堕ちる雫

八つの蜜

episode.2 扉を叩く

「とりあえず今は寝かせてるから起きたら少しずつ話を聞いていきましょう」

「全部お任せしてすみません」

特課ビルの一室にて彼女を寝かし、扉から出てきた結奈と話をする。

「私また魁斗くんが一般人巻き込んじゃったのかもってヒヤヒヤしたんだから」

「ぐっ…」

そう、過去に一度俺は憎しみに身を任せ無鉄砲にも一人で飛び出し、無関係な人を巻き込んだ…

「今は兄さんが見てくれているから安心して」

「はい…」

「そうそう、俺に任せておけって」

江東蜜璃えとうみつり、結奈とは違い髪の色は緑がかった黒色だが兄妹である。

能力はおじさんと麗央さんしか知らず謎の多い蜜璃さんだが信頼できる人だと思っている。任せておけば大丈夫だろう。

「体に異常は無かった。暴行跡も無い。君が危惧するような状態では無かったよ」

「そうですか…わかりました」

俺は蜜璃さん、結奈さんに後を任せ特課の事務所へと階段を下り扉を開ける。

「魁斗お前女性を連れ込んだらしいな!」

扉の前で腕組みし仁王立ちする、この巨漢の男は貞島麗央さだしまれおさん。身長2m30cmという規格外の高身長にその巨体を支える強靭な筋肉。筋骨隆々とはこの人の為に作られた言葉のような気がしてならない。

「違います。道で倒れていたので保護しました」

「え〜つまんないの〜」

「「ね〜」」

紘さんと麗央さんのこのふざけたコンビは無視に限る。奥の机に目を向けるがおじさんはまた出かけているらしい。

「魁斗、帯人さんから伝言な。今日はここで泊まってっていいってよ」

「そうさせてもらいます」

おじさんの気遣いに感謝し、椅子に腰掛ける。


麗央さんは自宅へ、紘さん、蜜璃さん、結奈さんはビル内にある自室へと戻る。俺自身は事務所に残り、今日の分の報告書を製作した後ソファーの背もたれを倒し横になる。

(あの妖魔が気にしたのは彼女?でも彼女から異能らしき形跡は感じなかった…それともまた別のー)

横になり休むつもりが気付けば考えて考えている。脳を休める事ができていない。考えを振り払おうにも気になるのは彼女。

(何であの場所で倒れていたんだ?体温が下がっていたから結構な時間あそこにいたことになる…それか雨に打たれるている時間が多かったのか…?)ウトウト

徐々に眠気が体を襲う。

ガチャ…

扉が開く音で体が強張る。後ろからゆっくりとこちらに近づく足音(足を擦る音)が聞こえる。

(紘さんならうるさく来るだろうし、蜜璃さんや結奈さんは用事が無ければここに入ってこない…じゃあ…誰…だ…?)

自分の思考が纏まらないまま、急激な眠気に襲われ、真相を知る前に魁斗の意識は堕ちていく。


「ー、ー!」

「ー、はー!」

「ー、ーー!」バン

「あははははは!!!」バンバンバン

笑い声、机を叩く音で目が覚める。

「あ、起きた」

「魁斗、おま、お前、懐かれてんじゃん」ブフッ

「は…?」

ソファーに横になっていたため起きあがろうとする。が、背後にある違和感に気づく。
昨日助けた女性が魁斗に添い寝するようにスウスウと寝息を立てていたのだ。

「…???」カチコチ

「だははははは!!」バンバンバン

「あははははは!!!」バンバンバン

「笑ってないで助けてくださいよ麗央さん紘さん…」

この2人は面白がって敢えて起こさなかったのだろう。魁斗は女性が苦手なのだ…


彼女は起きる事なく今も尚、ソファーの半分を占領している。

(あれだけ騒がしかったのに起きないなんてよっぽどだな…)

「今日はお二人とも早いですね。何でですか?嫌がらせですか?」

「俺は帯人に呼び出されてな!」

「俺は麗央に呼ばれて来たら面白いものが見れて満足でした〜」

「なるほど」

紘さんに関しては嫌がらせだ。それと麗央さんは面白半分に紘さんを呼びに行った罰を与えなくては…

事務所の扉を開き階段越しに大声を上げる。

「今日の夕食は麗央さんと紘さんの奢りだそうでーーす!!!」

「お、お前ぇ!!」

「やりやがった!こいつやりやがったよ!」

エレベーターの降りてくる音がし、事務所に入ってくるのは結奈さんと蜜璃さんだ。

「今日は麗央さんと紘さんの奢りなんですね!楽しみですね、兄さん」

「折角だから高いところにしよう回らない寿司屋とかな」

「お前俺の財布を吹っ飛ばす気か!?」

「俺今月やばいのに〜」

このように騒いでいても彼女は一向に起きる気配はない。蜜璃さんは彼女が部屋を出て移動した事に気づいていたのか彼女に関しては何も口に出さなかった。

そうこうしている内に帯人が事務所のドアを開く。帯人の横には小柄な女性が立っており恐る恐るといった様子である。

「珍しいな、こんな早くにお前たちがここに集まるの…」

蜜璃(寝坊常習犯)、麗央(自由奔放)紘(右に同じく)。

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