社長は身代わり婚約者を溺愛する
第26話 俺じゃダメ?②
次の日、いつも通り会社へ行ったら、エレベーターの前に信一郎さんが立っていた。
私の足が、ふいに止まった。
こうして見ていても、信一郎さんは素敵な人。
私の中ではまだ、信一郎さんへの恋は終わっていない。
ふと、信一郎さんが私の方を振り返った。
「おはようございます。」
「おはよう、礼奈。」
ドキッとした。
私の事、礼奈って呼んでくれている。
その瞬間、エレベーターの扉が開いて、たくさんの人が私と信一郎さんを引き裂いた。
私は、そのエレベーターに駆け寄る事ができなくて、信一郎さんはエレベーターに乗って、行ってしまった。
あーあ。このままで、仕事やれるかな。
「おはよう、森井さん。」
振り返ると、下沢さんが立っていた。
「おはようございます。」
「エレベーター、来てるよ。」
「はい。」
下沢さんと一緒に、エレベーターに乗って、オフィスに向かった。
「辞めるなよ、会社。」
下沢さんの言葉に、複雑な気持ちになった。
「もちろん、辞めません。」
「根性、あるんだ。」
ふと下沢さんを見たら、また不敵な笑みを浮かべていた。
辞められない。
芹香への借金を返すまでは。
私は唇を噛み締めた。
出勤すると、皆私が倒れた事なんて知ってか知らずか。
いつも通りの会社の雰囲気に、内心ほっとした。
「森井さん。資料の整理、頼める?」
下沢さん以外の人から、仕事を頼まれるのは、初めてだ。
「はい。どうするばいいですか?」
「こっちに来てくれる?」
同僚の女性が、手招きをした先には、大きな棚があった。
その前のテーブルには、大量の書類が置かれて行った。
「これは……」
「ウチの会社ね。今、ペーパーレス化していて。昔の資料とかを、PCに読み込んでいるのよ。その残骸。」
この大量の資料を、クラウド化。
凄い作業。
「それで、読み込んだ資料を、またファイルに閉じて、棚に戻して欲しいのよ。」
「分かりました。」
その女性と一緒に、私は端から書類をファイルに閉じていった。
「ねえ、森井さんは下沢さんの事、どう思っているの?」
女性に話しかけられ、ちょっと意外に感じる。
「ええー、親切な人?ですかね。」
「親切か。付き合っている訳じゃないよね。」
「ですね。」
するとその女性は、安心したような表情をした。
「よかった。下沢さんって、この部署のアイドル的存在なのよね。」
「アイドル……」
何か、その言い方、分かる気がする。
皆に、親切そうだから。
「だから、倒れて付き添われたからって、調子に乗らないでね。」
手を止めて、その女性を見た。
笑顔だったけれど、不気味だった。
「別に、調子に乗っている訳では……」
「今日も、一緒に出社していたじゃない。」
「それは、エレベーターで一緒になっただけで……」
すると横から、誰かが通り抜けた。
「俺、こっち側から資料、閉じていきますね。」
よく見ると、下沢さんだった。
「下沢さん!」
相手の女性は、凄く嬉しそうだ。
「ええ!手伝ってくれるんですか?」
流石は下沢さんを、アイドル扱いするだけの事はある。
「僕の森井さんを、虐めてる気がしたからね。」
一瞬、周りがシーンとする。
「僕の……?」
女性は表情を歪ませて、棚から去ってしまった。
「あーあ。仕事放棄。」
「下沢さんのせいですよ。どうしてくれるんですか。」
すると下沢さんは、私の顔を覗き込んだ。
「でも、虐められてたのは、本当でしょ。」
「違いますよ。注意されただけです。」
何か、仕事に恋愛持ち込むと、面倒くさいな。
「絶対、あの人。下沢さんの事が好きですよ。」
「関係ないよ。」
下沢さんの、真剣な目が近くにある。
「俺じゃ、ダメ?」
「何がですか?」
「彼氏になる人。」
下沢さんは、親切だ。
私の味方になってくれる。
「……ダメです。」
でも、信一郎さんじゃない。
「どうして?」
「惹かれない。運命の人じゃない。」
しばらく下沢さんと見つめ合ったけれど、飽きたのか、下沢さんは顔を離した。
「意外な理由。」
「馬鹿みたいですけど、そういうの、信じてるんです。」
「へえ。」
そして下沢さんは、綴じたファイルを次から次へと、棚に入れていった。
