悪役令嬢にはブラック企業で働いてもらいます
考え直してもらいます
「それなんだけどね...オレ政治家になりたい理由を説明してって言われた時、国をどう変えていきたいかって言われた時、何も答えられなかったんだよ」
八木杉は、苦しそうに頭を抱えた。
「何かありきたりなことを答えられたらよかった。それっぽいことをスって答えられたら良かった。ふとそれを大学の先生に休み時間に言われた時、オレは何も言えなかった」
「そりゃあんたがなりたいって思ってるものじゃないんだから詳しく答えられる訳ないじゃない」
腕を組んで八木杉を見ると、八木杉は本気で落ち込んで俯いていた。
「そうだね...周りの友達もえっ...って引いてたんだよね。オレなら何か考えてるだろって思ってたんだろう。でも、オレは何も考えられなかった。東大は勉強していい職業についてオレを引き取ってくれた両親を楽させたいとか何とかいっておけばよかったけど、職業、更に政治家なんかは両親が──なんて通用しない」
八木杉は、はぁとため息をついた。
「そして、先生に進路書き直せって言われたんだけど、何も思いつかなくてね。何もなりたいものがなかった。オレはなんていうのかな、人形みたいなものでさ。期待通りの事を期待通りこなすだけ。自分の進路なんて自分の意思なんてよくわからなかった」
椅子に頭を落として天井を見上げた八木杉を見て、私は今まで期待された事はあっただろうかと考えた。
何不自由なく生活してきて、何も悩んだ事や、困った事なんてなくて、両親はいつもパーティや狩猟に出かけていなかった。
「マスカレイド家の令嬢として食事のマナーを覚える事は重要です」
「何でご飯を食べるのにルールなんてつけるのかしら。自由に食べちゃダメなわけ?」
「それでは品がありません。マスカレイド家の令嬢としてマナーを守って食事して下さい。お嬢様を立派な淑女にするように、お嬢様のお母様、ヴァイオレット様からお申し付けられています」
「はーぁ。食事くらい自由に食べたいものだわ」
あぁ、そうね。
マナー講師は、私に期待していたんじゃなくて、お母様に私を育てるように期待されたから私に教えていたんだわ。
どの講師もそうだったわね。お母様に言われたから、お母様もお父様も他人任せ。
私は期待なんてされた事なかったわ。
誰かに期待されて生きるってどんな感じなのかしらね。
「オレはそのまま進路を書けなかった。書けなかったんだ自分のやりたい事も分からなくて。それで、たまたま家の近くにあったここが求人してたから面接受けてみようかなって。寮だったし、両親と離れるのは凄く考えたけど、両親に今までの事全部打ち明けたら、一回自分達と離れて自分の事考えて生きてみるようにって」
たまたまここに入ったなんて不幸すぎるわね。
「両親はあっさりオレがここに入るのを認めてくれたんだ。自分の好きに生きなさいって」
「よかったじゃないの」
八木杉は、椅子に落とした頭をあげて、今度は俯いた。
「でも、たまに考えちゃうんだよね。両親は、期待通りにできなかったオレが期待外れでもういらないから好きにしてって言ったんじゃないかって」
八木杉は、いつもの快活な話し方とは正反対のブツブツとした陰気な話し方で両手をいじりながら話していた。まるで別人だった。
「ここでも、ちゃんと働かないと期待通り、いや期待以上に頑張らないと東大も出てるのに期待外れって言われる。オレは、ここにオレがいてよかったってずっと思われていたい。期待されていたい。だから、いっぱい働くんだよ」
「疲れませんか?そんな風に生きて」
理沙は、はっきりと言った。
理沙が、他人にこんなにはっきりと何かを言うなんて初めてかもしれない。
「疲れたとか関係ないよ。オレはオレの居場所を獲得するために」
「また同じ事してるって気付きませんか。あなたが沢山働いてそれだけ仕事を抱えたらまたそれ以上を期待されて、昇格して上の人になってもあなたはきっと、この会社をどうしていきたいか、と聞かれてもきっと答えられない」
