乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

143話 ウッド・ジャベリン

 実技訓練にて、オスカーがその実力を見せつけた。
 平均的な生徒よりもはるかに優秀な四席と五席の男女。
 その二人よりも、さらに優れた成績を収めたのだ。
 しかし一方で、イザベラの実力はまだ披露されていない。

「次は私の番ですわね」

「ご武運を。イザベラ殿」

 オスカーの声援を受け、イザベラが前に出る。

「はっ。高みの見物をしていた令嬢の化けの皮が剥がれるときが来たな」

「せいぜい、わたくし達を失望させない程度には頑張ってくださいまし」

 四席と五席が、敵愾心をあらわにする。
 ただし、イザベラの『覇気』を受けたため、姿勢は相変わらず地面に這いつくばったままだ。

「ふん……。本当に騒がしい羽虫ですわ。格の違いを見せて差し上げましょう。……講師さん、お願いしますわ」

 イザベラが後方に控える講師に声をかける。

「あ、ああ。それでは――始めっ!」

 講師がそう宣言した瞬間だった。
 イザベラから強烈な威圧感が放たれた。

「「…………ッ!?」」

 四席と五席がビクっと震え、そしてガタガタと体を震わせる。
 顔色は真っ青になり、冷や汗が大量に流れ出した。
 彼らだけではない。
 その他の生徒や講師も、程度の差はあれど皆怯えている。
 かろうじて正気を保っているのは、オスカーぐらいのものだ。
 もっとも、彼でさえ若干足が震えているのだが。

「木々の精霊よ。我が呼びかけに応え、敵を貫け。【ウッド・ジャベリン】」

 イザベラが呪文を唱え、魔法を発動させる。
 すると、彼女の足元の地面から木が急成長し、槍となってゴーレムへ向かっていった。
 それを見た四席と五席は、侮ったような視線を向ける。

「は、はんっ! 何かと思えば、初級の木魔法じゃねぇか!」

「拍子抜けですわね。木の槍では、ゴーレムの固い体に傷一つつけられませんわよ?」

 二人の言う通り、イザベラが発動させた魔法は、攻撃魔法の中では最下級に位置する魔法だ。
 威力もそれほど高くない。
 しかし、それはあくまで通常の場合の話である。

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