金丸耕平の休日--伊勢老舗旅館編--

佐々木寄道

17話

月梨「ママァ今日も先生に会えるの?」ママ「依美ちゃんがいい子にしていないと会えないわよぉ」月梨が産まれて間もなく父を無くしている。そんな彼女にとって藪は大切な存在だった。
ガチャ病室のドアが空く。藪「おっヨミちゃん、もう保育園行って来たの?」月梨「うん。お昼寝いっぱいしたの。」藪「へー良かったね。いっぱいしたの。そこに座ってごらん。」月梨「うん。」藪はヨミちゃんの心臓の動きを息1つせず診察している。藪「うん、元気いっぱいだねヨミちゃん。」月梨「そだよ。藪先生に会えたからだよぉ」ママ「まぁヨミちゃんお上手ね(笑)」藪「照れますなぁ。ハッハッハ」藪は宮崎駿風の見た目をしている。しかし、宮崎駿を更に優しくした感じの顔をしている。
月梨が保育園に通う頃、藪は45歳を少し過ぎたくらいだった。少し老け顔の藪はヨミちゃんの前ではいつも笑っていた。ママ「藪先生いつもありがとうございます。なにからなにまでしていただいて。」藪「いえいえ。そんな事ないですよ(笑)」看護婦A「あらぁ、藪先生照れちゃって(笑)」看護婦B「アッハッハッハッ」病室は笑い声で溢れていた。
藪は月梨と同じ心臓病を生まれながら持っていた。それ故、藪は月梨を自分の事のように可愛がり、思っていた。藪の人生は自分のような同じ人を救うために医者になり、そして、彼は日々それを実践している。

月日は流れ月梨依美子は15歳になっていた。日々学業に追われながら、部活に恋にと彼女なりに頑張っていた。生まれ持った彼女の心臓の病は時に彼女をひれ伏せさせた…そんな彼女の事を気にかけてくれる八神来子(やがみらいこ)は中学時代の友達である。
「来子きょう帰りに寄道していかない?」珍しく月梨から来子を誘った。「いいけど、どこ行くのよ」「イオンよ、イオン。」2人は放課後の廊下を歩いている。「珍しいわね。ヨミからイオン行こだなんて、なにか買うの?」「うん、ちょっとね」「なになになに気になるわね」顔を近づける来子「お父さんにプレゼント買おうと思って。」「偉いわね、私なんか一回もあげたことなんかないわよ(笑)」2人は自転車に乗ってイオンへ向かっていった。
月梨「えーとっこれプレゼントでお願いします。」店員「はい。こちらで宜しいですか。」「うーんこっちで。」月梨は2種類の包みから1枚を選んだ。「いい柄じゃん、お父さん喜ぶわよ」「だぁといいんだけど」照れながら笑う月梨の手にはネクタイの入った袋を持っている。「どこからそんなお金出てきたのよ」「お年玉よ、コツコツ貯めてたの」「あんたらしいわね。」月梨は細見の体型をしていたが、来子はわりとがっちりとしていて、スポーツ万能タイプの表情顔である。陸上をやっているせいか全身が焼けている。周りからは月梨の美白が際立って見える。「あら、もう17時ね。」来子は時計の針を見た。中学生にしては遅い時間である。「ごめんね、長引かせちゃって」「いいのよ、親孝行見習うわ。」2人さ自転車に乗ってイオンから帰っていった。「私今日はこっちだから、じゃね。」「塾?」「うっうん。」月梨はいつもと違う道を選んだ。「じゃね。」「うん、今日はありがとう。」

月梨は県立伊勢病院に到着した。ガラガラガラッ玄関が空き、月梨は心臓外科まで行った。
看護婦A「あっらヨミちゃんどしたの。こんな時間に?」「先生にプレゼント買ってきたの。」看護婦B「あらヨミちゃん偉いわね。先生喜ぶわよ。」看護婦C「私達も今から先生の誕生日プレゼント渡そうとしてたのよ。」「なら一緒にお願いします。」看護婦長「そうと決まったら始めましょ。」この日県立伊勢病院の心臓外科は17時で閉まっていた。 
「ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデーディア藪先生、ハッピバースデーディトゥーユー」4人は声を、合わせて藪のいる病室へ入っていった。藪「んっ!?」藪は椅子に座り、驚いた様子でケーキを持った4人達を見た。その顔に掛かっている眼鏡は、本を読んでいたのか、老眼鏡のように鼻上まで落ちていた。「藪先生、55歳の誕生日おめでとうございます!」4人が口をそろえるように言う。看護婦長「3月9日、今日は藪先生の誕生日でしょ!」藪「ん?あっあぁ(笑)」藪は喜びを隠すように笑っている。 藪「ヨミちゃんまで!」「はい、先生!いつもありがとうございますm(_ _)m」月梨はゆっくりとお辞儀をした後に、藪に向かってニコッと笑った。看護婦A「あらっ藪先生照れちゃって!」みんながいっせいに笑っている。藪「みんな本当にありがとね、ヨミちゃんありがとう。」看護師B「先生早く開けたら?気になるんでしょ?」藪「あっなんだろうね?開けていい?」「勿論です。」月梨は答える。看護師C「あらいいネクタイね、先生にピッタリじゃない」藪「紺色のネクタイ欲しかったんだよ。ありがとうヨミちゃん、大切に使うよ。」藪のその目には薄っすら涙を浮かべていた。看護師長「先生良かったわね。ヨミちゃんから誕生日までもらっちゃって。明日からまた頑張って下さいね。」4人は藪を囲って笑っていた。とても幸せそうな藪は仕事の事を忘れて誕生日を満喫するかのように皆と笑いながら話をしていた。

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