乙女ゲームの当て馬悪役令嬢は、王太子殿下の幸せを願います!
第57話 アリス・アイメルトの研鑽
アリスはある時期からメキメキと成績を上げ、今となってはどの科目でも上位の成績を収める様になった。
編入から僅か1年足らず。主人公の潜在能力とは恐ろしい。
事〈武芸〉に関しては、何と次席。首席であるクラウス様に次いでの成績だ。恐ろしい。
あくまで"成績"であるので実際に戦った時の強さとはまた異なるのかもしれないが、成績を基準に語るのならばアリスはギルバートよりも強いという事になる。
イドニア王国では剣技は貴族男性の嗜みであるし、騎士の称号を持つ家は幼い頃から修練を積んでいる。
「アリスちゃんに打ち合いで負けた〜」と泣き言を言っていた姿からは想像もつかないが、ギルバートのミュラー伯爵家も騎士の称号を持っているし、ギルバート本人も実際に騎士団に所属する人間と比較しても遜色ない程の剣の腕前がある、らしい。
そんな中、クラウス様の指導の下、並み居る強豪を抑え次席にまで昇り詰めたアリス。
一体いつの間にこの世界は乙女ゲームの世界から少年漫画の世界へと変貌を遂げたのかしら。
いえいえ、アリだわ。
乙女ゲームであればこそ、師匠の攻略ルート、つまり師匠との恋愛はアリ。
でもそもそもクラウス様って師匠キャラではないわよね?
どう考えても王子様キャラよね?
だって、紛う事なき王子様よ?
「わたくしが言っているのは、何故クラウス様を『師匠』だなんて呼んでいるのかという事よ!」
カリカリしているわたくしに対して、アリスは花が咲いた様な笑顔で答える。
「大丈夫です!普段はきちんと『クラウス殿下』とお呼びしていますから!さっきのは、ついうっかり……」
「『普段は』!?『うっかり』!?じゃあ何!クラウス様とふたりきりの時は『師匠』と呼んでいるとでもいうの!?なら他にあるでしょう!もっとこう、……あるでしょう!?」
「? 何がですか?」
「分からない子ね!!」
どこまでもマイペースなアリスに、わたくしは手巾を噛んで「キー!」と叫んだ。正しい使い方である。
わたくしはね!「ふたりきりの時だけの特別な呼び方♡」というロマンチックなイベントを、「師匠」という色気のない呼び名で消費するなと、そういう事を言いたいのよ!!
「殿下とふたりでいる時に『師匠』とお呼びしている訳ではないんですよ」
手巾を噛むわたくしの姿を見て、ウィルフリードとギルバートが若干引き気味の態度を見せる中、アリスはそれを気にする様子もなく続ける。
「これは私の心の中だけの呼び名といいますか……はじめは『鬼教官』だったんですけど、やっぱり心の中だけとはいえ不敬かなって思って、今は『師匠』なんです!」
「もっと嫌!クラウス様に変なあだ名を付けないで!!」
アリスと共に執務室へと戻って来ていた当のクラウス様は、わたくしとアリスがわーわー言っているのを尻目に、生徒会会長の席に着いて淡々と書類の整理を進めている。
「クラウス様!いいのですか、こんな事を言わせておいて!」
「頭で考えているだけならば自由だろう。時折『師匠』などと呼ばれるのは何かとは思ってはいたが」
「えぇ!?」
クラウス様、心が広い……じゃなくて。
いいの、本当に?
ていうか、このふたり、ちゃんと恋愛してる?
わたくしはますます不安になった。
『エバラバ』では、クラウス様は……あら?クラウス様は、割とこんな感じだったわね。元々表情に出ないタイプだものね。
やはり問題は、主人公。
『エバラバ』の通りに可愛くて一生懸命、かと思えば『エバラバ』とは違ってひたすらにマイペースで図太い所もあったり、特に悪役令嬢にやたらと懐いて来る所なんてゲームとは違い過ぎる。まぁそこは、偶には可愛いと思わない事もないけれど?偶によ、ごく稀に!!
