乙女ゲームの当て馬悪役令嬢は、王太子殿下の幸せを願います!
第59話 精霊祭②
イドニア王国イングリート王宮。
精霊祭の日は王宮が開放されるので、この王国の貴族であれば自由に王宮に出入りが出来る。まぁ自由にといってもダンスホールや庭園など一部の区画に限られるのですけれど。
人が集まり出すのは昼頃からで、それまでは公爵及び侯爵の爵位を持つ者が、順に国王陛下に謁見を賜る。
国王陛下のお人柄も手伝って、謁見はこちらの家族も交えたフランクなものだ。
今年、我がアルヴァハイム侯爵家からは、お父様とお母様とわたくしが出席、生まれた子供が可愛いすぎて「精霊祭には行かない!」と断言したカートお兄様は欠席、そして、来年にデビュタントを控えたフィーが初参加だった。
「国王陛下はお優しい方なんですね。それに、格好良くて吃驚しました」
「そうよ。クラウス様のご尊父様ですもの、格好良いに決まっているわ」
国王陛下との謁見を終えたわたくしエリザベータ・フォン・アルヴァハイムは、妹のフィーと王宮の庭園を散策中。
わたくし付き侍女のカルラ、フィー付きの侍女カミラも、少し離れて付き従っている。
フィーは、薔薇や花一華、細葉紅黄草など、銀杏の緑を背景に庭園を彩る色鮮やかな花々を、目を輝かせながら観賞していた。
「いやー、まるで花から花へと舞い飛ぶ蝶の様な可愛らしさだねぇ」
「ギャッ!吃驚した!」
いつの間にか背後に立っていたギルバートの声に、わたくしは飛び上がった。
「そんなに驚く事ないだろー?いやー、まるで蛇に驚いて飛び上がる仔猫の様な可愛いらしさだったねぇ」
「蛇を口にしないで!」
悪びれもせずに、茶目っ気のある笑顔で赤褐色の瞳を輝かせるギルバート。
出し抜けに耳に飛び込んで来た名前を呼んではいけないあの蛇の名に、こちらは2度吃驚よ。カルラやカミラも、この男が来たなら来たと、教えてくれてもいいと思うわ?
庭園の花壇を眺めていたフィーも、ギルバートに気付いて駆け寄って来た。
「ギルバート様!ギルバート様も、いらっしゃっていたんですね」
「やぁフィーちゃん、久しぶり。髪の毛の色、元に戻したんだね。銀の髪も神秘的でよく似合ってるよ。花の香りに誘われて、この庭園に花の精霊が舞い降りて来たのかと思ったくらいだ」
「あ、あのあの…あり、ありがとうございます……」
「いや、花に誘われたのは俺の方か。俺が蝶なら、フィーちゃんはさしずめ可憐な菫の花……」
「貴方いい加減にしなさいよ?」
この男は息をする様に女性を口説く。
まったく、フィーは異性に免疫がないのよ。照れてアワアワしてしまっているじゃあないの。
フィーに対する狼藉を警戒して微妙に距離を詰めて来ている侍女ふたりの存在に気付いているのかいないのか、ギルバートは「はいは〜い」と軽い調子で返してから、こちらに向き直った。
「そんで、フィーちゃんは、もう〈魔術〉で髪の色を変えたり、匿ったりしなくて大丈夫なんだ?」
「ええ。フィーを狙う輩はもう2年程は現れていないし、今日は……」
「フィーちゃんの兄さんか」
フィーの兄、テオバルトはこの王宮の何処かにいる筈だ。
ギルバートも、いくら周囲に人がいないからといって王室の"影"である「テオバルト」の名を安易に口に出すのは不味いとちゃんと分かっている様ね。
フィーに気付いてあちらから姿を見せてくれたら良いのだが、王宮は広いし、カルラは「精霊祭の今日は、貴族達が多く集まるこの場所には用事がない限り近付かないのでは」と言っていた。
「そう。それにフィーは来年デビュタントなのよ。アルヴァハイム侯爵家令嬢としてきちんと振る舞える様に、社交に慣れさせておかないと」
「へぇ。じゃあ、あちらのご婦人方とお茶してこなくていーわけ?」
「それはあらかた済ませて来たわ」
国王陛下との謁見を終えた貴族達は、いくつかある広間に男女に分かれて集まって談話する。
紅茶の飲み方や話し方、フィーの作法は公爵家のご夫人方のお眼鏡にもかなった様で概ね好評であった。
フッ。当たり前ね。このわたくしが教育したのよ。
そして、フィーが少し疲れて来た頃合いに、「初めて王宮を訪れたのでまだ庭園を見た事がない」という名目で外へと連れ出したのだ。
フィーを「可愛い可愛い」と気に入ってくれたご夫人の何人かは一緒に付いて来たそうだったが、話し好きの我が家のお母様に捕まってしまい、来られなかった。暫くあの広間からは逃れられないだろう。
「ギル貴方こそ、いつまでもこんな所で油を売っていて良いの?『サボっていた』とクラウス様に報告するわよ」
「やめて、それはやめて!」
将来騎士団希望のギルバートは研修として精霊祭の王宮の警備に参加しているので、騎士団の制服を着て帯剣もしている。
慌てて戻るギルバートだったが、ふと足を止めてこちらを振り返った。
「そうだ、エリィ!フィーちゃんの兄さんと接触する事があっても、危ない真似はするなよ。今日は絶対にカルラちゃんから離れるな」
「分かっているわ」
