乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

119話 アリシアの変貌

 アリシアさんが駆けつけてくれたのはいいのだけれど、フレッドの浄化をしてくれるわけでもなく、なぜか私にキスをしてきた。
 彼女いわく、汚らしい男たちに汚された私の口の消毒らしい。
 しかも、彼女は私のお古のドレスに着替えている。

「アリシアさん、いったいどこでそれを……?」

 私はアリシアさんに尋ねた。
 アリシアさんが私のお古のドレスを着ているということはつまり――

「勘違いなさらないでください。私はイザベラ様をお慕いしていますが、さすがに無断で侵入して盗んだりはしません。これは一応、あの汚らしい男――フレッドさんに許可されて、お借りしたのです。わたしのドレスは、汚れてしまいましたから」

「そ、そう……」

 アリシアさんは、私が着ていた服を勝手に持ち去ったわけではないようだ。
 彼女のドレスが汚れてしまった理由は分からないけれど……。

「ああ、イザベラ様のドレス! イザベラ様の香り! なんて素敵なんでしょう!」

 アリシアさんは感激の声を上げる。

「ねえ、アリシアさん? あなた、何を言っているのかしら?」

「えっ、どうかしましたか?」

 不思議そうな顔をするアリシアさん。
 まるで、何もおかしなことを言っていないかのように。

「わ、私の匂いを嗅いでいるようにしか見えないのだけれども……」

「はい、イザベラ様のドレスを堪能しております。もちろん食べることも考えましたが、それは最後のお楽しみですから」

「へぁっ!?」

 私は思わず変な声を上げてしまう。
 ドレスを食べる?

「アリシアさん、そんなことしたら駄目よ」

「どうしてですか? イザベラ様の香りを吸い込みながら、美味しいものをいただく。最高の贅沢ではありませんか」

「えっと……」

 アリシアさんがド変態になっている。
 『ドララ』にこんな設定はなかったはずなのに。
 彼女はちゃんとプレイヤーや攻略対象達から愛されるヒロインだった。
 少なくとも、四大イケメンのルートでは普通の少女として描かれていた。
 まともだった。
 今のように、ちょっと危ない感じではなかった。

「イザベラ様、ご安心ください。わたしはイザベラ様のお身体を傷付けたりは致しません。イザベラ様の美しい肌に傷を付けるなんて、絶対にできませんもの」

「はあ……」

 私はため息をつくしかなかった。
 アリシアさんは私の身体に抱きついてきた。
 そして、そのまま自分の顔を押し当ててくる。

「はあ……イザベラ様……」

「ひゃあんっ!?」

 耳元で囁かれると、ゾクッとする。
 アリシアさんの吐息がくすぐったくて仕方がない。

「イザベラ様、わたしと一つになりましょう。イザベラ様となら、わたしも幸せです。二人で一緒に、天国に行きましょうね?」

 何だこれ。
 絶対におかしい!
 正ヒロインのアリシアさんがこんなことをするなんて。
 私は彼女の顔を改めて見る。

「うふふ。イザベラ様ぁ……」

 彼女は狂気を孕んだ瞳でこちらを見ている。
 その瞳の奥からは、ドス黒い何かが漏れ出ていたのだった。

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