乙女ゲームの当て馬悪役令嬢は、王太子殿下の幸せを願います!
第9話 プライセル伯爵令嬢の更なる受難
始めの内こそ足を踏みそうになったり(わたくしは華麗に避けるけどね!)膝がぶつかったりしていたアリスだが、距離感を掴んだらしくステップがスムーズになってきた。
どうやらパートナーとして踊るわたくしの動きも参考にしている様だ。『技は見て盗め』ってヤツね。実戦の中で成長するタイプだわ。
「エリザベータ様は、男性パートも踊れるんですね」
「肘が下がっているわよ。…妹に教えている内に覚えたの」
「エリザベータ様が教えてるんですか!?家庭教師とかじゃなく?」
「妹は体が弱いので体調を見ながらでないと練習出来ないのよ」
「そうなんですか…」
踊りながら会話する余裕も出てきた様だ。
「そろそろ休憩しましょう」
そう言って一旦踊るのを止める。
結構長い時間ぶっ続けで踊ったが、アリスは音も上げずに付いて来た。
うっすら汗ばんだ様も爽やかに見える所が乙女ゲームのヒロインよね。「ふうっ」と払った汗すらキラキラとエフェクトがかって見える気がする。
「かなり様になってきたと思うのだけれど、第三者の意見も欲しい所ね。…プライセル様!」
わたくしは、飽きもせずヒソヒソしている野次馬の中から金髪縦ロールのプライセル伯爵令嬢を呼んだ。
縦ロールはアリスが気に入らないので、今の様な粗探しが出来そうな場面にはだいたい居る。
「はっはい?」
まさか呼び付けられるとは思っていなかったらしい縦ロールが、当惑の表情のままこちらに来た。
「プライセル様はどうお思いになって?アリス様のダンスで気を付けなければいけない所はないかしら」
「まぁ、ふふふ。アイメルトさんはそのままでいいんじゃないかしら、平民らしくって。それに比べてエリザベータ様は素敵でしたわ!男性パートを踊ってもあんなに美しくていらっしゃるんですもの」
縦ロールの後ろで、彼女に付いて来た取り巻き子爵令嬢3人が「そうですわね」と合いの手を入れる。
どうやらまだアリスを虐めていると思っている様だが授業の時間は有限だ。無駄な事をしている場合ではない。
「わたくしが必要としているのは毒にも薬にもならない様な意見ではなくってよ。あと後ろのお三方は少しの間下がってもらえるかしら」
「申し訳ないのですけれど」と、扇で口元を隠し眼力強めに彼女等を見やると、縦ロールは「ひっ!」と顔を青くし、取り巻き令嬢達は「すみません!」と蜘蛛の子を散らす様に逃げて行った。
名あり悪役令嬢とモブ悪役令嬢の力の差ってやつよ。
「エ、エリザベータ様、わたくし、また何かお気に障る事を…?」
「わたくしはプライセル様なら有用な助言がいただけると思ってお呼びしたのよ」
縦ロールを呼んだのにはちゃんと理由がある。
縦ロール―――プライセル伯爵令嬢は、夜会という夜会には必ずと言っていい程現れる事で有名だ。
夜会には、有力な貴族との結び付きを持つ為だとか、恋人探しの為だとかに出席する者がほとんどなのだが、縦ロールは違う。
彼女はダンスの為に出席する。
皆が会話を楽しみながらゆるりと踊る中、ひときわ異彩を放つ本気のダンスを披露するその姿はあまりにも迫真。鬼気迫る様子に誰も注意出来ず、人は彼女を『夜会荒らし』と呼ぶ。
その異名はあまり夜会に参加しないわたくしの所までも轟いて来るまでに凄まじく、この学院内でも知らぬ者はいないだろう。踊っているだけで『荒らし』と呼ばれるなんてよっぽどだと思う。
ちなみにパートナーを務めるのは彼女同様ダンスガチ勢のゼッフェルン子爵令息。ふたりは恋仲なのではとの専らの噂だ。
「プライセル様なら分かるのではなくて?アリス様の動きに何が足りなくて、どの様に改善すれば良いのか」
