せない私を守ってくれた人のことだ。兄も名前を教えてくれなかった、最初の人攫い未遂で助けてくれた恩人がレイオンなの?
 名前を伏せていた理由は分からないけど、レイオンだったら合点がいく。
 泉で私を守ってくれた時に記憶が被ったように思えたのは同一人物だから。そしたら彼は本当に、ずっと、ずっと前から私を守ってくれている。

「あ、うわ、わあ」

 だから彼のおいでの言葉に弱いわけ。
 懐かしいとまで感じていた。フォーのこともだけど、気づけるシーンはいくらでもあったじゃない。
 初めて守ってくれた日においでと言って泣く場所を作ってくれた。
 そうと知らず私は彼のおいでになんて従順になっていたの。いやもうあれ刷り込みな気もするけど。

「さっきから恥ずかしいしかない……もうやだ」

 顔だけじゃない、全身熱くて赤くなってる気がする。

「……あんた見てるとつくづくこの国が平和になったと思うわ」
「ああはい、なによりです」
「皮肉だっつの」

 アパゴギは知っていた。いやむしろ屋敷の人間も国境武力の面々も、兄も王太子殿下も知っていて、知らないのは私だけっぽいぞ。なんでこうも私の周囲は暴露せずにいるのか。

「わ、私だけ知らなかった?」
「さっきからなんだよ」
「アパゴギさん! なんでもっと早くに教えてくれなかったんですか?!」
「はあ?」
「もう一年以上経っちゃってるじゃないですか!」
「はああ?」

 八つ当たりも甚だしいのは分かっているけど、誰かにこの気持ちをぶつけないとやっていけなかった。
 この一年積み重ねた恥をご覧下さいという状況に耐えられるはずがない。

「あの、なんかこう冷静になれる話をしてもらえません?」
「なに言ってんだ」
「談笑に花咲かせようって言ったのアパゴギさんじゃないですか!」

 逆ギレした。アパゴギは不快感に顔を歪めたけど、言い返してはこない。むしろ付き合ってくれる当たり優しいと思う。赤くなって叫び混乱する私によく付き合ってくれてるよね。

「あー、じゃあなんだ? あんたの質問に応えるか?」
「……じゃ、じゃあ、話を誘拐に戻しましょう!」
「震えてた癖によくその話振れるな」

 背に腹は代えられない。それにトラウマはレイオンのおかげで緩和している。認知を深めることによってよりトラウマを完全に克服できるレベルに持っていける気がした。そう、きっとそうだ。

「そもそもなんですけど」
「きくのかよ……」
「どうして王城と国境線を攻めることにしたんです?」
「あー、成程そこからか」

 呆れていたアパゴギがすっと冷静な色が戻り、再びせせら笑う段階まで戻って来た。会話の回り道をしていたような気もする。ここが本来のルートでした、的な。なんてね。
 私の失態はこの際、シリアスに持って行ってもらって流れを完全に戻してもいいと思う。その方が冷静になれるしね。ね!

「王城には聖女候補が集まってたから丁度良かっただけだな」
「警備が厳重でしたよね? 危険を冒してまでやることでしたか?」
「罠だっつーのは分かってた」

 それでも王城で騒ぎを起こすのは理に適っていたと彼は主張した。

「まあ城内に詳しいつーのもあったが、一番はあれだな。聖女候補が手に入るってのに加えて、騒ぎが大きくなりゃ王城に兵は留まって王様を守ろうってなるだろ。そこだな」
「陽動に使ったってことですか?」
「ああ。王都の騎士に追い回されるのは骨が折れるし、国境を越えるのも厳しくなるからな」

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