辺境伯に嫁いだけど、自宅裸族なのを隠したい
62話 フォーがレイオン
ズドンと鈍い音と共に足元が揺れた。
遠く要塞の南側から黒煙があがり、間を置かずにその爆発が二つめ三つめと続く。
「なにを」
「いい頃合いだな」
さっきの目配せはやっぱり合図だったのね。私たちと話をすることで時間稼ぎまでしてた。
と、足元から押されるような圧がかかる。
「メーラ!」
私とレイオンの足元が崩れる。
後ろに引くと足元が崩れ、頑丈な砦が歪に吹っ飛んだ。直接ここも爆破してくるなんて見境がない。
「レイオン、危ない!」
熊が突進してくるのが視界に入り、彼を押してその攻撃から逃れる。私とレイオンの間を通り壁に激突した熊は、怯むことなく別方向へ走り暴れ回った。
爆発の音が鳴り響く度に熊が叫び、無差別に力を振るい始める。様子がおかしい。明らかに爆発の音に反応している。
「まさか」
「そうそう、火は恐れず爆発で暴れるように調教したってことさ。器用だろ?」
背後からアパゴギの声が聞こえた。
気づいた時にはもう遅い。近くにレイオンがいなくて、私と彼の一対一。
熊と爆発を利用して、私とレイオンを引き剥がして、孤立したところを正確に狙ってきた。
「メーラ!」
焦るレイオンの声に視線をうつすと、彼の背後にまた別の熊が鋭い爪を掲げていた。
「レイオン後ろ!」
「!」
剣で爪を受けるも、よく見れば熊の手に防具と思われるものが身に付けられていた。あれなら剣で受けても爪以外の腕は傷つかない。
再び爆発が起きて、国境線側が抉れ道ができた。
「最後に別れの挨拶でもさせてやろうか?」
振り向き様、手をあげるも、あっさり掴まれてしまう。
「おー意外だな」
「メーラ!」
炎と氷が私を守ろうと登り立つのを別のフードの男が間に入って魔法を浴びここまで届かなかった。さらに追撃があっても次は飛び出した熊に当たる。
さっき私と彼を分断した時も熊がタイミングよく入ってきた。まさかとは思ったけど、私を捕らえて上機嫌な男に問う。
「誘導したんですか?」
「本当察しがいいな? 多少犠牲が出てもお釣りがくるんだよ」
そのぐらいの価値が私にはあると言う。
この要塞で会った時もアパゴギは似たようなことを言っていた。聖女候補として有名であったと。
「メーラ!」
私とレイオンの間が再び頑丈な要塞を突き抜けて爆ぜる。これ以上爆発を続ければ自分たちだって危険だ。明らかに攻めすぎているのに、アパゴギは尚も笑い続けた。
「あんたは坊っちゃんが人だと言ったな?」
「?」
混乱して暴れ回る熊が度重なる爆発でさらに乱れた。レイオンを容赦なく襲う。
「坊っちゃん、人のナリじゃ熊の相手はきついって分かってんだろ?」
「……」
「騎士の弱いところをつくよう調教したからな。結構大変だったんぜ」
なにせ爆発で混乱させつつも攻撃はいやらしくだからと煽るように揶揄する。
「なにを言ってるんですか?」
含みを持つ言い方に眉間に皺が寄るのが分かった。レイオンに対してここまで煽る必要もない。
「このままじゃあ奥様助けらんねえな?」
歯を食いしばって唸るレイオンが見える。周囲はフードの集団と交戦中、他の熊だって暴れているし、爆発の多さもあってレイオンへ加勢できない。
「メーラ」
彼の持つ焦燥がすっと下がった。瞳に冷静さが宿り、なにかを覚悟したのが分かる。
「今まで黙っていてすまなかった」
「え?」
瞬間、彼の姿が消えた。
「ほらよく見ろ」
「え?」
「これを見てもまだ人って言えるか?」
消えてはいなかった。剣が落ちる金属音と一緒に彼の着ていた服が爆発でぼろぼろの要塞の屋上に転がる。
その中からするりと現れたのはよく知る子だった。
「フォー?」
銀色がかった灰色の毛並みと薄い緑の瞳を持つ見慣れたあの子が目の前の熊を睨みつけ吠えながら飛び掛った。
「知らなかっただろ?」
「レイオン? フォー?」
熊の首を咬み、振り下ろされる鋭い爪を避ける大型の犬は間違いなくフォーだ。
「あれを見てもまだ人だと言えるか?」
嘘だ。
フォーがレイオン?
ずっと側にいて守ってくれていたあの子がレイオン?
「化け物だろうが」
混乱する頭の中にその言葉だけはきちんと入ってきた。
私を捕らえる男を睨み上げる。
「化け物じゃない!」
「この姿を見てまだ言うのか?」
視線を戻す。熊と戦うフォーと目が合った。
「化け物じゃない。だってずっと守ってくれたもの」
今も前も熊から助けてくれたのはフォーだ。
「…………あれ、ちょっと待って」
フォーがレイオンということは?
今までのフォーとのやり取りが走馬灯のように頭の中を流れる。
あっれ、なんかとても恥ずかしくなってきたかな?