わたくしの答えに頷いて、ギルバートは職務へと戻って行った。
精霊祭の日は王宮が開放されるので、この王国の貴族であれば自由に王宮に出入りが出来る。まぁ自由にといってもダンスホールや庭園など一部の区画に限られるのですけれど。
人が集まり出すのは昼頃からで、それまでは公爵及び侯爵の爵位を持つ者が、順に国王陛下に謁見を賜る。
国王陛下のお人柄も手伝って、謁見はこちらの家族も交えたフランクなものだ。
今年、我がアルヴァハイム侯爵家からは、お父様とお母様とわたくしが出席、生まれた子供が可愛いすぎて「精霊祭には行かない!」と断言したカートお兄様は欠席、そして、来年にデビュタントを控えたフィーが初参加だった。
「国王陛下はお優しい方なんですね。それに、格好良くて吃驚しました」
「そうよ。クラウス様のご尊父様ですもの、格好良いに決まっているわ」
国王陛下との謁見を終えたわたくしエリザベータ・フォン・アルヴァハイムは、妹のフィーと王宮の庭園を散策中。
わたくし付き侍女のカルラ、フィー付きの侍女カミラも、少し離れて付き従っている。
フィーは、薔薇や花一華、細葉紅黄草など、銀杏の緑を背景に庭園を彩る色鮮やかな花々を、目を輝かせながら観賞していた。
「いやー、まるで花から花へと舞い飛ぶ蝶の様な可愛らしさだねぇ」
「ギャッ!吃驚した!」
いつの間にか背後に立っていたギルバートの声に、わたくしは飛び上がった。
「そんなに驚く事ないだろー?いやー、まるで蛇に驚いて飛び上がる仔猫の様な可愛いらしさだったねぇ」
「蛇を口にしないで!」
悪びれもせずに、茶目っ気のある笑顔で赤褐色の瞳を輝かせるギルバート。
出し抜けに耳に飛び込んで来た名前を呼んではいけないあの蛇の名に、こちらは2度吃驚よ。カルラやカミラも、この男が来たなら来たと、教えてくれてもいいと思うわ?
庭園の花壇を眺めていたフィーも、ギルバートに気付いて駆け寄って来た。
「ギルバート様!ギルバート様も、いらっしゃっていたんですね」
「やぁフィーちゃん、久しぶり。髪の毛の色、元に戻したんだね。銀の髪も神秘的でよく似合ってるよ。花の香りに誘われて、この庭園に花の精霊が舞い降りて来たのかと思ったくらいだ」
「あ、あのあの…あり、ありがとうございます……」
「いや、花に誘われたのは俺の方か。俺が蝶なら、フィーちゃんはさしずめ可憐な菫の花……」
「貴方いい加減にしなさいよ?」
この男は息をする様に女性を口説く。
まったく、フィーは異性に免疫がないのよ。照れてアワアワしてしまっているじゃあないの。
フィーに対する狼藉を警戒して微妙に距離を詰めて来ている侍女ふたりの存在に気付いているのかいないのか、ギルバートは「はいは〜い」と軽い調子で返してから、こちらに向き直った。
「そんで、フィーちゃんは、もう〈魔術〉で髪の色を変えたり、匿ったりしなくて大丈夫なんだ?」
「ええ。フィーを狙う輩はもう2年程は現れていないし、今日は……」
「フィーちゃんの兄さんか」
フィーの兄、テオバルトはこの王宮の何処かにいる筈だ。
ギルバートも、いくら周囲に人がいないからといって王室の"影"である「テオバルト」の名を安易に口に出すのは不味いとちゃんと分かっている様ね。
フィーに気付いてあちらから姿を見せてくれたら良いのだが、王宮は広いし、カルラは「精霊祭の今日は、貴族達が多く集まるこの場所には用事がない限り近付かないのでは」と言っていた。
「そう。それにフィーは来年デビュタントなのよ。アルヴァハイム侯爵家令嬢としてきちんと振る舞える様に、社交に慣れさせておかないと」
「へぇ。じゃあ、あちらのご婦人方とお茶してこなくていーわけ?」
「それはあらかた済ませて来たわ」
国王陛下との謁見を終えた貴族達は、いくつかある広間に男女に分かれて集まって談話する。
紅茶の飲み方や話し方、フィーの作法は公爵家のご夫人方のお眼鏡にもかなった様で概ね好評であった。
フッ。当たり前ね。このわたくしが教育したのよ。
そして、フィーが少し疲れて来た頃合いに、「初めて王宮を訪れたのでまだ庭園を見た事がない」という名目で外へと連れ出したのだ。
フィーを「可愛い可愛い」と気に入ってくれたご夫人の何人かは一緒に付いて来たそうだったが、話し好きの我が家のお母様に捕まってしまい、来られなかった。暫くあの広間からは逃れられないだろう。
「ギル貴方こそ、いつまでもこんな所で油を売っていて良いの?『サボっていた』とクラウス様に報告するわよ」
「やめて、それはやめて!」
将来騎士団希望のギルバートは研修として精霊祭の王宮の警備に参加しているので、騎士団の制服を着て帯剣もしている。
慌てて戻るギルバートだったが、ふと足を止めてこちらを振り返った。
「そうだ、エリィ!フィーちゃんの兄さんと接触する事があっても、危ない真似はするなよ。今日は絶対にカルラちゃんから離れるな」
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