オールFでも実は本気出したら無敵なんです!!〜美人女神にお願いされたら記憶が無くても異世界だろうが行くしか無い〜

長縄 蓮花

42話 母の愛

 

 改めて状況を整理する。

 フレア達との戦闘でボロボロになっている華姫ことララ・ダスティフォリア。
 ララに抱きしめられて泣いている可愛い女の子は水神様として崇められているアクアリウム。

 戦闘で一ミリも役に立たなかった上に女の子の裸を覗いたこの俺、無適性者ことルークス・アルフレッド。

 キャラが渋滞しすぎているなと思いながら、ひとまずめり込んだ体をなんとか立ち上がらせる。




「――もう! アクアリウムはいつもいつも服の形成変化《クラスチェンジ》忘れるんだから! 女の子なんだからしっかりしないと!」
 いつもボケ担当のララが珍しく説教しているのが見ていておもしろかった。

「はぁぁーーい……」
 人間に説教されてしょんぼりしている水神様なんて聞いたことがないぞ、と思いながら話を進める。



「で、その格好はなんなんですか?」
 さっきまで空を乱舞していた龍が突然可愛い女の子に変身したんだ、当然聞きたくもなる。

「ふっふっふっ。聞きたいかね? ルークス君」
 さっきまであんなに泣いていたのに。
 テキトーに首を縦に振り話の進行を促す。

「僕たちは基本、天龍界って所に住んでるんだけどさー、人界に遊びに行く時にさっきの龍化したままだと流石にみんなをびっくりさせてしまうからねー。だからこうして人間の格好をして溶け込んでいるんだー」

「どう? 可愛いでしょー」


 のほほんと気だるそうに話す空色の髪を持つ少女。確かに可愛い。

 この姿で龍であるのはバレようがないな。


「それはそうと、ルークス君。君はダスティンを助ける事が使命ではないのかなー?」
 ニンマリと笑いながら問いかけてくる。

「それをなんで……」

「あはは! 天龍界は情報が回るのが早いからねー。しかもその注目の人間がペンドラゴン様を使役したってんだから、君はもう立派な有名人だよー」


「で、本題のダスティンの話だけどーー」


「もうやめて、アクアリウム」

 その言葉は、悲痛で諦めを孕んだものであった。


 ――「貴様がこのままだと、ララ・ダスティフォリアは数ヶ月後――死ぬ」――

 ナラスラーバの冷たい忠告が脳内で繰り返される。

 ララは自身に待ち受ける運命を受け入れてしまっているのか?


「でも君このままだとーー」



「おい兄ちゃん! 音がしなくなったから見にきたが、あの悪党どもとバケモンのドラゴンはもう居なくなったんか!? 」

 戦いが終わったのを察知した街のみんなが集まってきていた。
 そうだ。まずは街のみんなに知らせないと。


「はい! 奴らは撤退しました! え、えーとドラゴンももう帰りました!」
 無適性者の俺は何も出来てないけど。


「ええー。僕の紹介もしてほしかったなー」
「アナタの存在は異色過ぎます。今のこの人達に受け入れさせるのは荷が重すぎますって」


「ララちゃん!」
 アリバナさんはララの元に駆け寄り、大粒の涙を流しながら強く抱きしめる。

「良かった……。こんなにボロボロになってまでアンタはあたし達を、この街を守ってくれたんだね。アンタが居なかったらこの街は……」


「ごめんねおばちゃん。あたしのせいでおばちゃん達の家が……」 

 ――むにゅ。


 ララのほっぺがアリバナさんの小さく弱々しい手に掴まれ引き伸ばされる。

「なーに馬鹿な事気にしてんだい! あんたたちが生きていてくれた事。あたし達が生きている事。それだけで十分じゃないかい。家なんかあの馬鹿旦那とまた作ればいいのさ」

「おばちゃん……ありがとう」

 母の愛とでもいうのだろうか。
 二人が抱き合う姿は何故か無性に羨ましく感じ、目を逸らしてしまった。


「あんな奴ら相手によく戦ってくれた! お姉ちゃんアンタ可愛い顔してめちゃくちゃ強ぇーーんだな!」
「あたしもおおきくなったら、おねえちゃんみたいにつよくなりたい!!
「ぼくもぼくも!」
 いつの間にか、ララの周りにはその奮戦を見ていた者達が尊敬の輪を作っていた。


「あたしが戦っても皆が笑ってる……?」
 その輪の中心には笑顔満開のいつものララがいた。




「――君は必要とされているんだよ。ダスティン……」




「兄ちゃんもよくこの街を助けてくれた。この街を代表して感謝の言葉を述べさせてくれぬか」
「はて……こんなめんこい女の子この街におったかいのー?」
 ローフィーさんは突如現れたアクアリウムを不思議そうに眺める。

「どうもお爺ちゃん! えっと僕はねー。ルークス君の……お嫁さんかな♡」

「何馬鹿言ってんですか」


 冷たくあしらいつつ、ちょっと良いなと思う俺であった。



 夜空も白み始め、太陽が砂漠の先から顔を見せようとしていたその時。


「者ども! 動くな! 我々は王立憲兵騎士団の者だ!」

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