魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ

参(まいり)

64話 パリピバーベキュー


 エフィが珍しく大きな声を上げ、回廊によく響いた。幸い誰も来てないけど、このまま話を続けていればいつ誰が通るかも分からない。
 念の為エフィの腕に自分の腕を絡ませると、まだ感情おさまりきらないエフィが私を見る。納得がいかないという顔だ。このままだとエフィが元婚約者を殴りかねない。それはさすがにだめね。
 瞳を閉じる。
 いつになったら理解するのかは分からないけど、一応会話というものは形だけでもしておくべきかな。

「お断りだと言ったはずです」
「は?」
「なんで貴方の一存で私が死ぬのか理解できません」
「なんだと」
「というか、私にかまってないでピラズモス男爵令嬢のとこへさっさと戻ったらどうです」
「貴様」

 元婚約者が身構えた。手出してくるの?
 私もエフィも規格外だから余裕で防げるだろうけど、問題にしたくない。だからギリギリのところで我慢してあげてると言っていい。
 そう思った途端、足元がずんと大きく突き上げられた。

「!」
「なん、」
「きゃっ」

 縦に一度揺れただけ。
 また地震だ。それ以上揺れないからまあいいとしても、最後に聞こえた可愛いらしい声を探すと、元婚約者の向こうからこちらに駆け寄る女性の姿が見えた。

「バシラス!」
「リズ!」
「ピラズモス男爵令嬢」

 よし、いいタイミングだ。元婚約者押し付けてさよならするチャンスが来た。

「リズ、待っていろと」
「どうしても気になって……イリニさんとご一緒だったのですか?」
「ゾンダースタイン王太子殿下が直々にご挨拶をと我々に声をかけて下さった」

 エフィがピラズモス男爵令嬢に語りかける。あれだけ怒り心頭だったのに、今はとても冷静にこの場を収めようとしてくれていた。エフィのこういうとこはすごいと常々思う。

「まあ。それなら私も一緒に伺いましたのに」
「リズ、それは」
「まー、そういうわけだから、ピラズモス男爵令嬢、後はよろしく」
「え? あ、はい」
「いこ、エフィ」
「な、」
「それではさようなら、ゾンダースタイン王太子殿下。こちらで私たちは失礼します」

 そうしてエフィに腕を通したまま、彼らに背を向ける。
 ピラズモス男爵令嬢がいる手前、動けないのか元婚約者が開きかけた口を閉じて不服そうに唸った。その後、心配そうに元婚約者に触れるピラズモス男爵令嬢を見て、すぐに手を取り会場の方へ向かっていく。
 歩きながらこっそり後ろを確認していた私はやっと前を向いて歩けた。
 ほっと肩の力が抜け、一息つく。

「……すまなかった」
「なにが?」
「感情的になった」

 気まずそうに前を向いたまま歩くエフィが可愛くて笑ってしまう。

「嬉しかったよ」
「イリニ?」
「エフィが庇ってくれて」
「……」
「ありがとね」

 見上げて笑うとエフィが何かを堪えたように眉根を寄せた。あいてる手を口元に添えて反則だと囁いた。

* * *

 お呼び出し指定の場所は王陛下が主に使う私用の庭らしい。人避けもして私たちしか呼ばないあたり、パリピで来るのは明白だった。
 挙げ句庭にいく手前で着替えまで用意されてたし。コットンパーカーにパンツをだされてなにやるか悟った。

「いっちゃあああん!」

 うぇーい! と手を上げるので、こちらも合わせて手を上げる。
 両手にそれぞれ王陛下と王妃殿下の手が合わされパチンといい音がなった。

「今日はこれ!」
「焚き火ですか」
「と! バーベ」
「キュー!」

 二人とも楽しそうだ。
 そしてこの短期間でよく作ってくれた技術屋さんにお礼の手紙を書こう。

「まあ服変えた時点で分かってたと言いますか」

 ドレスだと燃えたり穴あく危険があるし、焚き火の匂いもつくしね。そうしたとこに配慮して服を用意するあたり、向こうの世界で二人は割ときっちりしたパリピに知り合ったのかもしれない。

「肉焼こ! 肉!」
「いいね~」
「イリニ、これは」
「陛下たちが言ってた通り、バーベキューだよ」

 これがとバーベキューコンロをしげしげと眺めるエフィに、パリピがきちんと仕組みについて教えていた。パリピのノリで技術の仕組みを教えるものじゃないと思うけど、王陛下と王子殿下の国内技術と零細企業の話になるからよしとしよう。

「お酒!」
「かんぱーい!」
「うぇーい!」

 両陛下はビール、私たちはハイボールで乾杯だった。
 二人しかパリピいないのに随分な盛り上がりを見せている。どうやらバーベキュー後は花火もあるらしい。この国に花火作る文化あったっけ?

「いっちゃん見て見てー!」
「え、それ、え?」

 いえー言いながらこちらにガラガラ持ってきたのは明らかにモニタとタッチパネルがついた音声機器だ。見たことある、というかひじりもよく行ってた。

「カ・ラ・オ・ケ!」
「嘘でしょ」
「いっちゃん驚きすぎ、うける」
「いや驚くでしょ?」

 この世界にポップカルチャーな音楽あった? クラシックしか知らない。
 本体だけじゃなくマイクもタンバリンもマラカスもある。なんなの、ここだけ日本だよ。野外だけどカラオケルームにいるよ。

「じゃ一曲!」

 あー選曲が聖と同じ年代だ、遠い目しちゃう。エフィはタンバリン、私はマラカス持たされてシャンシャンやらされる始末だった。陛下の絶叫、社交場の方に漏れてないよね? 心配だよ。

「うぇーい!」
「わー無駄に美声ー」
「もう一曲!」
「うぇーい!」

 夫婦で賄える気がする。私とエフィ必要ない。うぇいうぇいしてんの両陛下だけじゃん。

「あ、いけない肉こげる」
「イリニ、俺がやろう」
「ありがと」

 用意されたお皿にエフィが取り分けてくれる。
 バーベキューコンロには興味があるみたいで中の炭の具合とか色々見てくれるのは助かる限りだ。
 私はひとまずうぇいうぇい二人分のお酒ついどくか。

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