八面玲瓏なギルマスさん
八面玲瓏なギルマスさん
  ただの平凡な学生の僕には裏の顔がある。
 最近流行りのキャラ育成バトルゲームでギルドと呼ばれる、プレイヤーが30人ほど集まって交流したり一緒にゲームをプレイするチームのサブマスターをしているのだ。
 学校から帰宅した僕は早速スマホからゲームにログインする。
 「こんばんはー」
 「リュウちゃんこんばんはー!」
 ギルドのチャットで軽く挨拶をするといつもの様に真っ先にギルドマスターのアヤさんが反応してくれる。
 正直言ってゲーム自体が楽しいということもあるが、ここまでこのゲームを続けているのはこのアヤさんのおかげだ。
 自分がまだ初心者でギルドに入ったばかりの頃からずっと優しくしてくれていた。みんなでプレイしていて敵に負けてしまった時も、メンバーがゲームを去って行った時も、ネガティブな事は言わずいつも明るく前向きな人だ。
 
 そんな僕と、このギルド、アヤさんとのこれまでを振り返ってみる。
 自分がまだギルドに入ったばかりの頃。
 ギルドに入って最初のイベントは、参加できるメンバー全員で時間内にたくさん敵モンスターを倒してポイントを稼ぐというものだった。
  初めての参加で右も左も分からず、他のメンバーに着いて周りあっという間に終わってしまった。
 「お疲れ様ー!」
 「お疲れ様です、何も分からなかっけど楽しかったです」
 「リュウさんとってもお上手でしたー!」
 「ありがとうございます」 
 終了後、チャットに挨拶を書き込むとアヤさんからお褒めの言葉をいただいた。
 もちろん社交辞令とは分かっていたが、ギルドのメンバーとして認められた気がして凄く嬉しかった。
 この時、アヤさんのギルドに入ってよかったなぁと心から思った。
 こんな出来事もあった。
 ギルドに入っているとメンバーがゲームを辞めてしまったのかログインしなくなってしまうことがある。
 ギルドを運営していく為にはこうしたメンバーを脱退させなければいけないのだが、アヤさんはそれが少し嫌なようだ。
  〈アヤが〇〇を脱退させました〉
 
 メンバーを脱退させると勝手に通知が流れる。
 「この脱退させましたって凄く嫌だー」
 「なんか別のいい言い方ないかなぁ」
 ゲーム上のシステムなので自分達で変えられる訳はないのだが、僕は1ここで1つ案を出してみた。
 「卒業させました、とかいいですね」
 「ちょっと別の事考えちゃった!」
 「え? なんですか一体」
 「いいのいいの、気にしないで!」
 質問ははぐらかされてしまったが、アヤさんはやはり心の優しい素敵な人だなぁと感じた。
 そんなこんなで毎日楽しくゲームをプレイしていると、気づけば自分はギルド内で上位の強さと経験を持つプレイヤーとなっていた。
 アヤさんにも頼りにされるようになり、ますますやる気に満ち溢れていた時、ギルドでナンバーワンの強さだった当時のサブマスターがゲームを辞めてしまった。
 「〇〇さん辞めちゃいましたね」
 「うん、寂しいけど頑張ろー!」
 「自分はこれからもできる事頑張ります」
 〈アヤがリュウをサブマスターに任命しました〉
 「リュウさんよろしくね!」
 「立派なサブマスになれるように頑張ります」
 頼りにされているとは思っていたが、他に古参のメンバーもいる中自分がサブマスに任命されるのは少し意表を突かれた。
 でももちろん嬉しかった。自分を認めてくれているんだと思うと全身で喜びを表現したい気分だった。
 同時に少しプレッシャーと責任みたいなものを感じていた。
 サブマスに任命されてから今まで以上にギルド内に目を配るようになった。
 アヤさんの人柄のおかげだろう、メンバーは皆優しい人ばかりでとても雰囲気は良い。
 皆に優しいアヤさんはやはりメンバーにも慕われている。自分もその中のひとりだ。
 しかし自分が会話に入っていない時にアヤさんが楽しそうにギルド内でチャットしていると少しモヤモヤしてしまう。
 まさかゲームで顔も知らない相手に嫉妬しているとでも言うのか・・・・・・
 とはいえもちろんそんな感情を表に出せるはずもなく、他のメンバーとも仲良くしていた。
 そしてしばらくは何事も無く平穏で楽しいゲームライフが続いていくのだが、ある日突然立て続けに古参メンバーが2人自らギルドを脱退してしまった。
 今までとは違いゲームを辞める訳ではなく、他のギルドに入りたいようだ。
 「抜けていっちゃうのは仕方ないことだしまた新メンバー勧誘してがんばろー!」
 今回もアヤさんは皆に明るく振る舞い、前向きな発言をしていたが、メンバーが抜けていった事を本当に何も気にしていないのだろうか。
 いや、そんなはずはない。サブマスとして脱退者に話も聞けなかった後悔もあってアヤさんに個人チャットをしてみることにした。
 「アヤさんこんばんはー」
 「こんばんは! どうしたの?」
 「他のメンバーの手前、自分だけアヤさんとチャットするのもどうかと思ったのですが」
 「ギルドの運営やイベントもアヤさんだけに任せっきりで負担になってないか心配で」
 