「まだ書類いっぱいあるから、手分けしてやろう。」
「はい。」
流石だ。気持ちを断っても、仕事は一緒にするなんて。
「下沢さん。」
「何?」
「彼氏じゃなくても、私の味方でいて下さい。」
勝手な望みだって、分かってる。
でもこの会社で、私には味方が必要だ。
「ずるいね。」
「そうですか?」
その時、陽の光に照らされた切なそうな下沢さんの笑顔。忘れられない。
私の足が、ふいに止まった。
こうして見ていても、信一郎さんは素敵な人。
私の中ではまだ、信一郎さんへの恋は終わっていない。
ふと、信一郎さんが私の方を振り返った。
「おはようございます。」
「おはよう、礼奈。」
ドキッとした。
私の事、礼奈って呼んでくれている。
その瞬間、エレベーターの扉が開いて、たくさんの人が私と信一郎さんを引き裂いた。
私は、そのエレベーターに駆け寄る事ができなくて、信一郎さんはエレベーターに乗って、行ってしまった。
あーあ。このままで、仕事やれるかな。
「おはよう、森井さん。」
振り返ると、下沢さんが立っていた。
「おはようございます。」
「エレベーター、来てるよ。」
「はい。」
下沢さんと一緒に、エレベーターに乗って、オフィスに向かった。
「辞めるなよ、会社。」
下沢さんの言葉に、複雑な気持ちになった。
「もちろん、辞めません。」
「根性、あるんだ。」
ふと下沢さんを見たら、また不敵な笑みを浮かべていた。
辞められない。
芹香への借金を返すまでは。
私は唇を噛み締めた。
出勤すると、皆私が倒れた事なんて知ってか知らずか。
いつも通りの会社の雰囲気に、内心ほっとした。
「森井さん。資料の整理、頼める?」
下沢さん以外の人から、仕事を頼まれるのは、初めてだ。
「はい。どうするばいいですか?」
「こっちに来てくれる?」
同僚の女性が、手招きをした先には、大きな棚があった。
その前のテーブルには、大量の書類が置かれて行った。
「これは……」
「ウチの会社ね。今、ペーパーレス化していて。昔の資料とかを、PCに読み込んでいるのよ。その残骸。」
この大量の資料を、クラウド化。
凄い作業。
「それで、読み込んだ資料を、またファイルに閉じて、棚に戻して欲しいのよ。」
「分かりました。」
その女性と一緒に、私は端から書類をファイルに閉じていった。
「ねえ、森井さんは下沢さんの事、どう思っているの?」
女性に話しかけられ、ちょっと意外に感じる。
「ええー、親切な人?ですかね。」
「親切か。付き合っている訳じゃないよね。」
「ですね。」
するとその女性は、安心したような表情をした。
「よかった。下沢さんって、この部署のアイドル的存在なのよね。」
「アイドル……」
何か、その言い方、分かる気がする。
皆に、親切そうだから。
「だから、倒れて付き添われたからって、調子に乗らないでね。」
手を止めて、その女性を見た。
笑顔だったけれど、不気味だった。
「別に、調子に乗っている訳では……」
「今日も、一緒に出社していたじゃない。」
「それは、エレベーターで一緒になっただけで……」
すると横から、誰かが通り抜けた。
「俺、こっち側から資料、閉じていきますね。」
よく見ると、下沢さんだった。
「下沢さん!」
相手の女性は、凄く嬉しそうだ。
「ええ!手伝ってくれるんですか?」
流石は下沢さんを、アイドル扱いするだけの事はある。
「僕の森井さんを、虐めてる気がしたからね。」
一瞬、周りがシーンとする。
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女性は表情を歪ませて、棚から去ってしまった。
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「下沢さんのせいですよ。どうしてくれるんですか。」
すると下沢さんは、私の顔を覗き込んだ。
「でも、虐められてたのは、本当でしょ。」
「違いますよ。注意されただけです。」
何か、仕事に恋愛持ち込むと、面倒くさいな。
「絶対、あの人。下沢さんの事が好きですよ。」
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