婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
王子1
注:会話で「」の時は王国語、『』の時は帝国語になります。因みに帝国語は共通語でもあります。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
僕の思っていた通りヴィエンヌ王国では音楽の祭典で盛り上がっていた。
特に王立劇場では新しい歌劇を近々披露するらしい。伝統的な古典劇が多い王立劇場では珍しく斬新で新しいものを取り入れる事を決めたというのだ。公演は僕たちが滞在している間に行われるので、アリスを伴って見に行く予定だ。この国の王家の方々も「是非観て欲しい」と仰っていたからな。きっと素晴らしい舞台なのだろう。
幸先いいと感じたのは本当に初めの内だけだった。
各国との貴族たちとの交流が増えると直ぐに問題が発生したのだ。
最初は、男女で分けた「お茶会」での事だった。
『久しぶりだね、エドワード殿』
共通語で話しかけられた。
それはいい。
ここはヴィエンヌ王国だ。相手はどう見ても他国の人間。大陸の共通語を話すのはある意味当然なのかもしれないが、一国の王子である僕に対してフランク過ぎる態度が気になった。僕は、彼がどこの誰なのか全然分からなかった。記憶になかったといった方が正しいのかもしれない。
だが相手は違った。
僕の事を覚えていた。
僕がコムーネ王国の第一王子だと知った上で話しかけてきたのだ。
知らない相手が図々しくも一国の王子に馴れ馴れしく話しかけてきたとばかり思ったが故に対応を誤った。
仕方がないだろう!
分からなかったし、思い出せなかったんだ!
記憶に残らないほど影の薄い相手にだって非があるだろう!
まさか……我が国と取引のある技術立国の貴族だとは思わなかったんだ!
「エドワード殿下が御大層に注意をなさった御相手は我が国でも大変お世話になっている国です。現在、苦しい状況下にいる我が国に対して侮る事も嘲笑う事もなく以前と同じような態度で接してくれる唯一の国ともいえます。かの国と貿易が成り立たなくなれば、今使用している最新の船や鉄砲が入手できなくなるのですよ?それと、他国人だからと、貴族だからと仰っていましたが相手は我が国よりも遥かに歴史ある国。貴族階級でも千年以上の歴史を持つ者が多いのです。王族だからと威張り散らして良い相手ではありません。殿下の常識が相手にも通じると考えないでください」
アレックスに静かに諭された。
僕の行動一つで貿易がダメになり大問題になりかけた。
ぐうの音も出ない失態だ。
何故だ!?
こういった交流会は今回が初めてという訳じゃない。
何時もならこんなバカな事をしでかさなかったのに……どうして今回に限ってやらかしてしまうんだ?
自分自身の行動に疑問を持ってしまったが、アレックスの忠告は有難かった。
その後も僕に話しかけてくる他国人は何名かいたからだ。
『キャサリン様は御一緒ではないようですが、婚約が白紙になったという話は本当のようですね。キャサリン様に愛想をつかされて王国共々捨てられたという話を聞きましたよ』
違う!
僕がキャサリンを捨ててやったんだ!
「永遠の愛」を誓ったアリスを正式に妻にするため生意気で底意地が悪いキャサリンに「婚約破棄」と告げたのに、父上は王家有責で婚約を解消した。お陰で他国では誤った話が伝えられてしまった。
その後は特にこれといって変わった事はなかった。
「お茶会」で出されたお茶は今まで飲んだことがないものであった。まろやかでいて少し渋みがあったが、甘い菓子にはピッタリだった。菓子も見た事がないもので、芸術品のように美しかった。小さな花がちりばめられていて実に繊細な作りだった。なんでも東の国から取り寄せたものらしい。
ヴィエンヌ王国は同盟国の誘いで数年前から東の国と積極的に交流を深めているらしい。文化も宗教観も全く違う国との交流はやはり中々難しいものだったようだが、相手国の芸術と音楽の民間レベルが高かった事が幸いしたようだ。今では異文化交流も盛んに行われて互いの国の文化に敬意を表して付き合っているらしい。
王太子教育の中でも東の国々の事は学んだ。
何処の国が何処にあるのかも地図を見せられて教えられた。
その国の特徴と特産品、政治体制、簡単な歴史と文化。
どれも茶会での会話には活かせなかった。
そのどれもが無意味だったからだ。
「お茶会」の参加者ならば知っていて当たり前の知識でしかなかったからだ。僕が学んだこと以上の知識を彼らは持っていた。アレックスやヴィクターも当たり前のように彼らと会話している。
「お茶会」の会話の中には僕が全く知らない事も話していた。会話が理解出来なかった。こんなことは初めてだ。東の国の話が茶会のメインとして話されること自体珍しい事では無い。特に女性等はオリエンタルな文化を好みがちで、キャサリンが主催する茶会でも度々話題になっていた。僕もキャサリンたちの会話に参加していて東の国に詳しいと自負していたというのに目の前で繰り広げられる会話に参加することはおろか頷く事さえできないでいた。
コメント