辺境伯に嫁いだけど、自宅裸族なのを隠したい

参(まいり)

59話 外回廊での戦い

 見張り台兼回廊であるこの場所は、当然柵を越えれば落ちる以外の選択肢がない。

「うわあ」
「さすがですね~」

 問答無用でフードの男たちが落ちていく。その先はパーフォスが配置していた騎士がいるので、そこで回収されることになる。
 にしたって容赦なく落としてくレイオンもレイオンだ。王城の時とは違って氷と炎の魔法は万全になってしまっているし、気だるさはどこへやら剣を持つ手に力が入っている。ので、彼一人で十人ぐらいなら余裕で相手できるレベルだった。

「満月直後なのに元気ですね~」
「ヴォイソス、気を抜かない」
「はーい」

 確かに随分様子が違うのは気になった。

「はは、もしかして奥様、お手当でもしてあげたとか?」
「お手当?」
「痛いの痛いのとんでけ~ってやつ?」

 そんなわけないかと笑うヴォイソスに思い当たる節がありどきりとする。王城で斬られた傷を全身あますことなく治癒魔法をかけて治した。けど私の治癒に元気になるエネルギードリンク的な付加要素はないはずだ。最後の聖女様だったエピシミア辺境伯夫人レベルならそのぐらいできたかもしれないけど、私は候補だっただけのただの公爵令嬢でもどきにもなれない。

「おっと」

 隙間を縫ってフードの人間たちは襲って来る。相手をする双子の家令の腕は相当なものだった。フードの集団の剣の腕は、この要塞の騎士と同じぐらいの強さだ。それを双子はものともしない。
 リーダー格のあの男が一際強いようだけど、他だけで考えるならこの人数でも対処できてしまうだろう。

「二人とも強すぎでしょ」
「ありがとうございます」

 ヴォイフィアが笑う。ううん、褒めてるけど、そういう返しを求めているんじゃなくて。

「奥様、驚いたでしょ? 屋敷の人間はここの騎士達と同水準かそれ以上の訓練を受けてるんですよ」
「やっぱりそうなの」

 妙に手馴れているし、屋敷に戻った時の反応がここにいる騎士たちと同じだった。きっとこの領地を守る為だろう。

「御察しの通り、不測の事態に領地内で対応出来るようにっていうやつです」

 麓の町の人間も王都の庶民と比べれば手練れですよ~とヴォイソスは暢気に笑う。私はのんびり過ごしすぎて、この領地のことも領民のこともなにも知らなかったのね。

「旦那様自ら訓練をして下さいました。ですので、麓の町の人間も私達屋敷の人間も、ここの騎士達も、手ずから面倒を見てくれた主人を尊敬しているのです」
「え、ちょっとそれお前が言うの? そこ一番いい台詞なんだから言わせて?」
「黙って奥様を守りなさい」
「ええー……」

 毎日領地回りで忙しい人で、広大な地を守るのはそんなに大変なのかと思っていた。全ての人材を騎士レベルで育成に加え領地内の安全確認をこなしているのであれば、それ相応の時間はかかる。食事と睡眠削るわけだわ。

「すごいのね」

 領民に信頼され愛されるのも、この地のどこを行っても安全なのは全部彼自身が築き上げたものだ。

「まあこのままいけば全部落とせそうですし、帰ってご飯食べられますかね?」
「ヴォイソス」

 窘められるヴォイソスを横目に、その通りだと頷いてしまう。
 なんとなく強いとは思っていたけど、ここまで圧倒的とは思ってなかったし、今まで彼が剣を振るう時は私自身震えて余裕がなくてしっかり見てなかった。フードの集団だって弱いわけではない。素人でないのは動きで分かるし、統制のとり方が騎士と同じだ。訓練を受けてきている者たちだと思われる。それを複数人、あっさり薙ぎ払える強さを持っているのがレイオンだ。

「退け」

 戦局があまりにレイオンに有利だからか、フードの男は舌打ちをして生き残っている者たちを一旦引かせた。
 投降するだろうか。それとも逃げるだけだろうか。
 逃げるにしても建物出入口は二つ、それぞれ騎士たちが待機しているし、要塞を捨てて外から逃げるにしてもパーフォスの配置した部隊が待ち構えている。
 一旦、リーダー格の男の周囲に集まると、レイオンが静かに告げた。

「投降を」
「しねえっつーてんだろ」

 男がなにかの合図を手で示した。すぐ近くで爆発が起きると同時に何か大きなものがすぐ側に来る。
 速すぎてなにが起きたかわからなかった。

「っ! 後ろだ!」
「え?」
「奥様!」

 ヴォイフィアに背中を押されて足がもつれ躓いた。腹の底に響くような轟音がやってきて、そのまま彼女は大きな衝撃と共に吹っ飛ばされる。

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