乙女ゲームの当て馬悪役令嬢は、王太子殿下の幸せを願います!
第37話 奉奠の夜①
昼から降り始めた雪は、夜になる頃には王都を白く染め上げていた。
「積もるなんて珍しいですね〜」
外の様子を窓から眺め、わたくしエリザベータ・フォン・アルヴァハイム付き侍女、エマが言う。
雪の少ない王都にしては、今日はかなり降った方だと思う。
庭園を薄らと覆った雪の白さで、すっかり日が落ちた今になっても外はいつもより明るく感じた。
お父様とお兄様が不在の今日、アルヴァハイム侯爵家女性部は3人できゃいきゃい晩餐を楽しんだ後、各自沐浴を済ませ、現在はそれぞれ自室で思い思いの時を過ごしている。
わたくしの部屋にいるのは、わたくしの他には侍女のカルラとエマのふたりだけ。
因みにこのエマ、カルラ同様わたくしの護衛も兼ねている為、ぽややんと抜けている外見と性格に反して腕は確かだ。侍女の仕事に加え護衛の役割もあるのでお給金は良いらしいが、アルヴァハイム侯爵家の侍女も大変だ。
悪役令嬢でありながら「早寝早起き」がモットーのわたくしではあるが、奉奠祭の今日は少し夜更かしをする。
精霊に祈りを捧げつつ、ずっと祈っていると疲れてしまうのでいつもの様にカルラが淹れてくれたカモミールティーを嗜みながらクラウス様の肖像画を眺めつつ、日付が変わった頃に夜着に着替えて床に付く。
イドニア国民の一般的な奉奠祭の過ごし方だ(肖像画らへんの話は除く)。
「あっ、あの灯り。祭礼行列のものじゃないですか?きっと王太子殿下もいらっしゃいますよ」
隣に立つわたくしの手にある肖像画に目をやってから、エマが窓の外を指差した。
雪で白く彩られた街並みのむこう、大通りの辺りがぼんやりと明るくなっているのが見える。
「そうね……」
祭礼行列の灯り……あの灯りのどこかに、クラウス様がいるのね。
あとついでにお父様もいるわね。更についでにクラウス様の側近としてウィルフリードもいるかもね。
今日は寒かったから、風邪を引いたりしていないかしら。クラウス様、子供の頃は体が弱かったから心配……
でも確か、祭礼行列では王太子のクラウス様も国王陛下と一緒に神輿に乗ると聞いたわ。暖を取る為〈火〉の魔石も積んでいるだろうし、きっと暖かくしているわよね。
ああ……神輿でワッショイワッショイされるクラウス様も素敵。想像だけでご飯が3杯はいける気がするわ。
奉奠祭の祭礼行列は厳かなものらしいのでワッショイワッショイしたりはしないのでしょうけれど。
ひとつ溜息を吐いて手元の肖像画に目を落とす。
小さめの額に収められたそれには、王太子の正装に身を包みキリッと凛々しい顔をしたクラウス様の半身像が描かれている。かっこいい……
この他にもニヒルに微笑むクラウス様(画家の想像図)とか物憂げな色気を醸し出すクラウス様(画家の想像図)とか肖像画のストックはバリエーション豊富に取り揃えているのだけれど、今日はこの一枚だけ。
「リーゼお嬢様が肖像画を眺めていらっしゃるお顔は奉奠の日には相応しくありません」とカルラから制限をかけられてしまった為だ。
「今日のこの日にアノ顔を晒す事は精霊に対する冒涜です。加護も失われるかもしれません」とまで言われてしまったが、肖像画を眺めるわたくしの顔はそんなにヒドいのだろうか。ちょっと恥ずかしい。
窓から離れ椅子に座ったわたくしは、肖像画を机に置き―――額の裏にスタンドが付いているので立てて置く事が出来る仕組みになっている―――祈りを再開した。
この一年無事に過ごせました。ありがとうございます。
そんな事をつらつらと考えながら精霊に祈りを捧げる。
今年はとうとう『エバラバ』本編が始まり、わたくしの悪役令嬢ムーブがバシッとキマッた事も手伝ってか、アリスは概ね『エバラバ』通りにクラウス様ルートを進めている様に見える。
精霊祭まであと半年程。
どうか無事にクラウス様の暗殺を阻止して、『エバラバ』通りにアリスがクラウス様とのハッピーエンドを迎えて、『エバラバ』通りにクラウス様は末長く幸せに、ココ重要よ!末長く!幸せに!暮らせますように!
金糸雀色の金髪を、澄んだ海の様な藍色の瞳を思い浮かべる。
あぁ、停学処分からそのまま冬季休暇に入ってしまったせいで、最近クラウス様を見ていない。クラウス様成分が足りていない。
チラッとでいいから。ほんのちょっとでいいので、クラウス様と会えますように!ように!!
