魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ

参(まいり)

20話 ラッキースケベからの暴力女子キャラモード


「やっこさんたち帰ったよ~」

 しばらくしてカロが戻ってきた。魔物にも手を出さずに帰ったらしい。
 エフィが間に入ってくれたからなんとかなったけど、あのままなら間違いなく俺つえええモード入ってた。

「カロ、ありがと」
「いいよ。イリニちゃんのためなら任せて」
「軽いね~……ん?」

 すっと間にエフィが入ってきた。

「エフィ?」
「……」

 ブッハとカロが吹いたから、エフィがおかしいことをしたのは分かるけど、私からは見えない。
 ああ、そっか。

「エフィ、さっきはありがと」
「え?」

 驚いた様子で振り返る。
 でも表情も身体もこわばっているのは仕様かな。友好的に思ってくれているのは分かるけど一線引かれている気がする。

「さっき私がキレそうになった時、間に入ってうまくやってくれたでしょ?」
「ああ、そこか」
「うん」

 おかげで魔王モードも俺つえええモードもおさまって、城に損害なく済んだ。
 落雷のくだりは魔王として名を馳せることになりそうだけど、パノキカトが退くのにいい理由はできたし、エウプロとしても元婚約者に報告しやすいだろう。

「じゃ、戻るか」
「そうだね。地味に事務処理でもするかあ」
「今日は手紙少なかったぞ」
「そ」

 一つ体を伸ばして玉座から城の奥に戻ることにした。
 アステリを筆頭にゆっくり城の奥へ戻ろうとするのについていく。んー、男の人三人も前にいると壁でしかないな。

「あ」

 またしても転ぶ。
 咄嗟に出た手が何かを掴んで、結局踏ん張ることかなわず城の大理石にダイブした。

「え?」
「げ」

 やらかした。
 よりによって、目の前を歩くエフィの下の服を掴んでいたらしい。
 綺麗にずり落ちて素肌が晒されている。
 うん、程よく筋肉のついたすらっときれいな足ね。足なのに妙にすべすべで羨ましい。
 全部脱がさなくてよかった。

「ブハッ」
「え、なに今?」
「うるさいぞ」

 振り返ったアステリとカロがエフィの姿を見て笑う。
 転んでちょうどよかったので、そのまま土下座して謝った。

「大変申し訳ございません」
「いや、その」

 やっぱりパノキカトのことを考えるのはだめか。
 パノキカトから使い捨てと見られていたのが嫌だったのかな? 家族以外は私を聖女というものでしか見ていない。私個人を見てくれることは過去も今もなかった。それを認めてしまうと悲しいし淋しい。

「イリニ」

 肩に手を置かれ軽い力で起こされる。
 あ、やば、エフィ近い。

「エ、フィ」
「……あいつか?」
「ん?」

 声音低く、そのまま引き寄せられた。
 膝立ちからバランスを崩した私はそのままエフィの胸におさまってしまった。

「やめ」
「ラッキースケベだろう? 駄目だ」
「いいってば」

 モードという祝福パワーアップが発動しないとエフィに力で勝てない。逃げようと胸を押せば、逆に回されていた腕の力が強まる。
 上品な香水の匂いがした。

「もういいから」
「駄目だ」
「離して!」
「駄目だ」
「なんでよおおお」

 エフィ越しにアステリとカロが笑っているのが聞こえてより恥ずかしくなる。 
 だめ、やっぱり無理だ。
 ラッキースケベかました相手に抱きしめられるとかおかしいでしょ。
 異性とのお付き合いが冷遇してきた元婚約者ぐらいしかないから、人前で堂々と抱きしめられるシチュエーションに段々恥ずかしさが増して頭がおかしくなってくる。正しい判断ができない。 

「は、離して!」
「え?」
「やば」

 エフィがえらい勢いで吹っ飛んだ。
 ちょっと胸を押したつもりだったのに、時間差で今祝福が発動した。

「ぐっ」

 えらい速さで吹っ飛んだ中、身を捻って壁に打ち付けられるところを足で着地した。
 壁に罅が入る。
 そのままぐらりと落ちて、床に膝をついて息を整えているエフィが見えた。
 側にいたアステリとカロがさらに笑う。

「え、なにあれ? すごいんだけど」
「おま、ここにきて暴力女子キャラモードかよ、うけるわ」
「二人とも黙って!」
「はー、もう笑い止まんねえよ。そんなに恥ずかしかったか」
「暴力女子キャラモードって何?」

 古いラブコメにありがちな、恥ずかしさ極まってつい手を出してしまい、その力が有り得ないほど強い為、ヒーローが吹っ飛んだりする。つまり怪力になっちゃうだけの祝福だ。
 もう……アステリってば、モードのことは説明しなくていいんだって。

「俺つえええといい魔王といい、パワーアップ半端ねえな」
「そんなつもりじゃ」

 俺つえええモードの時はエフィに諦めてほしくてわざと攻撃した。嫌われるのなんてとっくに覚悟の上だ。今回の暴力女子キャラモードは不可抗力で失念していた。だから本当に申し訳ない。

「イリニ」

 エフィがなんてことない顔をして戻ってきた。背景が罅割れた壁とか笑えない。

「エフィ……ごめんね」
「俺は大丈夫だ」

 それよりも君はと問われる。

「ラッキースケベは?」
「え、あ、もうないけど」
「ならいい」

 エフィは何事もなかったかのように城の奥へ戻ろうとする。
 表情にはあまりでないけど、ラッキースケベの度に耳やら目元やらどこかしら赤くするから、エフィも恥ずかしいんだろうなとは思う。
 こうしてエフィがハグしてくれるから、ラッキースケベも何度も複数相手の広範囲で起こることもないわけだし、淋しさ緩和に手伝ってくれるエフィには感謝したいところだけどやっぱり抱きしめられるのは苦手だ。
 魔物相手なら恥ずかしさあまりないのに。

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