魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ

参(まいり)

79話 聖女をやめた先は魔王でした


「魔王、魔物の大群を率いて暴走した精霊を倒す、ねえ……」

 結局、私は魔王のままらしい。聖女という言葉が消えただけマシか。内容は概ねどの記事も好意的に書かれているから、うまいこといった結果なのだろう。
 
「イリニ」
「エフィ、終わったの?」
「ああ」

 大方纏まったところでシコフォーナクセー王城に戻り、今はその中庭でティータイムだ。残務処理に追われたエフィが一息につきにこちらにやってきた。側にいるマリッサが無表情でお茶をだす。

「マリッサ、ありがとう」
「……」

 エフィが私を庇って致命傷を負ってからは少し態度が軟化した。見直したと言ってたから、会話ももうすぐしてくれるかな。なんだか悔しそうな感じなのが気になるのだけど、アステリが大丈夫だと言っていたから問題ないだろう。

「そろそろ目処がつきそうだ」

 緊急措置でなんでもできるようにしてたものの、後始末はそこそこの仕事量だ。パノキカトの方が大変だろうけど、三国間跨がったのもあり外交含めてばたばたしている。
 私もできる限りで手伝いはしたけど、エフィが私にあまり仕事を振らなかった。他の人より少ない気がしたけど、そこはもうエフィに任せた。

「イリニ、その……今日の夜、時間をもらえないか?」
「ん? いいよ」
「まだ正式には出来ないから、せめて君と祝いたい」

 正式に聖女を脱したこと、パノキカトを救えたことに対してだ。
 パノキカトが落ち着かない限りは三国開催での復興祝賀パーティーはできない。でもその前にすぐにエフィは祝いたいということだった。

「うん、分かった」
「時間になったら迎えにいく」
「はーい」

 嬉しそうに目を細めて立ち上がる。夜の為に残りの仕事を終わらせるようだ。立ち上がり私を見下ろすエフィが頭を撫で屈んだ。旋毛に感触……これはまさか。

「ちょ、」
「後で」

 颯爽と去っていくのはいいけど、最初の頃と違って随分触れてくるようになった。最初はハグだけだったくせに。

「ぐぐぐ」

 傍にいるマリッサが無表情のまま拳を固く握って震えていた。


* * *


 夕餉の時間も現れなかったエフィが私が借りてる客間の扉を叩く。そんなに遅い時間でもなかった。
 けど連れ出されると思ってなかった。
 途中までマリッサがついてきたけど、庭に出たあたりでエフィがその先を私と二人でとお願いする。
 暫しの無言のち、私がお願いと言って無言で頷き下がっていった。未婚の男女が二人で夜出歩くってよくないのは分かってる。後で怒られよう。

「ここだ」
「温室?」

 ネックレスと同じで御祖母さまから賜ったものらしい。想像以上に広くて大きい。小さめの植物園でもできそうな広さだった。

「とは言っても庭師に任せきりだな」

 苦笑する。日々忙しい身のエフィがこの広さの温室の管理は難しいだろう。管理を任せている庭師が丁寧に仕事をしているのが見てとれた。

「気に入った?」
「うん、綺麗」
「最後になるなら、イリニと過ごしたいと思って」
「最後?」

 花に目を向けていたのをエフィに戻すと少し緊張が見えた。
 最後という言葉が気になったけど、そこに特段説明はないまま、さらに奥に案内される。
 元々置かれているのかソファとテーブル、その上に軽食にお酒まで用意されている。エフィったらここまで準備したの。

「座って」

 エフィ手ずからお酒をついでくれる。用意されたものはどれも美味しかった。夕餉終わってそこまで時間が経ってないのに、美味しすぎてうっかり食べ過ぎてる。
 なんだかとても悪いことしてるみたいだった。夜のつまみ食いどころか、どか食いになってる。それでもエフィは同じようにお酒を一緒に嗜みながら嬉しそうに目を細めた。

「気に入ったか」
「うん」
「良かった」

 お酒はそろそろ抑えておかないとかな。朝ちゅんのくだりもあったし。幸いお酒は軽めのしかないし、アルコール以外も用意してくれてたから助かる。まったくの素面でいられるは大事ね。
 エフィは元々お酒が強いのか、直近の朝ちゅんでも酔ってなかったようだった。だからか今もまったく酔っている感じはしない。

「イリニ」
「なに?」

 お酒のグラスを置いて、膝の上に自身の両手を絡めて置いた。落ち着かないのか、指先をたまにもぞもぞ動かしてる。

「聖女が廃止になったな」
「うん」
「君は国を救った」

 それのおめでとう回ではあるけど、正直私だけが国を救ったわけじゃない。国や人を守りたい皆が救った。それにエフィが一緒にやってくれた。それをエフィに伝える。

「辛くないか?」

 今でもエフィは私の負担を気にしてくれる。首を横に振った。エフィが背負うと言ってくれたから、どこにも負担はない。

「イリニ」

 私を呼び直したエフィに緊張と期待の色が見えて、何を言うのか分かった。

「話を」
「うん」

 一度きゅっと唇に力を入れた後、あの時と同じ言葉が下りてきた。

「イリニが好きだ」

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