魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ

参(まいり)

73話 嫌な予感


「エフィ! イリニ!」
「アステリ」
「お前らの気配消えたからやべーのかと思って」

 元の場所に戻ってきた。喧噪の中、アステリが私たちの側に来る。
 するとアステリは何があったか私の中身を見たらしく、精霊王かと囁いた。話が早くて助かる。

「精霊王のお手伝いだね」
「あー、けどよ」

 それじゃお前が全部背負うじゃねーかと後頭部を雑にかきまぜる。
 一人じゃないよと伝えて、隣のエフィの腕に触れた。

「エフィがいる」
「イリニ」

 赤紫の双眸が驚きに開いた。
 すっと息を吸って、ぐっと力を入れる。大丈夫、言える私になったはずだ。

「助けてくれる?」

 見上げ、お願いをすれば、少しずつ水気を帯びていく瞳が蕩けながら細められる。

「勿論」
「それにアステリもカロもいる。魔物たちも。三国揃って、同じようにあれをどうにかしようと考えてる」

 だから決して一人じゃない。
 私の主張にアステリが笑った。やっとそこまで言えるようになったかと囁く。
 何を言わなくても皆助けてくれる。けど、きちんと自分で言葉でお願いができるかできないかでは全然違う気がした。

「現状はどうなってるの?」
「相変わらず物理しかきかねーな。魔物なら対応可ってんで進行を食い止めてる」

 騎士や魔法使いは避難誘導にまわり、思いの外早くに住民の避難が済んだようだった。
 パノキカトの王都という広範囲の避難をこんなに早くに済ませるなんて仕事早い。三国協力するだけでここまで危機を回避できるの。

「もう少し遠くに避難誘導できる?」
「分かった。人回す」

 俺つえええモードを使うなら、なるたけ遠くへの避難をお願いしたい。
 本当は王都を出てほしいところだけど、その避難が完了するまで待っていたら、王城に到達される危険がある。なら最低限の避難範囲で済ませ、私の力をなるたけ抑えてやるしかない。

「あと海の方に向かわせた魔物を戻したい」
「ならこちらでどうにかしよう」
「フェンリル」

 魔物同士でやり取りしてもらった方がやりやすい。こちらに現れたフェンリルに任せ、海向こうの他国の相手はアネシスの魔法使いたちを向かわせることになった。

「海の方はパノキカトも動いた。王陛下が自ら交渉しにいく。シコフォーナクセーはアネシス、エクセロスレヴォは王太子殿下がそれぞれ王の代理として対応する。あちらも交渉に応じる返答があった。少しは時間が稼げるな」
「三国出てくれば、あちらもそこまで強気には出れないだろうな」

 そこまで整えば、私は自分の俺つえええモードに集中できそう。
 今のサラマンダーは無差別全方位で攻撃をしているから、この攻撃の網目を抜けることと押さえ込むことを同時に成さないといけない。魔物たちが押さえ込んでいる間に潜り抜けて一撃必殺な感じかな。勿論、魔物たちも巻き込まないようにして。

「イリニ、心配するな」
「フェンリル?」
「我々は精霊に近い存在だ。融通もきく」

 心配するなと言う。私が魔物を巻き込まないようにと思ったことを分かっているらしい。思い切りやれと言われたようなものだ。

「そうだね。そっちは任せる」
「ああ」

 途端、大きな空気振動と細かい縦揺れがきた。サラマンダーが暴れているのが見える。

「やべーぞ」
「イリニ」

 アステリの言葉通り、咆哮と共にサラマンダーが全身に炎を纏い、次にそれがいくつもの炎の矢となって飛んできた。
 あれはリーサへの想いと聖女制度への罪悪感、怒りと孤独が入りまじった姿だ。聖女をしてた頃の私と同じ、一人で無理して立ち続けているだけの悲しいという感情が見える。
 矢の嵐をなんとかかわして抜けると、目の前にさらに炎の矢が見えた。
 そんなにたくさんの矢が来てるなんて想定外だ。

「イリニ!」

 さっきよりも大量の矢の中、エフィが剣で防いでくれる。
 アステリが舌打ちをして、先に行くと言って転移で消えた。フェンリルたちも役目の為に駆けていく。
 私はエフィと一緒にサラマンダーにもう少し近づかないといけない。

「エフィ、ありがと」
「ああ」

 視線だけこちらに寄越したエフィが目を細める。その身体越し、さらに飛んでくる炎の矢が見えた。

「エフィ!」
「っ!」

 続けて攻撃してくるなんてどれだけ力を貰っていったの。精霊王の元へ行く前よりもさらに攻撃的になっていた。暴走だけがどんどん先に進んでいる。
 エフィが大量の矢を剣で叩き落していく中、不明確な予感が頭をよぎった。
 とても嫌な感じがする。

「エフィ、だめ」
「っ!」

 いくらか弾いた時に意図したものなのか、炎の矢がエフィの剣を浮かせてしまう。
 そこに後からきた矢がエフィの身体を貫いた。

「エフィ!」 

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