「えぇ…」
縦ロールは嫌そうだ。アリスに助言などしたくないと顔に書いてある。
「あら、分からない?わたくしプライセル様を過大評価していたのかしら」
眼力の出力を上げて睨むと縦ロールが「ひゃん!?」と謎の鳴き声を上げた。
アリスはわたくしの隣でどうしたものかとおろおろしている。
「あ、あのあの、えぇとですね」
可哀想に、縦ロールはすっかり怯えてしまった様子だったが、一度深呼吸してから話し始めた。
「…アイメルト様は体重移動はよく出来ていると思いますわ。でもターンの時は膝ではなく、もっと腰から回転させるイメージを持った方がいいかと思います」
「なるほど、他には?」
「ただ、やはり経験不足はどうしようもないです。何回も練習して、ステップを体に馴染ませるしかないですわ」
「ふむふむ。という事よアリス様。ちゃんと聞いてた?」
「はい!もっと時間を見つけて練習してみます!」
アリスはぐっと両手の拳を握りしめて答えた。
ファイティングポーズね。やはりこの子からは武力の気配を感じるわ。
しかし同じポーズをわたくしがやると相手に威圧感を与えそうなのに、アリスがやると可愛く見えるのは何故?
「やっぱり縦ロー…プライセル様に聞いて正解だったわ!」
「ありがとうございます、プライセル様!」
にっこにこでお礼を言うわたくしとアリスに、縦ロールは「は、はぁ…」と力ない返事をした。何だか疲れている様に見える。
「それは良かったですわ…そ、それではわたくしはこれで」
そのままそそくさと退散しようとする縦ロールを、わたくしが引き止めた。
「待って!もう一度ふたりで踊ってみるからアリス様の動きを監督してくださらない?」
「ええ!?」
結局その日のダンスレッスンは授業時間を大幅に超えて行われたのだった。
どうやらパートナーとして踊るわたくしの動きも参考にしている様だ。『技は見て盗め』ってヤツね。実戦の中で成長するタイプだわ。
「エリザベータ様は、男性パートも踊れるんですね」
「肘が下がっているわよ。…妹に教えている内に覚えたの」
「エリザベータ様が教えてるんですか!?家庭教師とかじゃなく?」
「妹は体が弱いので体調を見ながらでないと練習出来ないのよ」
「そうなんですか…」
踊りながら会話する余裕も出てきた様だ。
「そろそろ休憩しましょう」
そう言って一旦踊るのを止める。
結構長い時間ぶっ続けで踊ったが、アリスは音も上げずに付いて来た。
うっすら汗ばんだ様も爽やかに見える所が乙女ゲームのヒロインよね。「ふうっ」と払った汗すらキラキラとエフェクトがかって見える気がする。
「かなり様になってきたと思うのだけれど、第三者の意見も欲しい所ね。…プライセル様!」
わたくしは、飽きもせずヒソヒソしている野次馬の中から金髪縦ロールのプライセル伯爵令嬢を呼んだ。
縦ロールはアリスが気に入らないので、今の様な粗探しが出来そうな場面にはだいたい居る。
「はっはい?」
まさか呼び付けられるとは思っていなかったらしい縦ロールが、当惑の表情のままこちらに来た。
「プライセル様はどうお思いになって?アリス様のダンスで気を付けなければいけない所はないかしら」
「まぁ、ふふふ。アイメルトさんはそのままでいいんじゃないかしら、平民らしくって。それに比べてエリザベータ様は素敵でしたわ!男性パートを踊ってもあんなに美しくていらっしゃるんですもの」
縦ロールの後ろで、彼女に付いて来た取り巻き子爵令嬢3人が「そうですわね」と合いの手を入れる。
どうやらまだアリスを虐めていると思っている様だが授業の時間は有限だ。無駄な事をしている場合ではない。