こんな理沙は見た事がないというくらいしっかり自分の思いを話している。
「居場所なんて自分の身を削りながら得るものではないですよ。八木杉さんはいってくれたじゃないですか。同期の私達は仲間だって」
理沙は同期は仲間という言葉を気に入っていたわね。
「そんな一人で頑張らなくていいんですよ。私は同期の灰子ちゃんに助けてもらいました。あなたには総司さんがいるじゃないですか...」
「ん、皆がついてるよって流れじゃないのそれ」
総司がツッコミをいれる。
うん、私もずっこけそうになったわよ。
「困ったら助けますから。総司さん....と私達が。だからそんなに一人で仕事抱え込んだりしないで下さい」
「そうよ八木杉。仕事そんなに抱え込まなくてもここはただでさえ人が足りてないんだからあんたみたいなのは仕事してなくても必要なくらいよ」
「溝沼さんのそれはフォローになっているのかわからないですけどね」
総司は呆れ顔で私を見た。
「それにあんたの両親だってあんたに第二の自分の人生を歩んでもらおうってチャンスを与えてるんじゃない。きっと期待外れだから、なんて事はないわよ。いい機会よ。この機会に自分の為に楽しく生きなさいよ」
第二の人生...か。私と一緒ね。
八木杉は、目を細めて息を吐いた。
「...なんか、スッキリしたかも。オレこんな事両親以外に話した事なかったし。ありがとう、皆。オレ無理に働くの控えるよ。またぶっ倒れたら同期の皆に迷惑かかるしな。ただ、仕事手伝って欲しい時は言ってくれ」
ニコッと微笑んだ八木杉に私達は安堵した。
「いやー!同期の仲も深まった事だし、来週の山登りは楽しくなりそうだな!」
八木杉はぐりんぐりんと肩を回して微笑んだ。
「え...なによ、その山登りって」
「あれ、灰子ちゃん知らないの?来週新入社員で山登りがあるんだよ」
理沙がキョトンとして私に話した。
山って登るものだったかしら。
八木杉は、苦しそうに頭を抱えた。
「何かありきたりなことを答えられたらよかった。それっぽいことをスって答えられたら良かった。ふとそれを大学の先生に休み時間に言われた時、オレは何も言えなかった」
「そりゃあんたがなりたいって思ってるものじゃないんだから詳しく答えられる訳ないじゃない」
腕を組んで八木杉を見ると、八木杉は本気で落ち込んで俯いていた。
「そうだね...周りの友達もえっ...って引いてたんだよね。オレなら何か考えてるだろって思ってたんだろう。でも、オレは何も考えられなかった。東大は勉強していい職業についてオレを引き取ってくれた両親を楽させたいとか何とかいっておけばよかったけど、職業、更に政治家なんかは両親が──なんて通用しない」
八木杉は、はぁとため息をついた。
「そして、先生に進路書き直せって言われたんだけど、何も思いつかなくてね。何もなりたいものがなかった。オレはなんていうのかな、人形みたいなものでさ。期待通りの事を期待通りこなすだけ。自分の進路なんて自分の意思なんてよくわからなかった」
椅子に頭を落として天井を見上げた八木杉を見て、私は今まで期待された事はあっただろうかと考えた。
何不自由なく生活してきて、何も悩んだ事や、困った事なんてなくて、両親はいつもパーティや狩猟に出かけていなかった。
「マスカレイド家の令嬢として食事のマナーを覚える事は重要です」
「何でご飯を食べるのにルールなんてつけるのかしら。自由に食べちゃダメなわけ?」
「それでは品がありません。マスカレイド家の令嬢としてマナーを守って食事して下さい。お嬢様を立派な淑女にするように、お嬢様のお母様、ヴァイオレット様からお申し付けられています」
「はーぁ。食事くらい自由に食べたいものだわ」
あぁ、そうね。
マナー講師は、私に期待していたんじゃなくて、お母様に私を育てるように期待されたから私に教えていたんだわ。