「ああ?」
「フォーがレイオン……」
私の様子が期待したものじゃなかったらしいアパゴギはつまんねえなと吐露した。ならもうやめかとも。
フォーが熊に押し勝って退かせた後、こちらに向かって吠えた。
「フォー!」
「頃合いだな」
その言葉にやっと現実に戻ってくる。逃走する気だ。これだけ場が混乱しているから簡単だろう。
「離して」
「いい金で売れたら解放してやるさ」
大人しくしてろと首の後ろに衝撃が走る。
同時にもう二回爆発が起きて煙が登る中、私は意識を手放した。
遠く要塞の南側から黒煙があがり、間を置かずにその爆発が二つめ三つめと続く。
「なにを」
「いい頃合いだな」
さっきの目配せはやっぱり合図だったのね。私たちと話をすることで時間稼ぎまでしてた。
と、足元から押されるような圧がかかる。
「メーラ!」
私とレイオンの足元が崩れる。
後ろに引くと足元が崩れ、頑丈な砦が歪に吹っ飛んだ。直接ここも爆破してくるなんて見境がない。
「レイオン、危ない!」
熊が突進してくるのが視界に入り、彼を押してその攻撃から逃れる。私とレイオンの間を通り壁に激突した熊は、怯むことなく別方向へ走り暴れ回った。
爆発の音が鳴り響く度に熊が叫び、無差別に力を振るい始める。様子がおかしい。明らかに爆発の音に反応している。
「まさか」
「そうそう、火は恐れず爆発で暴れるように調教したってことさ。器用だろ?」
背後からアパゴギの声が聞こえた。
気づいた時にはもう遅い。近くにレイオンがいなくて、私と彼の一対一。
熊と爆発を利用して、私とレイオンを引き剥がして、孤立したところを正確に狙ってきた。
「メーラ!」
焦るレイオンの声に視線をうつすと、彼の背後にまた別の熊が鋭い爪を掲げていた。
「レイオン後ろ!」
「!」
剣で爪を受けるも、よく見れば熊の手に防具と思われるものが身に付けられていた。あれなら剣で受けても爪以外の腕は傷つかない。
再び爆発が起きて、国境線側が抉れ道ができた。
「最後に別れの挨拶でもさせてやろうか?」
振り向き様、手をあげるも、あっさり掴まれてしまう。
「おー意外だな」
「メーラ!」
炎と氷が私を守ろうと登り立つのを別のフードの男が間に入って魔法を浴びここまで届かなかった。さらに追撃があっても次は飛び出した熊に当たる。
さっき私と彼を分断した時も熊がタイミングよく入ってきた。まさかとは思ったけど、私を捕らえて上機嫌な男に問う。
「誘導したんですか?」
「本当察しがいいな? 多少犠牲が出てもお釣りがくるんだよ」
そのぐらいの価値が私にはあると言う。
この要塞で会った時もアパゴギは似たようなことを言っていた。聖女候補として有名であったと。
「メーラ!」
私とレイオンの間が再び頑丈な要塞を突き抜けて爆ぜる。これ以上爆発を続ければ自分たちだって危険だ。明らかに攻めすぎているのに、アパゴギは尚も笑い続けた。
「あんたは坊っちゃんが人だと言ったな?」
「?」
混乱して暴れ回る熊が度重なる爆発でさらに乱れた。レイオンを容赦なく襲う。
「坊っちゃん、人のナリじゃ熊の相手はきついって分かってんだろ?」
「……」
「騎士の弱いところをつくよう調教したからな。結構大変だったんぜ」
なにせ爆発で混乱させつつも攻撃はいやらしくだからと煽るように揶揄する。
「なにを言ってるんですか?」
含みを持つ言い方に眉間に皺が寄るのが分かった。レイオンに対してここまで煽る必要もない。
「このままじゃあ奥様助けらんねえな?」
歯を食いしばって唸るレイオンが見える。周囲はフードの集団と交戦中、他の熊だって暴れているし、爆発の多さもあってレイオンへ加勢できない。
「メーラ」
彼の持つ焦燥がすっと下がった。瞳に冷静さが宿り、なにかを覚悟したのが分かる。
「今まで黙っていてすまなかった」
「え?」
瞬間、彼の姿が消えた。
「ほらよく見ろ」
「え?」
「これを見てもまだ人って言えるか?」
消えてはいなかった。剣が落ちる金属音と一緒に彼の着ていた服が爆発でぼろぼろの要塞の屋上に転がる。
その中からするりと現れたのはよく知る子だった。
「フォー?」
銀色がかった灰色の毛並みと薄い緑の瞳を持つ見慣れたあの子が目の前の熊を睨みつけ吠えながら飛び掛った。
「知らなかっただろ?」
「レイオン? フォー?」
熊の首を咬み、振り下ろされる鋭い爪を避ける大型の犬は間違いなくフォーだ。
「あれを見てもまだ人だと言えるか?」
嘘だ。
フォーがレイオン?
ずっと側にいて守ってくれていたあの子がレイオン?
「化け物だろうが」
混乱する頭の中にその言葉だけはきちんと入ってきた。
私を捕らえる男を睨み上げる。
「化け物じゃない!」
「この姿を見てまだ言うのか?」
視線を戻す。熊と戦うフォーと目が合った。
「化け物じゃない。だってずっと守ってくれたもの」
今も前も熊から助けてくれたのはフォーだ。
「…………あれ、ちょっと待って」
フォーがレイオンということは?
今までのフォーとのやり取りが走馬灯のように頭の中を流れる。
あっれ、なんかとても恥ずかしくなってきたかな?
「ああ?」
「フォーがレイオン……」
私の様子が期待したものじゃなかったらしいアパゴギはつまんねえなと吐露した。ならもうやめかとも。
フォーが熊に押し勝って退かせた後、こちらに向かって吠えた。
「フォー!」
「頃合いだな」
その言葉にやっと現実に戻ってくる。逃走する気だ。これだけ場が混乱しているから簡単だろう。
「離して」
「いい金で売れたら解放してやるさ」
大人しくしてろと首の後ろに衝撃が走る。
同時にもう二回爆発が起きて煙が登る中、私は意識を手放した。
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