周りの音も聞こえないくらい祈りに集中していたわたくしだったが、突如開いた窓の音と外から吹き込む冷たい風に、驚いて椅子から立ち上がった。
それと同時に、エマが何処から出したのだろうか短剣を持ってわたくしの前に躍り出る。
「何奴!………ふぇっ!?」
開いたバルコニーの窓に向けて、普段は聞かない様な鋭い声を出したエマだったが、そこに現れた人影を見て、普段の様な間の抜けた声を上げた。
バルコニーの窓を開けて入ってきたのは、わたくしがたった今まで散々心に思い浮かべていた、ここに居る筈のない人物―――今は祭礼行列に加わっている筈の、クラウス様その人だった。
「積もるなんて珍しいですね〜」
外の様子を窓から眺め、わたくしエリザベータ・フォン・アルヴァハイム付き侍女、エマが言う。
雪の少ない王都にしては、今日はかなり降った方だと思う。
庭園を薄らと覆った雪の白さで、すっかり日が落ちた今になっても外はいつもより明るく感じた。
お父様とお兄様が不在の今日、アルヴァハイム侯爵家女性部は3人できゃいきゃい晩餐を楽しんだ後、各自沐浴を済ませ、現在はそれぞれ自室で思い思いの時を過ごしている。
わたくしの部屋にいるのは、わたくしの他には侍女のカルラとエマのふたりだけ。
因みにこのエマ、カルラ同様わたくしの護衛も兼ねている為、ぽややんと抜けている外見と性格に反して腕は確かだ。侍女の仕事に加え護衛の役割もあるのでお給金は良いらしいが、アルヴァハイム侯爵家の侍女も大変だ。
悪役令嬢でありながら「早寝早起き」がモットーのわたくしではあるが、奉奠祭の今日は少し夜更かしをする。
精霊に祈りを捧げつつ、ずっと祈っていると疲れてしまうのでいつもの様にカルラが淹れてくれたカモミールティーを嗜みながらクラウス様の肖像画を眺めつつ、日付が変わった頃に夜着に着替えて床に付く。
イドニア国民の一般的な奉奠祭の過ごし方だ(肖像画らへんの話は除く)。
「あっ、あの灯り。祭礼行列のものじゃないですか?きっと王太子殿下もいらっしゃいますよ」
隣に立つわたくしの手にある肖像画に目をやってから、エマが窓の外を指差した。
雪で白く彩られた街並みのむこう、大通りの辺りがぼんやりと明るくなっているのが見える。
「そうね……」
祭礼行列の灯り……あの灯りのどこかに、クラウス様がいるのね。
あとついでにお父様もいるわね。更についでにクラウス様の側近としてウィルフリードもいるかもね。
今日は寒かったから、風邪を引いたりしていないかしら。クラウス様、子供の頃は体が弱かったから心配……
でも確か、祭礼行列では王太子のクラウス様も国王陛下と一緒に神輿に乗ると聞いたわ。暖を取る為〈火〉の魔石も積んでいるだろうし、きっと暖かくしているわよね。
ああ……神輿でワッショイワッショイされるクラウス様も素敵。想像だけでご飯が3杯はいける気がするわ。
奉奠祭の祭礼行列は厳かなものらしいのでワッショイワッショイしたりはしないのでしょうけれど。
ひとつ溜息を吐いて手元の肖像画に目を落とす。
小さめの額に収められたそれには、王太子の正装に身を包みキリッと凛々しい顔をしたクラウス様の半身像が描かれている。かっこいい……
この他にもニヒルに微笑むクラウス様(画家の想像図)とか物憂げな色気を醸し出すクラウス様(画家の想像図)とか肖像画のストックはバリエーション豊富に取り揃えているのだけれど、今日はこの一枚だけ。
「リーゼお嬢様が肖像画を眺めていらっしゃるお顔は奉奠の日には相応しくありません」とカルラから制限をかけられてしまった為だ。
「今日のこの日にアノ顔を晒す事は精霊に対する冒涜です。加護も失われるかもしれません」とまで言われてしまったが、肖像画を眺めるわたくしの顔はそんなにヒドいのだろうか。ちょっと恥ずかしい。
窓から離れ椅子に座ったわたくしは、肖像画を机に置き―――額の裏にスタンドが付いているので立てて置く事が出来る仕組みになっている―――祈りを再開した。
この一年無事に過ごせました。ありがとうございます。
そんな事をつらつらと考えながら精霊に祈りを捧げる。
今年はとうとう『エバラバ』本編が始まり、わたくしの悪役令嬢ムーブがバシッとキマッた事も手伝ってか、アリスは概ね『エバラバ』通りにクラウス様ルートを進めている様に見える。
精霊祭まであと半年程。
どうか無事にクラウス様の暗殺を阻止して、『エバラバ』通りにアリスがクラウス様とのハッピーエンドを迎えて、『エバラバ』通りにクラウス様は末長く幸せに、ココ重要よ!末長く!幸せに!暮らせますように!
金糸雀色の金髪を、澄んだ海の様な藍色の瞳を思い浮かべる。
あぁ、停学処分からそのまま冬季休暇に入ってしまったせいで、最近クラウス様を見ていない。クラウス様成分が足りていない。
チラッとでいいから。ほんのちょっとでいいので、クラウス様と会えますように!ように!!
周りの音も聞こえないくらい祈りに集中していたわたくしだったが、突如開いた窓の音と外から吹き込む冷たい風に、驚いて椅子から立ち上がった。
それと同時に、エマが何処から出したのだろうか短剣を持ってわたくしの前に躍り出る。
「何奴!………ふぇっ!?」
開いたバルコニーの窓に向けて、普段は聞かない様な鋭い声を出したエマだったが、そこに現れた人影を見て、普段の様な間の抜けた声を上げた。
バルコニーの窓を開けて入ってきたのは、わたくしがたった今まで散々心に思い浮かべていた、ここに居る筈のない人物―――今は祭礼行列に加わっている筈の、クラウス様その人だった。
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