黒と白と階段
時と砂と新聞 2
「だから、ラストチャンスなんだよ」
アツシは、強い口調で言った。
ラストチャンスという単語が、タイチの頭の中で回る。
「この文化祭の準備中に女子と仲良くなる!」
まるで教師のようにアツシは言う。
なんだったらテストに出るのかもしれない。
タイチは、今すぐにでも赤線を引きたくなった。
「幸い、俺たち二組と高塚クミの四組は協同作業だ」
アツシがその名前を出したので、タイチは慌ててアツシの口に手をやった。
五時間目が終わって今は十分の休憩時間だ。
残すところホームルームだけだからか、クラスメイトは大半教室から出ていない。
そんな中で高塚クミの名前を聞かれたら大変だ。
「バカ、慌てんなよ。名前出しただけだろ」
アツシはタイチを振り払い、肩を押してタイチを椅子へと戻す。
「名前出すなよ、恥ずかしいだろ」
「名前出したからって、お前が高塚の事を好きだなんて気づくかよ。エスパーじゃあるまいし」
「バカ、だから言うなって。アツシは声がでかいんだよ!」
そう言うタイチの声の方が大きくなって、周りのクラスメイト達が二人の方に振り向いた。
バカ、と言ってアツシはタイチの頭を叩いた。
周りに何でもないんだとアツシはアピールして、クラスメイト達は各々の会話に戻っていった。
「お前は敏感過ぎだよ、ウブ過ぎる、シャイ過ぎる。清純派気取りか硬派な番長か?」
タイチは清純派なんて気取ったこともないし、硬派でも番長でもない。
第一腕っぷしも強くないし、ケンカを売られれば返品して逃げたいタチだ。
背は低くクラスの列の前から数えた方が早く、身体も頼りないぐらい細い。
ウブとかシャイとか言われれば反論はできない、高塚クミの話になればつい顔が赤くなる。
「ピ、ピュアなんだよっ」
「必死に訂正する言葉かよ、それ」
抵抗むなしくタイチは口を閉じた。
自分の頬が紅潮してるのがわかった。
自分の嫌いな部分、第一位だ。
よくアツシや他の友達にからかわれるからだ。
タイチはアツシと顔を合わせないようにした。
またからかわれたくはない。
アツシはそんなタイチの肩に手を置いた。
「いいか、タイチ。もう一回言うぞ」
アツシはタイチにだけ聞こえるように小声で言った。
「そんなに高塚クミが好きなら、これがラストチャンスだって頑張れ」
アツシはタイチの両肩を二度叩いた。
勉強について教師に励まされた時にアツシが受けた大人の励まし方を真似てみた。
「俺、頑張るよ」
何だか弟みたいだな、とアツシは思ったが決意した友人を嬉しくも思った。
休憩時間の終わりを告げる予鈴が鳴る。
いいタイミングだとアツシは思い、もう一度タイチの肩を二回叩いて自分の席に戻っていった。
担任の教師が教室に入ってきて、ホームルームが始まった。
特に大したことのない連絡事項と文化祭準備の注意事項が今日のホームルームの内容だったが
タイチの頭の中は、アツシのせいでラストチャンスという単語と放課後に会う高塚クミのことでいっぱいだった。
タイチもクミも音響係だ。
クラス毎に男子一人女子一人選ばれて、二組はタイチと宇野《うの》カスミが、四組はクミと上牧《かんまき》ワタルが選ばれた。
三年生になって初めてクラスが同じになった宇野カスミとは、あまり話したことがなくタイチは気まずい思いをしていたが
四組との協同作業が決まった時にクミが同じ音響係だと知って、宇野との気まずさはどうでもよくなった。
幸い、宇野カスミと上牧ワタルは修学旅行後急増したカップルの一組でタイチがクミと話すチャンスに余計な邪魔は入らなかった。
「このシーン、どの曲がいいと思う?」
「お、俺?」
「そうだよ、射場君しかいないじゃない」
慌てるタイチにクミは笑って候補となってる何枚かのCDを指差している。
確かに今、教室には音響係はタイチとクミしかいない。
放課後になり、生徒達はそれぞれ担当の係で自主的に打ち合わせをしている。
タイチ達音響係もその類を外れず、三年四組の教室に集まったのだが三十分も経たずして宇野と上牧は二人に任せて先に帰った。
タイチとクミはもちろん文句を言ったが、音響係で集まった当初からの事なのですでに諦めがついていた。
タイチもクミも貧乏くじを引くのには慣れっこだった。
第一タイチにとってはさほど貧乏くじではない。
むしろ、高塚クミと二人きりになれる最高のくじだ。
机を二つ向き合わせて、その上に音響用のCDが置いてある。
最近のバンドやらアイドルやらのCDや、完全に音響用の鳥の鳴き声などが入ったCD、映画のサウンドトラック等種類は豊富だ。
バンドやアイドルのCDは、宇野と上牧がただ自分の趣味で持ってきただけのCDで劇の内容とは合ってない気がした。
多分あの二人は劇の台本すらちゃんと読んでないのかもしれない。
そう思うとタイチは何だか無性に腹が立った。
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