魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ

参(まいり)

42話 デート中のラッキースケベ


「いっちゃん、久しぶりだな!」
「こんにちは、急にすみません」

 技術屋さんの工房に着いた。
 いっちゃん呼びにエフィが「またいっちゃん」と小さく反復していた。いっちゃん呼びになにか思うところがあるのだろうか。言い訳しとこう。

「最初に来た時、素性ばれたくなくて」

 それも早い段階でばれていたけど、エフィに説明はしない。

「最初はなんだとは思ったけどなあ」

 私の立場を鑑みて配慮の上、なかったことにしていたらしい。本当ありがたい話だ。そして私の誤魔化し下手よ。

「いっちゃん」
「こんにちは」

 技術屋さんが次から次へと集まって来る。

「そいやキャンプギアと釣り道具、量産することになった」
「あと、なんだ? ばーべきゅーこんろつーの作ることになったな」
「焚火台もだっけか?」

 パリピが乗り気になったから、許可が即出たらしい。湖の村とコラボして庶民の娯楽としてキャンプを流行らせる為の第一段階がバーベキューと言う。確かにデイキャンからの方が入りやすいし、食事の娯楽面から攻めていくのはいい判断だ。

「いっちゃんの発案だそうだな」
「え?」
「王様に提案したって。新聞にも載ったぞ」

 昨日の今日だよ? さすが王陛下と言うべき? というか私の発案?
 私の印象を良くしようとしてくれたとか、自身の転移経験を知られない為とか理由はいくらか考えられる。シコフォーナクセーは自国の技術面での発展に力を入れているから、異世界の商品という唯一無二の商品を押し出すのも当然だろう。
 にしても、なんて出来る人だろうか。パリピ的に言うなら、しごできがすぎる。

「いっちゃんはこれからどうなるんだ?」
「それなんですけど」

 皆さんのおかげで山の城にいられること、シコフォーナクセー国民になれたことを伝えた。

「ありがとうございます」
「まーおれたち嘆願書書いただけだからな?」
「王陛下が納得するようなものを書いてくれたのは皆さんですし」
「王様守銭奴だから儲かる話もってけば大概オッケーだぜ?」
「まじか」

 パリピちょろいな。

「てかデートなのにこっち寄ってくれたんだよな?」

 すまんなと言われる。デート、なのかな?
 エフィは他の技術屋さんと話してて聞こえてなさそう。パリピたちもデート連呼していた。はたから見れば男女二人が外出していればデートにも見えるか。

「一緒にあの城に住んでるんだろ?」
「ええ、まあ」
「こっちではいっちゃんと第三王子殿下が結婚するって言われてんぜ?」
「王陛下が望まれてましたからねえ」

 山の城に帰れるとなったらどうなるんだろ。あれ、エフィ帰れるんだっけ? 聞いたっけ? パリピのノリが濃すぎて思い出せない。

「そっちよりも魔王になってる方がおれは気になる」
「事実ですね? 魔王してますし」
「最近も雷すごかったし、二個師団倒したとか聞いたぜ? いっちゃん強えな」
「ははは」

 王子同士のやりあいはさすがに揉み消されたのかな? 継承問題にも絡むからそういうとこは慎重に扱われるのはどの国も同じね。丁度よく身代わりに聖女な魔王がいるわけだし使わない手はない。そういうとこでエフィの役に立てれば嬉しいしね。

「第三王子殿下はよく王都をまわってくれてるな」
「エフィが?」
「王都の人間とはほぼ全員と顔合わせてるんじゃねえかな?」
「エフィが……」
「まめだな」

 聖女の利用を天秤にかけて悩む程だ。エフィにとってこの国と民はとても大事だからこそ、こうして自分の足で確かめに来る。

「エフィ、この国が好きなのね」

 王子殿下としては花丸ものだ。

「でもよかったなあ」
「なにがです?」
「いっちゃんが第三王子殿下と一緒になれば安心だろ?」
「え?」
「だな。本命らしい本命ずっといなかったし」
「え?」
「浮いた話もこれっぽちもなかったしな」
「え?」

 なんだか否定できない雰囲気になってる。技術屋さんたちがエフィのことを好きなのが伝わってきて、純粋によかったよかったみたいに言われると結婚の話なんてないんですよとは言えなかった。

「今日一緒に来た時は驚いたけどな?」
「殿下肩の力抜けてていい具合だよな~。顔つきも良くなった」
「へえ?」

 王子殿下として成長しているのか。その内この国を担うなら当然のことなのだろうけど、エフィは立派ね。
 少し距離を感じてしまった。私はそういった堅苦しいことを捨ててきたから、立場のある者としてこなすエフィは純粋にすごいと思う。

「いっちゃん?」
「あ、はい! えと、なんでしょう?」
「いや、んー、そうだなあヤブヘビか?」
「?」

 私が聖女を辞めて隠居生活をすることになったら、エフィには簡単には会えなくなる。王にならなくても、そこに近い立場になるだろうから、シコフォーナクセーに訪問しても気軽に会えない。
 いつかくる別れの日を想像したら、胸の内側が痛くなった。心の準備だけはしておかないといけない。

「イリニ」

 エフィが呼ぶ。一瞬瞳の色が蕩けたものだから、また胸が無駄に締め付けられる。
 気を取り直してエフィに駆け寄った。

「エ、ふぉっ」
「イリニ?!」

 滑ってバランスを崩した。
 それをエフィが助けようと進んで、なぜかエフィの足も滑る。私をなんとか抱き止めたけど、後ろに重心が傾いてしまった。

「くっ」

 すごいエフィ踏ん張った。
 感心しそうになったとこで残念なことにエフィの足に猫が突撃してきた。
 なんでここで猫? 倒れろって? 一緒に倒れるのが運命みたいな?

「いっちゃん?!」
「殿下、御無事で?!」

 私はエフィのおかげで痛くはなかったけど、エフィはお尻から転んだから痛そう。

「っう」
「エフィ、大丈、っ!」
「!」

 抱き止められた形なら、私の手がエフィの胸に触れてるのは仕方ない。揉んでないからセーフだ。
 まあしいていうなら、私の太ももががっつりエフィの足の間に入って、あろうことか件の場所をぐりぐりしちゃったことだ。
 服越しでも触れるものじゃない。

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