オールFでも実は本気出したら無敵なんです!!〜美人女神にお願いされたら記憶が無くても異世界だろうが行くしか無い〜

長縄 蓮花

爆煙からの使者

「ああ、あの悲惨な戦争を引き起こしたのは『華姫』こと、ララ・ダスティフォリア。あいつが全ての憎しみの根源です』


「あいつが僕の家族を殺したんだ!!」


 いきなりの怒声に思わず体が跳ねてしまう。

 殺した……ララが民間人を殺すなんて。

 あのララに限ってそんなことは……




「――!」
「――!」


 その瞬間、今この部屋、この空間、この会話に一番ふさわしくない人物が、ドアをの向こうからひょっこりと現れた。

「ルークス!? フレア!? どーしたのどーしたの。何かで喧嘩しちゃったの?」

 うわー。やっちまった。
 もうそれしか思うことが出来なかった。
 背筋が異常に寒くなる。


 元々寒かった俺たちの部屋だが、時空まで寒さで凍ったかの様にその沈黙は永遠の長さにも感じた。


「――フンッ……。ルークスさん今のあなた方とはまだ剣を交えるつもりはありません。しかし、我々は既に踏み止まれない領域まで来ている事だけはお伝えしときます」

「え? え? どうしたのどうしたの二人とも! 喧嘩したならごめんなさいしないとダメなんだよ!」
 全く状況を理解出来ていないララは困惑しながら俺達の和解を求めている。

 ――パリンッ!!
 俺の顔横スレスレを一輪の白い花が生けてあった花瓶が通り過ぎ、壁に激突して修復不可能を告げる破壊音を響かせた。

「……フレア。どうしちゃったの? あたしがあたしが何かしちゃったんだったら謝るからお話しして欲しいな……」

 そううっすら涙目で訴えかけるララのことをフレアは、荒い呼吸音をさせて、飢えた野獣の様な鋭い眼光で睨みつける。

「これ以上僕を怒らせないでくれ、ララ・ダスティフォリア。一応恩義があるとは言え、この家を一瞬で焼き払うくらい僕には、道端を闊歩する蟻を踏み潰すくらい造作も無い事であり、今の僕ならやりかねない」

「ララ、少し静かにしていてくれ……事情はまた後で話すから。今はフレアの言う通りにしててくれないか」

 自分が何かしらこの言い争いの原因だと悟ったララは静かに顔を下に向けた。

 俺は目線をフレアに真っ直ぐ向けて質問する。
「フレア、お前はオスタリア人であり、シュメイラル王国に激しい恨みを持つ軍人って考えで合ってるか?」


 俺の質問の音波は部屋を何回か反射してどこかに消え去る。


 一定のリズムの荒い呼吸だけが聞こえる。
 ララはそんなフレアを見るわけでもなく、ただ埃被った床を眺めている。

 口の中がカラカラに乾いている。もし何かまたフレアの気に触るようなことがあれば今度こそ被害者が出る大惨事になりかねない緊張感で手汗が止まらない。

 しかし、ここでできるだけ情報を抜き取っておく必要があるのだ。

 異世界に突然転生させられただけに過ぎない俺は、シュメイラルに対する愛国心などさらさら無いが、あの国にはこんな訳のわからない俺を受け入れてくれた大切な人達が住んでいる。

 キア、ヴァイスさん、シャルルさん、ルシアさんそしてギルドの皆が居てくれたから今、俺はこうして立っているんだ。

 ――よし。


「あの剣捌きだ。しかも軍人の息子のお前なら相当の地位についていても不思議ではないと思うが?」


「――。」

「あの隷属の瞳とか言う性格破綻者もお前のお仲間か? 正直オスタリア人のことはあんまり知らないが、あんなヤローが三傑なんて呼ばれてチヤホヤされる奴が軍のトップなんて聞いて呆れるな」

「――ふっ、あの人はああゆう人間なんですよ、私も姿すら見た事が無いくらいに用心深くねちっこい」

 味方にまで姿を見せないなんて。
 もっとだ。
 もっと情報を引き出せ!


「ルークス!伏せて!!」
「――!!」



 突然の轟音が鼓膜の奥から脳を直接揺らす。

 窓側の壁が爆破され、爆風に乗って瓦礫の破片が身体中に直撃する。

 何が起こった!?


「――このボマーウォーカーは……。酷いお迎えですね。ブラッキーナ先輩」

「――クシシシシィ。おいおいおぉーーい。これだからイキった新人のお守りなんてしたくなかったのによぉーー。いきなりサシで華姫とやり合おうなんて、あちしより喧嘩っ早いなぁーぁお前ぇーー」

 またあいつの声だ。
 案の定奴らしき人影は無い。


 そして、爆煙が吹き去り、風穴が空いた方向に目を向けると、大量の歩く泥人形がこちらに向かって歩いて来るのが見える。

 なんだよ……これ。
 もしかしてこれ全部爆発するのか? 
 いやでもこの世界に火薬は無いはずだ。


「ルークスルークス。気を付けて、あのボマーウォーカーとかいう人形は体内に大量の魔導反応があるの。多分だけど魔力を詰め込んだ人形を使役して爆発させてると思う」
 魔力での爆発だと。
 しかもあの数……どうする。


「ちょっとあんた達! これはどういう事なんだい!!」
 声に反応して振り返ると、怯えたアリバナさんとローフィーさんが小さく震えながら手を握り合っていた。


 まずい。ここに居ては確実に巻き込まれる。

「ルークス、ここはあたしに任せておばちゃん達を連れて逃げて。街のみんなも避難させないと」

 ――マジかよマジかよ。どーーすりゃいい!!

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