魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ
22話 男同士の下世話な会話
「マジかよ、うけるわ」
「笑い事かよ」
着替えて信書処理する執務部屋に向かうと扉の前から笑い声が聞こえた。
十中八九、朝のことだと分かる。部屋に入りづらい。
「ラッキースケベって普通逆だぞ? 忍び込んだとしても触られるのは女側なのになー」
「てか役得じゃん。イリニちゃん柔らかそうだし、抱き着いてくるとか最高」
「カロ、イリニで想像すんな」
「うっわ、ちっちぇ」
男性よりは柔らかいだろう。朝はエフィが尋常じゃないぐらいテンパってたから、こっちが逆に冷静になれたけど、こうして話題にされると相当恥ずかしい。はたから話を聞いているだけだと、私セクハラした挙句痴女だ。
「てか手ださねえのかよ」
「だすか」
「格好つけすぎだろ。我慢しただけすげーけど?」
「お前、少し黙れ」
「抱き着いてきたってことは、イリニちゃんの胸堪能できたじゃん。どうだった?」
朝からそういう話はしないでよ。
それこそ昨日の飲み会でして。
「思っていたより大きかった」
応えるなってば。
ますます部屋入れんがな。
「お前本当むっつりだよな」
入りづらい。そういう会話は女子受け悪いんだからしない方がいいと思う。
「エフィはチキンだから手出せないしねえ」
「カロ」
「イリニちゃんにはねーこじらせちゃってるもんねー?」
「少し黙れ」
私はエフィが二人に心開いている雰囲気あるのが羨ましい。
「酔っ払ったって言い訳して胸揉むぐらいしろよ」
「してたまるか」
揉む談義しないでほしい。
エフィしてないみたいだけど、そうなると私の女性としての魅力がないみたいで微妙に切なかった。
君の魅力がすごすぎて理性がきかなかった的な年齢指定話は私にこないらしい。
「酔ったって理由にすりゃ、揉むのなんてタダだろ」
「イリニちゃんがタダで揉ませてくれるなら毎日頼むな~」
「カロ!」
そんな扱いは嫌。あ、いや揉まれるの前提で考えるのはよくないか。
「もういいだろ、いい加減にしろ」
「なんだよ」
「イリニが来るだろうが」
入りづらい。
というか、やっぱりエフィとカロがこの城にいるのが問題な気がする。
せっかく王城という息苦しい人付き合いから逃れることができたのに、どうしてこんなに気まずい思いをしながら過ごさなきゃいけないのよ。
今まで聖女やってて、こんな恥ずかしい思いしたことなかった。
「てかよー……ん? ちょっと待て」
「アステリ?」
あ、と思ったら遅かった。
手を置きかけてたドアノブが遠ざかる。
扉が開けられた。
「イリニ、やっぱりいやがった」
「え?!」
「……」
アステリってば、またお得意の能力の高さから私の気配を察したわね。
扉が完全に開けられて、アステリが腕を組んで呆れた顔して私を見ている。
「どこからだ?」
「……」
「あーほぼ全部か」
「……」
アステリの向こうでゴフッとダメージ受けた音が聞こえたけど無視した。
恥ずかしさと気まずさに部屋に入れない。
「男同士の会話なんてんなもんだぞ?」
「……」
「ヘソ曲げんな」
「だ、誰がへそ、なんて……」
「いいじゃねえか、エフィだってお前の胸揉みたかったんだぞ?」
「アステリ!」
エフィが叫んだ。
「なんだよ、そうだろ」
「そんなわけないだろうが! 誰が揉みたいなんて言った!」
ここにきて女性としての魅力全否定とかなによ。
「イリニ! アステリの言うことは違うからな! 揉みたいなんて俺は言ってない!」
「あー、へー……」
「断じて違うからな!」
「必死すぎウケる」
扉に近づいてくるも、アステリより前に出てこないエフィをまともに見られなかった。
もうやだ、気まずい。
「てかよー、お前のラッキースケベ」
「なに?」
「最近エフィにだけかかってね?」
「え?」
「え?」
エフィと私の声が重なる。
なんで、こんな時にそんな話を。
というか、エフィにだけ? そんなはずは……あ、でも確かに被害者エフィばっかだ。
「酔っ払ってたのは俺もカロも同じだろ? なのにエフィだけイリニの部屋に呼び寄せられてんの、変じゃね?」
「……そんなの」
「あれは部屋に戻る前に顔を洗いに行って、俺だけ時間がずれたからじゃないのか?」
「んー、まー、そうかもしれねえけど?」
「なんなんだよ、お前」
エフィが訝しんだ。
というかアステリ、私の羞恥心煽ってなにが楽しいのよ。
「もう……」
「揉まれてねーからいいだろ?」
「アステリ!」
エフィがアステリの背後で叫んだ。
その話を私に振らないでよ。なかったことにはできないけど恥ずかしすぎる。
「もう……」
「イリニ?」
今日この三人と顔合わせて仕事無理だと思ったら、すぐに発動した。
どうやらすっきり解放感も必要みたい。
「今日はもうやだ! 一人になりたい!」
「お、きたな」
「何が?」
「キャンプしてくる!」
きゃんぷ? とエフィとカロが首を傾げた。
「へー、キャンプモードか」
「準備でき次第出るから!」
「へーへー、お客さんは後日で信書は振り分けだけしとくわ」
「ありがと!」
首を傾げ続けるエフィとカロにアステリが説明をし始めたのを横目に自室に戻った。
荷物をバックパックに詰め込んで服装も整えて徒歩キャンパーの出来上がり。山でソロキャンプといこう。
と、勢いよく扉を開けたら、万全の態勢でエフィが待っていた。
どういうこと、エフィにモードなんてないのに、どうしてキャンパーな姿してるの。
「俺も行く」
「やめてよ」
私は今一人になりたいのに邪魔してくる。誰かがいたらキャンプモードが解消されないかもしれないのに?
「一人になりたいんだけど」
「邪魔しないようにする」
「……」
「護衛だと思ってくれ」
護衛の必要なんてないの知ってる癖に。私強いんだから。
そもそも当事者のエフィと顔合わせるのがきついから、こうして一人になろうとしてるのになんなの。
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