５２話　ベッドへの闖入者

　チュンチュン。
　小鳥のさえずりで目が覚める。

「ふぁ～～」

　私はベッドの上で大きな欠伸をした。
　昨晩は遅くまで今後のことを考えていたため、寝不足気味である。

「……ん？」

　その時、何か違和感を感じた。
　何やら胸の奥がモヤッとする。
　風邪を引いた時の感覚に近い。

「……うーん」

　私は胸に手を当てた。
　……特に異常はないようだ。

「……よし、起きよう！」

　昨日は新入生の入学式があった。
　当然私も二年生に進級している。
　気持ちを切り替えなければ。
　私は制服に着替えるため、ベッドから立とうとする。

「あれ？」

　なぜか体が動かない。
　金縛りか？
　いや、そんなはずはない。
　首周りはちゃんと動く。
　これは一体どういうことだろう？

「えっ！？」

　ベッドの中に、少女がいた。
　彼女は下着姿で、私に抱きついている。
　そして、すやすやと安らかな表情で眠っていた。

「ど、どうして……」

　こんな状況になったのか、全く分からない。
　私は混乱する頭で必死に記憶を辿った。
　たしか、昨日の夜は一人だったはずだ。
　間違いない。
　ということは、夜中に侵入されたことになる。
　この部屋には鍵をかけていたし、念のため魔法による結界も張ってあった。
　だが、それらの防御を突破してここまで来たというのか？
　ありえない。
　そんなこと、一流の魔法士でもなければ不可能だ。
　では、どうやって……？
　私が考え込んでいると、突然扉をノックする音が聞こえてきた。
　コンコン。
　コンコンコン。

「姉上！　もう起きているでしょうか？」

　フレッドの声だ。
　まずい、このままだと彼が入ってきてこの状況を見られてしまう。
　それだけは避けなければならない。

「くぅ……あ、あなた……いい加減に……離れなさい！！」

　私は渾身の力で引き剥がそうとする。
　だが、相手はかなり強い力で引っ付いているためなかなか離すことができない。
　それどころか、「むにゃむにゃ」と言いながらさらに強く抱きしめてくる始末だ。
　私は焦るあまり、思わず叫んでしまう。

「ああ、もう！！　早く目を覚ましなさいよ！！」

　すると、ピタッと動きが止まった。
　ようやく目覚めてくれたのかと思いきや、今度は顔をスリスリさせ始めた。
　まるで猫のような甘えん坊っぷりだ。
　だが、今はそんなことを悠長に考えている場合ではない。

「フレッド！　ちょっと待っていてくれるかしら！」

　私は大声で呼びかけると、覇気を開放する。
　これにより、私の腕力が大幅に強化された。
　その勢いのまま、少女を強引に引き離しにかかる。

「せぇいっ！！！」

　バタンッ。
　少女の体は宙に舞い、ベッドの外に投げ出された。
　そのまま床に落下して鈍い音を立てる。

「あいたた……。あれ？　わたしは何を……？」

「やっと目覚めたみたいね。おはよう、アリシアさん」

　私は微笑みかけた。
　謎の少女の正体は、アリシアさんだ。
　まあ、私の結界を突破できるのは、彼女くらいしかいないよねぇ。
　彼女は状況を理解できていないようで、困惑した様子でキョロキョロと辺りを見回している。

「ここは一体どこですか？　わたしは確か、自分の部屋にいたはずなのに……。あっ！」

　そこでハッとしたように、自分の体を見下ろす。

「わたしの服はどうなっているんですか！？　なぜ下着姿になっているのでしょう！？　まさか、イザベラ様が……？」

「違うわよっ！　そもそも、ここは私の部屋だから！！」

　私はアリシアさんの誤解を解くべく、全力で否定するのだった。