 「一応サブマスだから自分を頼って欲しくて」
 自分の気持ちを正直に伝えてみた。
 「リュウさんありがとう、正直ちょっと2人の脱退でメンタルやられてたー」
 やっぱりそうだったのか。いつも明るく振舞って隙が無いアヤさんも悲しい思いしてたんだ。連絡してみて本当によかった。
 「ギルドを作った時から一緒の人がお別れあっさりだと悲しいし、何が嫌だったのか聞けないとわからないから直せないよー」
 「ギルドを解散しようかとも考えたけどさすがにそれは嫌だし、ここまで着いてきてくれたみんなにも申し訳ないから悩んでたの」
 うんうん、そうですよね。心の中で激しく頷いた。
 「プレイスタイルの違いもありますし、あの人達なら次のギルドでも楽しくやってるでしょうから気にしないでいきましょう」
 全然的を獲ていないが、精一杯前向きな文章を考えて打ち込んだ。いつものアヤさんのように。
 「リュウさん本当にありがとう!」
 ギルドに入ってアヤさんと出逢い、ずっとアヤさんに着いてきたがこんなに素直にアヤさんと会話したのは初めてだった。
 というよりアヤさんが本音を伝えてくれた事なんて今まで無かった。
 いつも誰にでも優しく、人に対しても物事に対してもネガティブなことを決して言わず、いつも明るいアヤさんを少しだけみんなより深く知ることができた。
 
 
 それからすぐに抜けていってしまったメンバーの穴を埋めるため、そして早くアヤさんに元気になってもらうため新メンバーを勧誘することに尽力した。
 「ギルメン募集 マスターが優しく、みんなで助け合うとっても雰囲気のいいギルドです!」
 こんな文章を全プレイヤーが閲覧できるワールドチャットに数時間毎に貼り付けた。
 その甲斐もあって新メンバーも増え、以前にもましてギルドは活気づいていた。
 「初めまして、初心者ですがよろしくお願いします」
 「〇〇さんいらっしゃーい、よろしくです!」
 「ゲーム内でお手伝いできる事あったら気軽に行ってくださいね!」
 「そうだ、リュウちゃん後で一緒に上級モンスター倒しに行こっ!」
 「りょーかい」
 この頃くらいからリュウちゃんと呼ばれるようになり、自分も自然と敬語が抜けていた。
 ふと考える事がある、一体アヤさんはどんな人なんだろう。学生ではないっぽいけど、OLさんか、はたまたご結婚されてて子供もいる主婦なんじゃないか。
 アヤさんをもっと知りたい気持ちもあるけれど、本当はそんなことどうでもいいんだ。
 だって自分はアヤさんがどれだけ心が素敵で一緒に遊んでいて楽しい人か知っている。顔が見えない分ずっとアヤさんの中身を見て惹かれてここまで着いてきたんだから。
 いつかどちらかがゲームを辞めてしまう日まで、ずっと一緒に楽しくゲームをしたいと思っている。
 
 
 
 
 
