悪役令嬢にはブラック企業で働いてもらいます

ガイア

訳を話してもらいます

「オレは、昔からこうなんだよ」

「昔っから?」

理沙が、ピクリと反応した。

「うん、オレ昔から器用な奴でさ。割と大概のことは何でもできて。両親や周りの人の期待に応えてやってきたんだ。オレもそれがいいと思っていたし周りも喜んでくれていたし」

「何よそれ自慢」

「口をペンケースにしますよ。ちょっと黙っていてくださいね」

総司がニコニコしながら大量のペンを握りしめて私の口の中に押し込もうとしてきたので、全力で阻止した。

「でもどんどんそれが膨らんでいって気がついたら、100点取るのも当たり前、選手リレーの選手に選ばれるのも当たり前、応援団に選ばれるのも当たり前になってた」

「期待に、呑まれてしまったんですね」

理沙が、ぽつりと呟いた。

「上がるのは許されても、下がるのは許されなかったよ。だからオレは努力して、東大にも入った訳だ」

「東大に入らないといけないくらいの期待って...」

理沙は、同情しているようだった。

「東大に入っても、オレは変わらず過ごしたよ期待されて頼られていい奴だって。運が良かったのは、頼られるイコールパシる奴がいなかった事だな。皆仲間で皆仲良しだった」

理沙は、俯いて口を結んだ。
八木杉は、理沙のいい例って事なのかしら...?でも、私にはとてもそうは見えないわ。
こうして話している八木杉の表情は、相変わらず影が差していて、辛そうだもの。

「オレもそれはいいと思っていた。オレは両親に言われた。政治家になれって。そしていずれお前なら大統領にもなれるって」

「そんな...それはいくらなんでも...」

「期待が跳ね上がりすぎた。両親はオレの為に何でもしてくれたよ。でもそれは何でもできるオレへの期待に貯金していたっていうかさ。有難い話だけど、オレは特にやりたい事もなかったし、政治家になろうとしたよ」

「そんな両親に言われただけで...政治家を志しちゃうの?」

「理沙、政治家って何よ」

理沙は、目をまん丸にした。

「あ、この人テレビとか見ないので」

総司が私を指差して微笑んだ。
何か馬鹿にされた気がしてムッとしたけど、理沙の返答を待つ。

「うーん、私もうまく説明できないけど、国を動かす人たちの事だよ。私達が快適に過ごせるように国を動かしてる人達っていうか...」

「じゃあ働いてないじゃない。私、全然快適じゃないんだけど。残業何時間って感じだし」

「それで?続けてください八木杉さん」

「...あ、う、うん。どうしてオレが両親に言われただけで政治家を目指しちゃうの?って話だよね。オレは実は養子なんだよ。親に捨てられて施設で過ごしてきていたオレを引き取って両親は育ててくれた。だから、オレは両親の期待に応えないといけない」

「でも、あんた政治家じゃないじゃない」

八木杉は、この会社でパソコンを動かしてるけどこの国を動かしている訳じゃないわ。
なんで国を動かそうとしていた男がこんなブラック企業で働く事になったのかしら。

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