魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ

参(まいり)

69話 俺がやりたいから、イリニを守る


 次にドラゴンを見上げる。ドラゴンは分かっていたようで、穏やかな面持ちのまま驚くことはなかった。

「私達に気を遣わなくていい」
「この状況は三国が協力しても打破するには難しいと考えている」

 だから助けて欲しい。
 エフィの言葉にドラゴンが目を細めた。少し嬉しそうにも見える。

「いいだろう」
「感謝する」
「いつでも力になるつもりだったさ」

 なあフェンリルとドラゴンが言えば、どこに控えていたのかフェンリルが出てきて、こちらもしっかり頷いた。それにエフィがほっと肩を撫で下ろす。

「エクセロスレヴォの国境武力と折り合いをつけた。助力してくれると」
「ああ、助かる」

 フェンリルったらいつの間に。どうやらエクセロスレヴォには伝手があったらしい。
 後はシコフォーナクセー側から正式な要請をエクセロスレヴォにすればクリアだ。
 本来はパノキカトがするべき案件だけど、緊急性が高い為シコフォーナクセーが間を取り持つ形にしてうまくおさめる気らしい。この短時間でよく考えてる。

「……イリニ、本当にいいのか?」
「私の許可は必要ないよ?」

 私だって捨てた国とはいえ、滅茶苦茶になるのは心苦しい。そこに住む民に罪はないし、元婚約者や聖女の件がなければ良い国だし愛着があるもの。
 エフィが真剣な面持ちでいる横からアステリが口を出した。

「魔王に許可はふつーだろ」
「魔王設定いかさないでよ」

 別に魔王でもいいけど、内々で盛り上がる必要ないでしょ。
 あー新聞とか考えると絵になるかも。魔王、パノキカトで蛇と戦う的な。なんだか規模が怪獣映画みたいになってきた。

「ならばイリニに統率してもらうか」
「え、ドラゴン、ちょっと?」
「ああ、そうするつもりだ」
「エフィ?」
「お前、まずはイリニに説明しろよ」

 アステリに言われ、頷いた後詳しく話してくれる。
 パノキカトにとって蛇の精霊は私が起こした厄災だ。それを私が魔物を伴って打ち砕けば、聖女がパノキカトを恨んで滅ぼそうとしているという疑念が晴れる。自作自演と言われる可能性もあるが、それは少数とみてエフィの方で後日処理でどうとでもなるレベルと予測してるらしい。
 そこまで気を遣ってくれるなんて。とっくの昔に悪役でもいいと思っていた私をあっさり救い上げようとする。

「イリニを利用しているようで申し訳ないんだが」
「私は構わないよ。というか、あれなら今の私のモードで一発じゃない?」

 俺つえええモードでも魔王モードでも倒せると思う。
 そういう一瞬で終わるタイプは最近のバトルものではテンプレのはずだ。

「お前、街中でぶっぱなしたらパノキカトなくなるだろーが」
「手加減するよ?」
「手加減してエフィがあんなになるんだぞ?」

 一番最初の真っ黒になっちゃったやつね。最近のことなのに妙に懐かしく感じる。

「お前は立ってるだけで魔物に任せておけ」
「そう?」

 魔王が魔物従えて現れたら恐怖だろうなとも思うけど、今はそこを考えてる場合じゃないか。子供のトラウマになっても仕方ない、そのあたりは諦めよう。
 俺つえええで一発退場でもなく、総力で殲滅戦の方かなあ。そっちもテンプレっちゃテンプレかな?

「エフィ」
「ああ」

 王城側から連絡があったのか、カロが嬉しそうにエフィを呼ぶ。ほぼ予測した通りの回答だった。

「緊急措置で武力介入の許可が三国間で出たよ~。パノキカト救済の為で通った」
「カロ、よくやった」

 このスピード感たら仕事できすぎでしょ。元婚約者は対処できないだろうから、パノキカトでは王陛下自ら動いたのかな。ともあれ、これで堂々と動けるわけか。

「イリニ、いいか?」
「うん」
「俺が君の側にいて守るから」
「大丈夫だよ?」

 この通り魔王なもので、と肩をあげて見せてもエフィは至極真面目だった。

「俺がやりたいから、イリニを守る」

 嬉しいことを言ってくれるんだから。そんなはっきり言われると恥ずかしいし、あまりに真っ直ぐ見てくるものだから目を逸らしてしまった。

「嫌か?」
「……ううん、嫌じゃない」

 エフィの直轄の騎士団はカロに任せて、エフィ自身は私と一緒にいる。
 確かに魔王と魔物の側にシコフォーナクセーの人間がいれば、敵という認識に至るまで迷いが出る可能性がある。その迷っている僅かな時間に蛇を倒してしまえばいい。
 それ以前に純粋に一人でどうにかしなきゃいけない感が薄まるだけで私は嬉しいと思っているのだから不思議ね。

「あー、いちゃついてるとこわりーんだが」
「っ!」
「い、いちゃついてなんか!」
「へーへー」

 アステリってば相変わらず私たちのことニヤニヤ笑いながら見てからかってくる。
 別にラッキースケベで密着してるとかじゃないんだし、いちゃついてるとは違う気もするけど敢えて言わないことにした。これ以上つつかれたくないし。

「よし」

 すぐにすっと顔つきを変えて、行けるかと問われた。
 私も引き締めて、しっかり頷く。やるべき時だもの。きちんとやるわ。

「魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く