しかしこれまでの出来事を振り返るとアリスは順調にクラウス様ルートを進めているようにも思えるし、わたくしが心配し過ぎているだけなのかしら。
「……またぶつぶつと呟き出しましたけど、エリザベータ嬢は黙って作業が出来ないのでしょうかね」
「でも手はちゃんと動いてるんだよなぁ」
「器用ですよね。ある意味」
ウィルフリードとギルバートが話していたが、考え込むわたくしの耳には届かなかった。
編入から僅か1年足らず。主人公の潜在能力とは恐ろしい。
事〈武芸〉に関しては、何と次席。首席であるクラウス様に次いでの成績だ。恐ろしい。
あくまで"成績"であるので実際に戦った時の強さとはまた異なるのかもしれないが、成績を基準に語るのならばアリスはギルバートよりも強いという事になる。
イドニア王国では剣技は貴族男性の嗜みであるし、騎士の称号を持つ家は幼い頃から修練を積んでいる。
「アリスちゃんに打ち合いで負けた〜」と泣き言を言っていた姿からは想像もつかないが、ギルバートのミュラー伯爵家も騎士の称号を持っているし、ギルバート本人も実際に騎士団に所属する人間と比較しても遜色ない程の剣の腕前がある、らしい。
そんな中、クラウス様の指導の下、並み居る強豪を抑え次席にまで昇り詰めたアリス。
一体いつの間にこの世界は乙女ゲームの世界から少年漫画の世界へと変貌を遂げたのかしら。
いえいえ、アリだわ。
乙女ゲームであればこそ、師匠の攻略ルート、つまり師匠との恋愛はアリ。
でもそもそもクラウス様って師匠キャラではないわよね?
どう考えても王子様キャラよね?
だって、紛う事なき王子様よ?
「わたくしが言っているのは、何故クラウス様を『師匠』だなんて呼んでいるのかという事よ!」
カリカリしているわたくしに対して、アリスは花が咲いた様な笑顔で答える。
「大丈夫です!普段はきちんと『クラウス殿下』とお呼びしていますから!さっきのは、ついうっかり……」
「『普段は』!?『うっかり』!?じゃあ何!クラウス様とふたりきりの時は『師匠』と呼んでいるとでもいうの!?なら他にあるでしょう!もっとこう、……あるでしょう!?」
「? 何がですか?」
「分からない子ね!!」
どこまでもマイペースなアリスに、わたくしは手巾を噛んで「キー!」と叫んだ。正しい使い方である。
わたくしはね!「ふたりきりの時だけの特別な呼び方♡」というロマンチックなイベントを、「師匠」という色気のない呼び名で消費するなと、そういう事を言いたいのよ!!
「殿下とふたりでいる時に『師匠』とお呼びしている訳ではないんですよ」
手巾を噛むわたくしの姿を見て、ウィルフリードとギルバートが若干引き気味の態度を見せる中、アリスはそれを気にする様子もなく続ける。
「これは私の心の中だけの呼び名といいますか……はじめは『鬼教官』だったんですけど、やっぱり心の中だけとはいえ不敬かなって思って、今は『師匠』なんです!」
「もっと嫌!クラウス様に変なあだ名を付けないで!!」
アリスと共に執務室へと戻って来ていた当のクラウス様は、わたくしとアリスがわーわー言っているのを尻目に、生徒会会長の席に着いて淡々と書類の整理を進めている。
「クラウス様!いいのですか、こんな事を言わせておいて!」
「頭で考えているだけならば自由だろう。時折『師匠』などと呼ばれるのは何かとは思ってはいたが」
「えぇ!?」
クラウス様、心が広い……じゃなくて。
いいの、本当に?
ていうか、このふたり、ちゃんと恋愛してる?
わたくしはますます不安になった。
『エバラバ』では、クラウス様は……あら?クラウス様は、割とこんな感じだったわね。元々表情に出ないタイプだものね。
やはり問題は、主人公。
『エバラバ』の通りに可愛くて一生懸命、かと思えば『エバラバ』とは違ってひたすらにマイペースで図太い所もあったり、特に悪役令嬢にやたらと懐いて来る所なんてゲームとは違い過ぎる。まぁそこは、偶には可愛いと思わない事もないけれど?偶によ、ごく稀に!!
しかしこれまでの出来事を振り返るとアリスは順調にクラウス様ルートを進めているようにも思えるし、わたくしが心配し過ぎているだけなのかしら。
「……またぶつぶつと呟き出しましたけど、エリザベータ嬢は黙って作業が出来ないのでしょうかね」
「でも手はちゃんと動いてるんだよなぁ」
「器用ですよね。ある意味」
ウィルフリードとギルバートが話していたが、考え込むわたくしの耳には届かなかった。
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