悪役令嬢にはブラック企業で働いてもらいます
トイレ掃除をしてもらいます
「溝沼さん、朝7時に新入社員がトイレ掃除しないといけないの知って...ますか?」
「何よそれ」
休憩時間(おにぎりを食べながら仕事中)に、
私の"同僚"らしい、松下理沙(まつしたりさ)が泥水をかけられた鼠みたいにおどおどびくびくしながら話しかけてきた。
「えっと、私達で、朝7時からトイレ掃除をする事が決まっててぇ...」
「出勤は8時からでしょう?なんで1時間も早く出勤しないといけないのよ」
「そ、そういう決まりで...」
「決まり?何よそれ。誰が決めたのよ私は行かないわよ」
「えっと...」
「ど・ぶ・ぬ・ま・さ・ん」
「ヒィッ」
後ろからドS悪魔に頭を鷲掴みにされた。
「何よ!何の用よ!」
「松下さん困ってるでしょ?参加しなよ。一人じゃ可哀想だし」
「なんで私が...ウッ...ッグ...ァア!痛い...痛い痛いわかった、わかったわよ!行くわよ!行けばいいんでしょ!」
「た、体調悪そうだったけど、大丈夫...ですか?」
眉を下げて私を気遣う松下に、
「平気よ」
私はまだキリキリする胸を押さえながら無理に強がった。
「そ、そうですかぁ...よかったです」
「あんた、本当にそんな事思ってるわけ?」
「へ、へ?」
「私とあんたは一週間前に始めて会ったばかりでしょ?なんでそんな他人の事を心配するのよ。別に私に仕えてるわけでもないのに」
「ひ、ひぃっ」
「そのおどおどとした態度やめなさいよ。声も小さい。もっとハキハキ喋れないわけ?私の使用人だったら一発でクビにしてたわよ」
「あ、あの...」
「何よ、言いたい事があるならハッキリ言いなさいよ」
「あ...あの....」
松下は、俯いて何も言わなかった。
私はその態度に余計腹が立った。
よくこいつこんなので今まで生きてこれたわね。
「ごめんねぇ、松下さん。溝沼さんって自分より弱い人間にしか強がれない種族の人なんだよね」
「ぎゃあああ!!!痛い痛い痛い!!何すんのよ!!」
後ろからいきなりチョークスリーパーをキメられ私は苦しくてギブギブとこの暴力ドS悪魔の腕をパンパン叩いた。
容赦、手加減という言葉はこいつの辞書にはないらしい。
「あ、いえ...気にしてないです。私は、ずっと...こうでしたから」
松下の顔に初めて影が差す。
全ての不幸な運命を受け入れて人生に諦めているようなその表情を見て、私は余計にムカついた。
***
朝7時に出勤した。
しなくてはならなかった。
朝6時に耳元でけたたましい音で目覚ましが鳴り、耳がおかしくなりそうなその音に思わず飛び起きると、
「朝ですよ」
枕元で総司が微笑んでいた。
何こいつ、どうやって入ってきたのよ。
私は最初馬小屋のトイレスペースかと思っていたこのオンボロ社員寮の六畳一間で生活することになった。
トイレとシャワーは共用スペースに行かなくてはならない。
キッチンは...オンボロコンロが部屋の隅に申し訳程度に設置されてある。
基本的に、ブラック企業で終電なんかは関係ない為、全員社員は社員寮に入れられ働かさせられる。
独房で働かされる囚人のように。
「なんであんたここにいるのよ」
「ここのオンボロ寮襖ですから」
そう、この社員寮。部屋の鍵がない。
襖なので完全にプライベートはない事になっている。
「じゃなくて!あんたは男子寮でしょうが!」
「いや、監視役ですので。逃げないように常に見張ってるんですよ」
「へ、変態!」
「貴方に僕が異性として興味を抱くとでも思ってるんですか?安心してください。100%あり得ませんので!」
ちょっとは興味持ちなさいよ!
「わ、私はこれでも向こうの世界でマスカレイド家の令嬢として過ごしていた頃は完璧な容姿と教養と溢れ出るカリスマ性で世の男を虜にしてきたのよ?」
「そんな事はどうでもいいので早くトイレ掃除に行ってください」
真顔で言われると私の心に鋭く黒い槍が何本も突き刺さる。
「行くわよ...行けばいいんでしょ!」
「はい、トイレを磨くもの、これ心を磨くものと人間界の本に書いてありました。ちょっとは心を磨いてきてください」
総司は、にっこり微笑んで手を振って窓から男子寮に帰っていった。
「あの松下とかいう女、ちゃんと来てるんでしょうね!」
私はギリッと爪を噛んだ後、スーツに着替えて寮から徒歩五分の会社に出勤した。
ロッカーで松下に出会った。
 
「あ、おはようござい...ます」
おずおずと挨拶された。
挨拶くらいちゃんとできないわけ?
