魔王と呼ばれる元聖女の祝福はラッキースケベ

参(まいり)

9話 訪問者は隣国の王子殿下


 魔王になってからは訪れる挑戦者はいなかった。そんな中、城の中でぼんやり過ごしていたら、城に住み着いた魔物の一人、ケセランパサランが意気揚々と報告してくれた。

「ニンゲンがきたよ」
「え?」

 来る人間全て拒否をしていた城内に入って来た?
 まさかの訪問者を告げられ、驚いて身体が起きる。訪問者はアステリに魔法で見張ってもらっていて、出禁条件該当は強制送還しているし、そもそも訪問者は激減していたのに、どうして。

「アステリ?!」
「いやー、あいつら俺のダチでさ」
「身内贔屓しないでよ!」

 城に人間はあまりいない。今では賑やかだけど、九割は魔物だ。

「ま、あいつも立場があるから、顔だけ合わせてやってくれって」
「入城オッケーなの、きちんとリストにしてるでしょ。てかドラゴンは? フェンリルは? 何してたの?」
「俺がスルーするよう伝えた。まあ一個師団の兵は随分離れた所に待機で、あいつらだけしか来なかっただけ良心的じゃね?」
「もう……で、友達って?」
「シコフォーナクセー第三王子殿下と、その側近」
「ふうん」

 自国パノキカトから見た北西の隣国シコフォーナクセーは人の技術で発展している国だ。後を継ぐ王子たちも複数いて、その中の三番目の王子兼アステリの友人が来た。
 興味は湧かないけど仕方ない。アステリに言って私の元まで通してあげた。

「失礼する」

 アステリの友人ってことは年が近いのかな?
 男性が二人、騎士だ。エンブレムから団長と副団長なのが分かる。手前にいるのが隣国シコフォーナクセーの第三王子殿下兼騎士団長で、半歩後ろにいるのが側近兼副団長だ。

「イリニ・ナフェリス・アギオス侯爵令嬢、この度は城内入場を許可頂き誠に感謝の」
「堅苦しいのはいいよ」

 その言葉で視線を上げ私を視界に捉えた第三王子殿下は身体を固くする。
 もう何度も見てきた。
 聖女でない私を見て驚きに固まる人々から見れば、今の私は言葉遣いも振舞も服装も聖女ではない。特に見た目である衣装が聖女から掛け離れたパンツスタイルになって、色は黒基調なものだから尚更衝撃があるよう。
 しかも私は玉座に座り足を組んで踏ん反り返っている。巷の魔王という話に沿った形なのに、どうして皆信じられないって顔をするの。

「なら、その言葉に甘え失礼する」

 顔をあげた第三王子殿下の表情はかたい無表情だった。
 動揺を無表情で隠している。
 聖女を期待して裏切られる人間の反応には溜息しか出てこない。

「貴方も"聖女様"がお望みなわけ?」
「え?」

 いい加減、目を覚ませばいいのに。

「もう、貴方の知ってるいい子ちゃんはいないわよ?」
「何、を」
「知ってるでしょ? 私がなんて呼ばれてるか」

 息を飲む目の前の男は、逡巡を見せた後に小さく返した。

「……魔王」

 目の前にいる第三王子殿下も聖女の私が好ましい人間なのだろう。魔王にジョブチェンジが苦痛らしい。苦々しく囁かれる言葉が予想通りで、にんまり唇が弧を描く。さっさと幻滅して帰ってもらおう。
 私の悪役らしい笑顔を見る第三王子殿下は苦しそうに眉根を寄せた。

「なに用かしら?」
「……」
「? ちょっと?」
「……は、すまない。その、いや、」

 我に返り、ぐっと力を入れて私を見上げた。先程の動揺なんてなかったかのように王子の顔になった。自分の役割を果たそうとしている。しっかりしているのね。

「私の名はエフティフィア・アグノス・パネモルフィ。シコフォーナクセー第三王子兼、王都直轄の騎士団の長をしている。今日は国の代表として、貴殿を、保護したく、伺った」
「保護?」

 なにそれ、意味わかんない。

「貴殿の城はシコフォーナクセー領土内に建っている。こちらに管理権限があるかと」
「は?」
「え?」
「三国の国境真上にあるはずなんだけど」
「いや、それはない。こちらで調べ済みだ」

 キッと側に立つアステリに鋭い視線を向ければ肩を上げてシニカルに笑う世界最強の魔法使い。
 こんにゃろ。

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