魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ

参(まいり)

71話 貴方、リーサが好きだったの?


 暗い面持ちで自信なさそうに立つのは、ずっと力を返したくて会いたかった人だ。

「お久しぶりです」
「……」
「あれはサラマンダーであってます?」

 こくりと頷き、気まずそうに返した。

「ごめん」
「私が冷遇されたから黙っていられなかったんですか?」

 エフィたちの推測だ。私が元婚約者から心無い言葉をぶつけられ理不尽な態度をとられた時に地震が起きる。
 単刀直入にきけば精霊王は再び頷いた。

「よければ話聞きますよ?」

 暫くの沈黙の後、精霊王は語る。
 聖女はいつだってパノキカトの王族に虐げられていた。私が受けていた責務は歴代延々と続いていて、それに我慢できなくなったのが私が聖女をしていた時。元婚約者に殺された二回だ。

「リーサを聖女にしなければ、こんな歴史にならなかった。リーサだって聖女でなければ、あんな死に方をしなかったのに」

 魔物と人との和を取り成すために尽力したリーサは当時の夫に人を裏切った者として殺された。

「リーサ」
「イリニも知ってるだろ? 私はあの終わり方に納得している」

 リーサは私と違って、その時全てを受け入れた。精霊王は苦しそうに呻いてリーサを見やる。

「だから何も出来なかった……少しでも後悔してくれれば、イリニみたく戻せたのに」

 死を受け入れた人間は死に戻り対象外ってことか。
 私は元婚約者の手にかかったあの時、なんでとしか思えなかったもの。

「イリニはリーサだから、今度こそ助けたかったのに。この国は次元が開いてるから、助けになる前世も呼べたし今度こそはって」

 パノキカトは精霊王とやり取りできる特殊な土地だ。彼にとってやりやすい環境だったのだろう。
 私が望む聖女をやめて穏やかな老後を過ごす未来の為に、精霊王は多くの前世から敢えてリーサと聖を選んで呼んだわけか。精霊王の考える成功した未来、私が生きる未来の為にここまでしているとは考えもしなかった。
 にしてもこの人、私を助ける行為をリーサを救うことに繋げている。聖女の歴史への後悔もリーサが基点、リーサの死に方を救えなかったと言って悔やんでいる。どこをとってもリーサが絡んでいた。

「貴方、リーサが好きだったの?」

 私の言葉に精霊王の顔に朱がまじる。分かりやすい。
 リーサに視線を送れば初耳だなと驚いていた。

「まあ好きかどうかはこの際置いとくね。私を助けたいからサラマンダー出したは分かったけど、なんであんな怪獣映画みたくなってるの?」
「ぼ、暴走してしまって」

 助けたい気持ちや、パノキカトに対する怒り、果ては過去のリーサの死に関する悲しみですら含めて力を与えすぎた。結果、今では制止がきかなくなり、精霊王でも止めることはできない。

「え、止められないって……嘘でしょ」
「私の感情をうつしすぎて力をつけすぎた。今は繋がりを切られてしまって」

 もう王の力一つでサラマンダーを鎮めることができない。精霊王の感情の暴走がサラマンダーに力を与えすぎて、独立した個体となって勝手に進み始めてしまった。
 まさか精霊王がここまで感情に引っ張られて暴走するタイプだったなんて、と思ったところにひじりがゆっくりと息を吐いた。

「人間みたいですね」

 精霊なのに人に近すぎると私も考えた。感情の機微も行動の理由も。

「それは私と一緒にいたせいだな」

 リーサが苦笑した。
 聖が過剰に反応して口許を手で抑え悲鳴をこらえている。

「かつて精霊王が王として確立する為にリーサと共に奮闘していた時間が彼に感情を与えた……胸熱すぎるっ」
「聖、落ち着こう?」

 当たらずといえども遠からずだろうなあ。人の感情が惨事をもたらすなんてテンプレだもんね。

「君はずっと一人王として頑張ってきたからな」
「っ」

 リーサが精霊王の手をとって困ったように微笑む。
 名の通り、全ての精霊をまとめる王という存在で、リーサと共にいた頃は精霊を束ねる為に尽力していた。
 リーサが亡くなってから、ずっと彼は一人で王という役割をこなしてきたことになる。その姿を想像したら、昔の自分と重なってしまった。
 感情のある精霊王が私たち人の寿命よりも遥かに長く王という立場を担ってきたということは、それだけ孤独の時間が長かったことになる。

「独りは辛いよ」
「イリニ?」

 かつての私と同じだった。
 独りでどうにかしようとして、踏ん張って我慢している。それではいつか崩れてしまう。私はたまたま死に戻りがあったから気づけたけど、精霊王は気づけないまま長い時間を過ごしていた。

「なら私が君の側にいよう」
「リーサ?」
「君も王としてやることが山のようにあるだろう? 私でも少しは役に立てるさ」
「リーサ……」
「それなんですけど~」
「聖?」

 リーサと精霊王とのやり取りに悶絶していた聖が提案がと片手をあげた。

「仕事分散すればよいのでは?」
「はい?」
「繋がりさえあれば、他の精霊の暴走は止められるんですよね? というかそもそも未然に防げますよね?」

 聖の言わんとすることにパチパチ大きく瞬きをしつつも、精霊王ははっきり縦に首を振った。今回が特殊なだけで、普段なら精霊は王の制御下における。

「四大元素なら後三体いますよね? ざっくり世界を四分割して、四匹? の精霊にお任せしては?」

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