「えぇ、おはよう。さっさと終わらすわよ」
「はい...」
松下と会社の女子トイレに向かった。
まだ誰も出勤していないからか会社は静かだった。
ビルの3階が私の職場。
ビルの他の階の事はよくわからないわ。
「あれ、そういえばなんだけど」
「あっ、はい」
「なんで3階の女子トイレの掃除如きに1時間早く私達が駆り出されないといけないわけ?」
「え?」
松下は、目を丸くした。
あれ、私何かおかしな事言ったかしら。
「このビル全部のトイレ掃除ですよ」
「は?」
「何よそれ」
休憩時間(おにぎりを食べながら仕事中)に、
私の"同僚"らしい、松下理沙(まつしたりさ)が泥水をかけられた鼠みたいにおどおどびくびくしながら話しかけてきた。
「えっと、私達で、朝7時からトイレ掃除をする事が決まっててぇ...」
「出勤は8時からでしょう?なんで1時間も早く出勤しないといけないのよ」
「そ、そういう決まりで...」
「決まり?何よそれ。誰が決めたのよ私は行かないわよ」
「えっと...」
「ど・ぶ・ぬ・ま・さ・ん」
「ヒィッ」
後ろからドS悪魔に頭を鷲掴みにされた。
「何よ!何の用よ!」
「松下さん困ってるでしょ?参加しなよ。一人じゃ可哀想だし」
「なんで私が...ウッ...ッグ...ァア!痛い...痛い痛いわかった、わかったわよ!行くわよ!行けばいいんでしょ!」
「た、体調悪そうだったけど、大丈夫...ですか?」
眉を下げて私を気遣う松下に、
「平気よ」
私はまだキリキリする胸を押さえながら無理に強がった。
「そ、そうですかぁ...よかったです」
「あんた、本当にそんな事思ってるわけ?」
「へ、へ?」
「私とあんたは一週間前に始めて会ったばかりでしょ?なんでそんな他人の事を心配するのよ。別に私に仕えてるわけでもないのに」
「ひ、ひぃっ」
「そのおどおどとした態度やめなさいよ。声も小さい。もっとハキハキ喋れないわけ?私の使用人だったら一発でクビにしてたわよ」
「あ、あの...」
「何よ、言いたい事があるならハッキリ言いなさいよ」
「あ...あの....」
松下は、俯いて何も言わなかった。
私はその態度に余計腹が立った。
よくこいつこんなので今まで生きてこれたわね。
「ごめんねぇ、松下さん。溝沼さんって自分より弱い人間にしか強がれない種族の人なんだよね」
「ぎゃあああ!!!痛い痛い痛い!!何すんのよ!!」
後ろからいきなりチョークスリーパーをキメられ私は苦しくてギブギブとこの暴力ドS悪魔の腕をパンパン叩いた。
容赦、手加減という言葉はこいつの辞書にはないらしい。
「あ、いえ...気にしてないです。私は、ずっと...こうでしたから」
松下の顔に初めて影が差す。
全ての不幸な運命を受け入れて人生に諦めているようなその表情を見て、私は余計にムカついた。
***
朝7時に出勤した。
しなくてはならなかった。
朝6時に耳元でけたたましい音で目覚ましが鳴り、耳がおかしくなりそうなその音に思わず飛び起きると、
「朝ですよ」
枕元で総司が微笑んでいた。
何こいつ、どうやって入ってきたのよ。
私は最初馬小屋のトイレスペースかと思っていたこのオンボロ社員寮の六畳一間で生活することになった。
トイレとシャワーは共用スペースに行かなくてはならない。
キッチンは...オンボロコンロが部屋の隅に申し訳程度に設置されてある。
基本的に、ブラック企業で終電なんかは関係ない為、全員社員は社員寮に入れられ働かさせられる。
独房で働かされる囚人のように。
「なんであんたここにいるのよ」
「ここのオンボロ寮襖ですから」
そう、この社員寮。部屋の鍵がない。
襖なので完全にプライベートはない事になっている。
「じゃなくて!あんたは男子寮でしょうが!」
「いや、監視役ですので。逃げないように常に見張ってるんですよ」
「へ、変態!」
「貴方に僕が異性として興味を抱くとでも思ってるんですか?安心してください。100%あり得ませんので!」
ちょっとは興味持ちなさいよ!
「わ、私はこれでも向こうの世界でマスカレイド家の令嬢として過ごしていた頃は完璧な容姿と教養と溢れ出るカリスマ性で世の男を虜にしてきたのよ?」
「そんな事はどうでもいいので早くトイレ掃除に行ってください」
真顔で言われると私の心に鋭く黒い槍が何本も突き刺さる。
「行くわよ...行けばいいんでしょ!」
「はい、トイレを磨くもの、これ心を磨くものと人間界の本に書いてありました。ちょっとは心を磨いてきてください」
総司は、にっこり微笑んで手を振って窓から男子寮に帰っていった。
「あの松下とかいう女、ちゃんと来てるんでしょうね!」
私はギリッと爪を噛んだ後、スーツに着替えて寮から徒歩五分の会社に出勤した。
ロッカーで松下に出会った。
 
「あ、おはようござい...ます」
おずおずと挨拶された。
挨拶くらいちゃんとできないわけ?
「えぇ、おはよう。さっさと終わらすわよ」
「はい...」
松下と会社の女子トイレに向かった。
まだ誰も出勤していないからか会社は静かだった。
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ビルの他の階の事はよくわからないわ。
「あれ、そういえばなんだけど」
「あっ、はい」
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