 
 最近流行りのキャラ育成バトルゲームでギルドと呼ばれる、プレイヤーが30人ほど集まって交流したり一緒にゲームをプレイするチームのサブマスターをしているのだ。
 学校から帰宅した僕は早速スマホからゲームにログインする。
 「こんばんはー」
 「リュウちゃんこんばんはー!」
 ギルドのチャットで軽く挨拶をするといつもの様に真っ先にギルドマスターのアヤさんが反応してくれる。
 正直言ってゲーム自体が楽しいということもあるが、ここまでこのゲームを続けているのはこのアヤさんのおかげだ。
 自分がまだ初心者でギルドに入ったばかりの頃からずっと優しくしてくれていた。みんなでプレイしていて敵に負けてしまった時も、メンバーがゲームを去って行った時も、ネガティブな事は言わずいつも明るく前向きな人だ。
 
 そんな僕と、このギルド、アヤさんとのこれまでを振り返ってみる。
 自分がまだギルドに入ったばかりの頃。
 ギルドに入って最初のイベントは、参加できるメンバー全員で時間内にたくさん敵モンスターを倒してポイントを稼ぐというものだった。
  初めての参加で右も左も分からず、他のメンバーに着いて周りあっという間に終わってしまった。
 「お疲れ様ー!」
 「お疲れ様です、何も分からなかっけど楽しかったです」
 「リュウさんとってもお上手でしたー!」
 「ありがとうございます」 
 終了後、チャットに挨拶を書き込むとアヤさんからお褒めの言葉をいただいた。
 もちろん社交辞令とは分かっていたが、ギルドのメンバーとして認められた気がして凄く嬉しかった。
 この時、アヤさんのギルドに入ってよかったなぁと心から思った。
 こんな出来事もあった。
 ギルドに入っているとメンバーがゲームを辞めてしまったのかログインしなくなってしまうことがある。
 ギルドを運営していく為にはこうしたメンバーを脱退させなければいけないのだが、アヤさんはそれが少し嫌なようだ。
  〈アヤが〇〇を脱退させました〉
 
 メンバーを脱退させると勝手に通知が流れる。
 「この脱退させましたって凄く嫌だー」
 「なんか別のいい言い方ないかなぁ」
 ゲーム上のシステムなので自分達で変えられる訳はないのだが、僕は1ここで1つ案を出してみた。
 「卒業させました、とかいいですね」
 「ちょっと別の事考えちゃった!」
 「え? なんですか一体」
 「いいのいいの、気にしないで!」
 質問ははぐらかされてしまったが、アヤさんはやはり心の優しい素敵な人だなぁと感じた。
 そんなこんなで毎日楽しくゲームをプレイしていると、気づけば自分はギルド内で上位の強さと経験を持つプレイヤーとなっていた。
 アヤさんにも頼りにされるようになり、ますますやる気に満ち溢れていた時、ギルドでナンバーワンの強さだった当時のサブマスターがゲームを辞めてしまった。
 「〇〇さん辞めちゃいましたね」
 「うん、寂しいけど頑張ろー!」
 「自分はこれからもできる事頑張ります」
 〈アヤがリュウをサブマスターに任命しました〉
 「リュウさんよろしくね!」
 「立派なサブマスになれるように頑張ります」
 頼りにされているとは思っていたが、他に古参のメンバーもいる中自分がサブマスに任命されるのは少し意表を突かれた。
 でももちろん嬉しかった。自分を認めてくれているんだと思うと全身で喜びを表現したい気分だった。
 同時に少しプレッシャーと責任みたいなものを感じていた。
 サブマスに任命されてから今まで以上にギルド内に目を配るようになった。
 アヤさんの人柄のおかげだろう、メンバーは皆優しい人ばかりでとても雰囲気は良い。
 皆に優しいアヤさんはやはりメンバーにも慕われている。自分もその中のひとりだ。
 しかし自分が会話に入っていない時にアヤさんが楽しそうにギルド内でチャットしていると少しモヤモヤしてしまう。
 まさかゲームで顔も知らない相手に嫉妬しているとでも言うのか・・・・・・
 とはいえもちろんそんな感情を表に出せるはずもなく、他のメンバーとも仲良くしていた。
 そしてしばらくは何事も無く平穏で楽しいゲームライフが続いていくのだが、ある日突然立て続けに古参メンバーが2人自らギルドを脱退してしまった。
 今までとは違いゲームを辞める訳ではなく、他のギルドに入りたいようだ。
 「抜けていっちゃうのは仕方ないことだしまた新メンバー勧誘してがんばろー!」
 今回もアヤさんは皆に明るく振る舞い、前向きな発言をしていたが、メンバーが抜けていった事を本当に何も気にしていないのだろうか。
 いや、そんなはずはない。サブマスとして脱退者に話も聞けなかった後悔もあってアヤさんに個人チャットをしてみることにした。
 「アヤさんこんばんはー」
 「こんばんは! どうしたの?」
 「他のメンバーの手前、自分だけアヤさんとチャットするのもどうかと思ったのですが」
 「ギルドの運営やイベントもアヤさんだけに任せっきりで負担になってないか心配で」
 
