魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ

参(まいり)

36話 ラッキースケベのまま行われるすれ違う告白(後半エフィ視点)


 ん?

「……ん?!」

 一気にまくし立てたから壊れたロボットみたいで心配になるけど?
 素っ頓狂な声まで出して焦っているのが分かる。

「エフィ、さっきの」
「べ、別に深い意味はない!」

 明らかに挙動不審だ。私の顔がそんな悪かったのだろうか。

「私もエフィ好きだよ?」
「はい?!」
「じゃなきゃ、とっくに城から追い出してるでしょ」
「…………そっちか」

 どっち?
 首を傾げているとエフィががっくりと肩を落とした。
 おっと、なにかしでかした? というか、絵面がまだ生クリームぶっかかった状態だからね? 加えて赤面するといかがわしいの極みだ。これのどこか私にとってのラッキーだと言うのだろう。

「今の私でも優しいって思えるの?」

 まずはそこからだ。聖女から魔王にキャラ変している。聖女時代しか知らないエフィからしたら魔王になってからの私はラッキースケベをかますセクハラ人間だ。正直優しさの欠片もない。
 エフィは勢いよくがばっと顔を上げて、勿論だとはっきり応えた。

「周囲の魔物も人もよく見てるし、他者の為に怒ったりもしていたな。信書一つ返すにしても、相手の立場や趣向にまで配慮して、書く用紙から言葉まで選んでいるだろう? そもそも信書に返事をする必要だってもうないはずだ。湖の村に配慮して魔物が湖畔に住む民を襲わないよう対話を済ませていたのも知っているし、自分の事を大事にしてるつもりのようで実は、」
「エフィ、私のことすごく見てる」
「うっ」

 ぐぐっと唸って気まずそうにしたけど、咳ばらいを一つして誤魔化した。

「側にいれば気づきもする」
「ふうん?」
「イリニは周囲に気を配りすぎだ。自由に生きてると言う割に、まだ自分の気持ちを言わないだろ? だから俺にだけでも、イリニの気持ちを言ってもらえる関係になれればと思っている」
「え?」
「俺は今のイリニの特別になりたい」
「特別?」
「ああ」

 さっきより緊張がないのは嬉しい。それに私が気兼ねない関係を望んでいたのと同じで、エフィも本音トークを望んでいることも純粋に嬉しかった。
 嬉しくて顔が緩む私に対して、エフィは片眉をぴくりとして苦い顔をする。

「その様子じゃ分かってないな」
「ん?」
「なんでもない」

 肩の力は抜けているのに表情は苦い。私絡みだと分かるけど内容まで教えてくれなかった。

「ひとまずタオル」
「ああ」

 ラッキースケベの被害そのままだと誤解を招くから拭いてもらうことにした。

「お風呂行ってきたら?」
「そうだな」

 べたべたなのと匂いが甘いのは逃れようがないので、お風呂をすすめればエフィは一息ついて了承した。

「お菓子は後でね」
「ああ」

 ゆっくりとした動作でエフィがキッチンから出ようとする。顔はまだ赤い。
 扉前でぴたりと止まって、本当に小さくなにかを囁いた。

「……やっぱり好きだな」
「ん? なに?」
「なんでもない」

 耳を赤くして、エフィはささっとキッチンから出て行った。
 なんだろう、なんて言ったの。そんな悪いことを言った感じではないからいっかな。

「特別かあ」

 ひとまずケーキを作ってフィナーレといこう。


* * *


 十割届いたとは言えない状況だが、それでも進展した気がするから良しだ。
 少しずつでいい。イリニが心開いて、好感を持ってくれれば、告白ができるはずだ。この後はイリニが誤解する原因になったアステリをしめる。許さん。

「エフィ」

 外回廊を歩いているとイリニに呼ばれる。そちらに寄ると随分庭が騒がしくなっていた。
 風呂に入っている間に準備したのだろう。魔物たちが集まって、庭で盛大にお菓子の食べ放題をしていた。ドラゴンとフェンリルなんてわざわざ人型になってまで食べに来ている。

「好きに食べていいよ」
「ああ」
「あとこれ」
「?」

 小さな箱を渡された。

「一人の時に開けてね?」

 ちょっとつんとした様子を見せて渡されたものだから、何が入っているか気になって、少しだけ開けて中身だけ確認してしまった。

「っ」
「お前よかったなー」
「アステリ」
「仲直りできたの? 告白もきちんとできた?」
「カロ」

 箱をしめて両隣をかためてきた友人に溜息を送る。

「なんだよ、告ってねえのかよ」
「誰かさんのせいで、俺には別に本命がいることになってたな?」

 誤解を解くのが大変だったと嫌味を言えば、何も気にしていないアステリが指をさして笑ってきた。

「その流れで本命は君だ! って言えるのに、告れなかったとかどんだけチキンなんだよ」
「そこに笑うのかよ」
「でも少しは良くなったんじゃないの~?」

 さっきのやり取りを見てカロがフォローをいれてくる。
 他に好きな女性がと思い込んだイリニの誤解を解いた時に、贔屓目に見ても彼女は嬉しそうに顔を綻ばせた。
 頬を染めて瞳を伏せがちに、目を細め水気を帯びて、聞こえるか聞こえないかの声音で「そっか、いないのか」と囁く。あんな風に笑い、俺に相手がいないことを嬉しそうにして、加えて今もらったこれを見れば、否応なしに進展してる気がしてならない。

「で、それ何? 見せろよ」
「誰が見せるか」

 並んでいる菓子の中の一つ、ラッキースケベでかけられたクリームを使ったケーキが箱の中に入っていた。
 でも、目の前の大きな机にたくさん並んでいるものとは少し違って、その装飾が豪華になっていた。
 これはもう誤解を招いたことも解消して、以前より確実に俺のことを意識してくれている証じゃないだろうか。ああもう笑いたい。ついでに言うなら、今すぐイリニを抱きしめたい。

「やべえ、ムッツリに拍車がかかってやがる」
「お預けくらったばっかだしねー」
「お前ら」

 するとイリニがこちらにやってきた。
 両隣はにやにやしながら迎えてくる。やめろ、そういう顔をするとイリニに気づかれるだろう。

「三人揃っててちょうどいいわ」
「ん?」
「エフィ、お願いがあって」
「なんだ?」
「シコフォーナクセーの王陛下に謁見したいんだけど」
「……は?」

 イリニは小首を傾げて、再度王に、父に会いたいと言ってきた。

「何故?」
「こっちに住むことを許してもらおうと思って。住民票移動的な」
「え?」

 今になってどうして、と思って言葉が続かなくなる。この国に住んでくれるなら、よりイリニとの未来が明るいのか?
 思い通りに事が進む?
 期待に胸を躍らせていると、次のイリニの言葉に突き落とされた。

「こちらの国の人間になれば、エフィも帰城できるでしょ」
「……はい?」
「だから保護されますってことを言いに行くの」
「そ、それは」

 あーあと両側二人が呆れている。
 そして俺の肩を叩いてどんまいと言ってきた。

「エフィが無理そうなら私からきちんと信書出すよ」
「え、いや、え?」

 イリニがドラゴンに呼ばれ、また後で、と言って去っていった。
 どうして、そうなる?

「なんつーか、お前割と不遇だよな」
「……」
「むしろ始めに戻る的な?」
「やめろ」

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