どの講師もそうだったわね。お母様に言われたから、お母様もお父様も他人任せ。
私は期待なんてされた事なかったわ。
誰かに期待されて生きるってどんな感じなのかしらね。
「オレはそのまま進路を書けなかった。書けなかったんだ自分のやりたい事も分からなくて。それで、たまたま家の近くにあったここが求人してたから面接受けてみようかなって。寮だったし、両親と離れるのは凄く考えたけど、両親に今までの事全部打ち明けたら、一回自分達と離れて自分の事考えて生きてみるようにって」
たまたまここに入ったなんて不幸すぎるわね。
「両親はあっさりオレがここに入るのを認めてくれたんだ。自分の好きに生きなさいって」
「よかったじゃないの」
八木杉は、椅子に落とした頭をあげて、今度は俯いた。
「でも、たまに考えちゃうんだよね。両親は、期待通りにできなかったオレが期待外れでもういらないから好きにしてって言ったんじゃないかって」
八木杉は、いつもの快活な話し方とは正反対のブツブツとした陰気な話し方で両手をいじりながら話していた。まるで別人だった。
「ここでも、ちゃんと働かないと期待通り、いや期待以上に頑張らないと東大も出てるのに期待外れって言われる。オレは、ここにオレがいてよかったってずっと思われていたい。期待されていたい。だから、いっぱい働くんだよ」
「疲れませんか?そんな風に生きて」
理沙は、はっきりと言った。
理沙が、他人にこんなにはっきりと何かを言うなんて初めてかもしれない。
「疲れたとか関係ないよ。オレはオレの居場所を獲得するために」
「また同じ事してるって気付きませんか。あなたが沢山働いてそれだけ仕事を抱えたらまたそれ以上を期待されて、昇格して上の人になってもあなたはきっと、この会社をどうしていきたいか、と聞かれてもきっと答えられない」
こんな理沙は見た事がないというくらいしっかり自分の思いを話している。
「居場所なんて自分の身を削りながら得るものではないですよ。八木杉さんはいってくれたじゃないですか。同期の私達は仲間だって」
理沙は同期は仲間という言葉を気に入っていたわね。
「そんな一人で頑張らなくていいんですよ。私は同期の灰子ちゃんに助けてもらいました。あなたには総司さんがいるじゃないですか...」
「ん、皆がついてるよって流れじゃないのそれ」
総司がツッコミをいれる。
うん、私もずっこけそうになったわよ。
「困ったら助けますから。総司さん....と私達が。だからそんなに一人で仕事抱え込んだりしないで下さい」
「そうよ八木杉。仕事そんなに抱え込まなくてもここはただでさえ人が足りてないんだからあんたみたいなのは仕事してなくても必要なくらいよ」
「溝沼さんのそれはフォローになっているのかわからないですけどね」
総司は呆れ顔で私を見た。
「それにあんたの両親だってあんたに第二の自分の人生を歩んでもらおうってチャンスを与えてるんじゃない。きっと期待外れだから、なんて事はないわよ。いい機会よ。この機会に自分の為に楽しく生きなさいよ」
第二の人生...か。私と一緒ね。
八木杉は、目を細めて息を吐いた。
「...なんか、スッキリしたかも。オレこんな事両親以外に話した事なかったし。ありがとう、皆。オレ無理に働くの控えるよ。またぶっ倒れたら同期の皆に迷惑かかるしな。ただ、仕事手伝って欲しい時は言ってくれ」
ニコッと微笑んだ八木杉に私達は安堵した。
「いやー!同期の仲も深まった事だし、来週の山登りは楽しくなりそうだな!」
八木杉はぐりんぐりんと肩を回して微笑んだ。
「え...なによ、その山登りって」
「あれ、灰子ちゃん知らないの?来週新入社員で山登りがあるんだよ」
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山って登るものだったかしら。
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