辺境伯に嫁いだけど、自宅裸族なのを隠したい

参(まいり)

33話 私は今フォティアにやきもちを焼いている

 屋敷に戻ると、アドバイザーの三人とゾーイが待っていた。
 ゾーイに彼から頂いたものを部屋に運ぶよう伝える。その間に三人は自身の主人と成果について話しているようだった。

「え、まだ?」

 ぐっと喉を鳴らしたレイオンに家令たちが小さく溜め息をついた。
 そして視線だけで会話した家令たちは彼に後にしますから今すぐに済ませますよう伝える。

「奥様、お部屋に」
「うん?」

 ゾーイに促される。
 レイオンを置いて先に部屋に戻り、ソファであたたかいお茶を頂き始めてすぐにレイオンが入ってきた。
 ゾーイが静かに部屋から出ていく。隣に座ったレイオンがこちらに体を向ける。

「メーラ」
「なに?」
「君に渡したいものが」

 手にしているものはリボンのかかった箱だった。

「私に?」
「自身で考えろと言われてから決めた誕生日プレゼントを、いつ渡せばいいか分からなくて」

 箱を受けとる。
 さっき話していたのはこれだったの。確かに食事の後だって帰りの馬車の中でだって、いつでも渡すタイミングがあった。できなくて今ここに至る。
 家令の助言なら安心できるけど、自分の判断にいまいち確信が持てなくて、ここまできてしまったと耳があったらぺたっと垂れてそうな空気を出した。今日は感情豊かね。

「ありがと。開けてもいい?」
「ああ」

 中には見知ったものがあった。

「聖女様ブランド」
「好きだろうかと思って」

 しかもキャンプギアだ。コーヒーミルにオイルランタン、タープの下でフォーと話してたやつだ。

「私が欲しいって知ってたの?」
「ああ、まあ」

 言って視線を逸らす。
 あいてる両手を救い上げぎゅっと握るとピクリと反応した。

「嬉しい!」
「ああ」
「ギアは沼なんで買うのセーブしてたから、今本当にほしかったやつ! ありがとう!」
「ああ、よかった」

 私のことを本当に考えて選んでくれた。ならここはやること一つしかない。

「今から使おう」
「え?」
「というか行こ?」
「どこへ?」
「秘密基地」

 日も暮れて危ないところをレイオンがいるからと外に出た。皆が私を祝いたいからと夕食を用意しているので、ほんの一時だけとお願いした上でだ。
 場所は勿論フォーと一緒にいる泉の側のタープ。

「まずはオイルランタン」

 暗いところをなんとか火をつけ、持ってきていた別の明かりは消す。 
 やっぱり最高。独特の柔らかい照度と揺らぎがたまらない。  

「ふわあ綺麗……想像以上」

 悦に浸っていたらレイオンがくすりと笑った気がした。
 見上げてもあまり表情に変化がない。照らされた瞳が少し輝いて見える。

「気に入った?」
「勿論! ずっと欲しかったから」

 そのまま火を興して結婚前にゲットしていたステンレス製ケトルを使ってお湯を沸かす。
 丁度町の喫茶店で豆は買っていたし、ドリップ用の器材も用意済みだ。
 がりがり豆をひけば、香りが鼻腔を擽る。ひきたて最高すぎでしょ。

「はい、コーヒー」
「ああ」

 焚き火は消して、オイルランタンを目の前に二人でコーヒータイムだ。

「ふああ贅沢」

 レイオンのおかげだと伝えると、柔らかい雰囲気を見せた。

「喜んでくれて良かった」
「本当最高。またやろうね?」

 私の言葉に眦を上げる。

「……いいのか?」
「勿論」
「ここは君とフォティアの場所ではないのか?」
「そうだけど、いつかここには一緒に来たかったし。一回きりっていうのも」

 領地内なのだから、主であるレイオンがどこにいようと自由だし許される。
 けどなにか遠慮しているような空気がした。

「あー、まあフォーが焼きもちやくかな? 俺以外の男の話するなよみたいな反応するから」
「やきもち」
「でも頭いい子だし、レイオンが主人なわけだから大丈夫でしょ。三人でってのもありかな」

 あいてる手にレイオンの手が重なった。
 なんだろうと思って視線をあげると、眉間に少し皺を寄せたレイオンが見下ろしている。

「他の男の話をされると胸焼けがするのは、やきもちなのか?」
「え? まあそう、かな?」
「三人じゃなくて二人でここにいたいと思うのも?」
「うん?」

 急になに? 拗ねてるようにも見えるけど?

「そうなのなら私は今フォティアにやきもちを焼いている」
「え?!」
「今は私との時間だろう?」
「そう、だけど」

 重ねた手を今度は絡めてくる。
 どうしたの。フォーにやきもちって?

「今も私に触れて欲しい?」

 恥ずかしいことをきいてくる。酔っ払ってた時の言葉は信じちゃだめでしょ。
 見上げた先の彼は目元を赤く、瞳を僅かに揺らして私の返事を待っていた。
 期待しているようにも見えるのは気のせいだろうか。

「……う、ん」

 あの時の言葉は嘘ではない。彼には触れられて嫌な気持ちにならないし、むしろ心地いい。
 いくら恥ずかしくて、はしたないと分かっていても答えは同じところに行き着く。

「……触ってほしい」

 オイルランタンに照らされて陰りのある中できちんと笑うのが見える。
 そのままゆっくり近づいてくるのを拒めなかった。

「レイオ、ん」

 躊躇うことなく静かに唇を寄せられる。
 コーヒーの苦い味がした。

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