「わたくしが必要としているのは毒にも薬にもならない様な意見ではなくってよ。あと後ろのお三方は少しの間下がってもらえるかしら」
「申し訳ないのですけれど」と、扇で口元を隠し眼力強めに彼女等を見やると、縦ロールは「ひっ!」と顔を青くし、取り巻き令嬢達は「すみません!」と蜘蛛の子を散らす様に逃げて行った。
名あり悪役令嬢とモブ悪役令嬢の力の差ってやつよ。
「エ、エリザベータ様、わたくし、また何かお気に障る事を…?」
「わたくしはプライセル様なら有用な助言がいただけると思ってお呼びしたのよ」
縦ロールを呼んだのにはちゃんと理由がある。
縦ロール―――プライセル伯爵令嬢は、夜会という夜会には必ずと言っていい程現れる事で有名だ。
夜会には、有力な貴族との結び付きを持つ為だとか、恋人探しの為だとかに出席する者がほとんどなのだが、縦ロールは違う。
彼女はダンスの為に出席する。
皆が会話を楽しみながらゆるりと踊る中、ひときわ異彩を放つ本気のダンスを披露するその姿はあまりにも迫真。鬼気迫る様子に誰も注意出来ず、人は彼女を『夜会荒らし』と呼ぶ。
その異名はあまり夜会に参加しないわたくしの所までも轟いて来るまでに凄まじく、この学院内でも知らぬ者はいないだろう。踊っているだけで『荒らし』と呼ばれるなんてよっぽどだと思う。
ちなみにパートナーを務めるのは彼女同様ダンスガチ勢のゼッフェルン子爵令息。ふたりは恋仲なのではとの専らの噂だ。
「プライセル様なら分かるのではなくて?アリス様の動きに何が足りなくて、どの様に改善すれば良いのか」
「えぇ…」
縦ロールは嫌そうだ。アリスに助言などしたくないと顔に書いてある。
「あら、分からない?わたくしプライセル様を過大評価していたのかしら」
眼力の出力を上げて睨むと縦ロールが「ひゃん!?」と謎の鳴き声を上げた。
アリスはわたくしの隣でどうしたものかとおろおろしている。
「あ、あのあの、えぇとですね」
可哀想に、縦ロールはすっかり怯えてしまった様子だったが、一度深呼吸してから話し始めた。
「…アイメルト様は体重移動はよく出来ていると思いますわ。でもターンの時は膝ではなく、もっと腰から回転させるイメージを持った方がいいかと思います」
「なるほど、他には?」
「ただ、やはり経験不足はどうしようもないです。何回も練習して、ステップを体に馴染ませるしかないですわ」
「ふむふむ。という事よアリス様。ちゃんと聞いてた?」
「はい!もっと時間を見つけて練習してみます!」
アリスはぐっと両手の拳を握りしめて答えた。
ファイティングポーズね。やはりこの子からは武力の気配を感じるわ。
しかし同じポーズをわたくしがやると相手に威圧感を与えそうなのに、アリスがやると可愛く見えるのは何故?
「やっぱり縦ロー…プライセル様に聞いて正解だったわ!」
「ありがとうございます、プライセル様!」
にっこにこでお礼を言うわたくしとアリスに、縦ロールは「は、はぁ…」と力ない返事をした。何だか疲れている様に見える。
「それは良かったですわ…そ、それではわたくしはこれで」
そのままそそくさと退散しようとする縦ロールを、わたくしが引き止めた。
「待って!もう一度ふたりで踊ってみるからアリス様の動きを監督してくださらない?」
「ええ!?」
結局その日のダンスレッスンは授業時間を大幅に超えて行われたのだった。
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
2813
-
-
549
-
-
111
-
-
124
-
-
1978
-
-
141
-
-
75
-
-
841
-
-
4
コメント