 「一応サブマスだから自分を頼って欲しくて」
 自分の気持ちを正直に伝えてみた。
 「リュウさんありがとう、正直ちょっと2人の脱退でメンタルやられてたー」
 やっぱりそうだったのか。いつも明るく振舞って隙が無いアヤさんも悲しい思いしてたんだ。連絡してみて本当によかった。
 「ギルドを作った時から一緒の人がお別れあっさりだと悲しいし、何が嫌だったのか聞けないとわからないから直せないよー」
 「ギルドを解散しようかとも考えたけどさすがにそれは嫌だし、ここまで着いてきてくれたみんなにも申し訳ないから悩んでたの」
 うんうん、そうですよね。心の中で激しく頷いた。
 「プレイスタイルの違いもありますし、あの人達なら次のギルドでも楽しくやってるでしょうから気にしないでいきましょう」
 全然的を獲ていないが、精一杯前向きな文章を考えて打ち込んだ。いつものアヤさんのように。
 「リュウさん本当にありがとう!」
 ギルドに入ってアヤさんと出逢い、ずっとアヤさんに着いてきたがこんなに素直にアヤさんと会話したのは初めてだった。
 というよりアヤさんが本音を伝えてくれた事なんて今まで無かった。
 いつも誰にでも優しく、人に対しても物事に対してもネガティブなことを決して言わず、いつも明るいアヤさんを少しだけみんなより深く知ることができた。
 
 
 それからすぐに抜けていってしまったメンバーの穴を埋めるため、そして早くアヤさんに元気になってもらうため新メンバーを勧誘することに尽力した。
 「ギルメン募集 マスターが優しく、みんなで助け合うとっても雰囲気のいいギルドです!」
 こんな文章を全プレイヤーが閲覧できるワールドチャットに数時間毎に貼り付けた。
 その甲斐もあって新メンバーも増え、以前にもましてギルドは活気づいていた。
 「初めまして、初心者ですがよろしくお願いします」
 「〇〇さんいらっしゃーい、よろしくです!」
 「ゲーム内でお手伝いできる事あったら気軽に行ってくださいね!」
 「そうだ、リュウちゃん後で一緒に上級モンスター倒しに行こっ!」
 「りょーかい」
 この頃くらいからリュウちゃんと呼ばれるようになり、自分も自然と敬語が抜けていた。
 ふと考える事がある、一体アヤさんはどんな人なんだろう。学生ではないっぽいけど、OLさんか、はたまたご結婚されてて子供もいる主婦なんじゃないか。
 アヤさんをもっと知りたい気持ちもあるけれど、本当はそんなことどうでもいいんだ。
 だって自分はアヤさんがどれだけ心が素敵で一緒に遊んでいて楽しい人か知っている。顔が見えない分ずっとアヤさんの中身を見て惹かれてここまで着いてきたんだから。
 いつかどちらかがゲームを辞めてしまう日まで、ずっと一緒に楽しくゲームをしたいと思っている。
 
 
 
 
 
 
コメント
ノベルバユーザー599850
1話完結ということで自分の参考にさせてもらいたくて読ませていただきました。
ありがとうございました。