乙女ゲームの悪役令嬢になったから、ヒロインと距離を置いて破滅フラグを回避しようと思ったら……なぜか攻略対象が私に夢中なんですけど!?

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

100話 許されない恋

 酔っ払った私を介抱してくれていた優しい男性は、なんと私の義弟のフレッドだった。

「フレッド?」

「ええ、僕はフレッドですよ。姉上」

 彼は笑顔で答えてくれた。
 やはりそうだ。
 間違いない。
 なぜ今まで気付かなかったのかしら?
 彼の声は、幼い頃からずっと聞いてきたものなのに。

「僕の愛しい姉上……」

 彼はそう言うと、さらに顔を近づけてきた。
 近い!
 ちょっと待って。
 いくらなんでも急すぎる。
 まだ心の準備が出来ていないわ。
 あともう少しだけ時間をちょうだい。

「フレッド、落ち着いて。私たちは姉弟よ」

「確かにその通りです。僕たちは、お互いに世界でたった一人の姉弟ですね」

「ええ、だからこういうことはしてはいけないと思うの」

「いいえ、姉弟だからこそ、燃え上がる関係もあると思います」

「それは……」

 フレッドの言葉に私は動揺する。
 確かにそういうこともあるかもしれないけど……。
 でも、私たちの場合は違うでしょう。

「とにかく落ち着きましょう。一度離れて……」

「嫌です」

「フレッド、お願いよ」

「嫌です」

「フレッド、私のためにも……」

「嫌です」

「フレッド……」

「……」

「フレッド?」

「……」

 フレッドは何も言わなくなった。
 代わりに、規則正しい寝息が聞こえてくる。
 どうやら眠ってしまったらしい。

「良かった……。とりあえず窮地は脱したわね」

 私はホッと胸をなでおろす。
 フレッドは穏やかな表情で眠っている。
 とりあえず一安心だ。

「フレッド、私もあなたのことは好きよ。姉としてね」

 本音を言えば、異性として好きな気持ちがほんの少しくらいはなくもない。
 彼は、前世でハマっていた乙女ゲーム『ドララ』の攻略対象の一人だからね。
 顔は整っている。
 身分も、養子ではあるがアディントン侯爵家の子息だ。
 座学、護身術、ポーションの調合、毒物の知識などに長けている。
 性格は穏やかで優しいが、ときにグイグイ攻める情熱的なところもある。
 それに何と言っても、あのエドワード殿下の側近候補なのだ。
 将来性抜群だと言っていいだろう。

(って、ダメダメ。血は繋がっていなくとも、フレッドは私の弟なんだから。もしお父様にバレたら、バッドエンドに繋がるかもしれないし……)

 血が繋がっていないとはいえ、姉弟で結ばれるのは倫理的に良くない。
 これは断じて許されざる行為である。
 そう、これは許されない恋。
 禁断の関係だ。

(さっきは不覚にもドキドキさせられてしまったわね。彼が眠っている今の内に、気持ちを落ち着かせないと……)

 私はフレッドの寝顔を眺めながら、息を整えていくのだった。

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